人生は生き地獄...か?
ぬっ? 戦場の楽しみだと...?
ふんっ!! 任務の為に楽しみや余興などあるものか...と言いたいところだが。
戦場にもそれなりの楽しみというものはある。
安全圏に設置した戦場基地内で食事やちょっとしたゲーム、それに国から送られてくる家族や友人の手紙とかそれなりの生活保障はある。
まぁ、俺やハリガネ達みたいな前線部隊の兵士は敵のテリトリーに潜伏してたから余興を楽しんでいた時間があまりなかったがな。
~討伐部隊“勇者”ゴリラ隊員~
ハリガネ達は洞穴の入口付近にある岩場に身を潜め、入口の様子をうかがっていた。
「気配はするが灯りは点けていない。あの洞穴を奥で身を潜めている感じだ。ヤマナカ、背後の警戒を怠るな」。
ゴリラ隊員はハリガネ達から離れた後方の荷車内に身を潜めて警戒するヤマナカに声をかけた。
「了解っす! 」。
ヤマナカは屋根を付けた荷車の中に入り、ライフルを構えて後方を警戒していた。
「パ、パルスさん...。こ、これマジでやるつもりなんですか? 」。
ハリガネは困惑した表情で魔獣の肉を捌くパルスに問いかけた。
「はい! 奥で隠れているノンスタンスのメンバーが飢えで苦しんでいるのであれば、そこを突いて罠でおびき寄せるのが有効でしょう! 」。
パルスはそう答えながら魔獣の骨で串刺しにした大きな肉塊を用意していた。
「これで良しっと! あとは打ち合わせの通り頼むよ~! 」。
パルスが声をかけると、近くにいるチャールズとフユカワは手を挙げて応えた。
「了解しましたぁ~! よ~し、ノンスタンスのアジトへ突撃だ! フユカワ! しっかり撮っておけよ~? 」。
「うっす! 」。
「よしっ! それじゃあいくぜぇ! 」。
パルスは骨で串刺しにされた複数の肉塊に掌をかざした。
ボォォォォオオオオオオ...ッッ!!
すると、パルスの掌から火炎放射器の様に勢いよく炎が噴射した。
「今だっ! 照明っ! 」。
パルスは炎で肉を焼きながら呼びかけると、チャールズが両手を突き出し洞穴の入口に向けて真っ白な光を放った。
「シアター! 風! 」。
「は、はいっ! 」。
シアターはパルスの指示に従い、両手を突き出して強風を巻き起こした。
シアターが魔法で召喚した風は、焼かれた肉から立ち昇った煙を載せて入口の方へ向かっていった。
「上等な魔獣の肉の香りを嗅がせてやれば、根負けして洞穴から出てきますぜ~」。
「そんな上手くいくかな~? 」。
ハリガネはパルスの策に疑問を感じながら人差し指で自身の頬をポリポリと搔いていた。
「大丈夫ですって! ほらっ! 隊長達もスタンバイしてっ! 」。
「は、はぁ...」。
ハリガネはホワイトを先頭に立たせ、ゴリラ隊員と共に洞穴の入口正面へゆっくりと近づいた。
ホワイトは両手を突き出し、魔法で青白く光る防壁を召喚して後方にいるハリガネ達の盾役となっていた。
「国家反逆集団ノンスタンスの残党に告ぐッ!! 洞穴に隠れてるのは知っているんだッ!! 無駄な抵抗はせず武器を捨てッ!! 両腕を後ろに回して出てこいッ!! 」。
ゴリラ隊員はライフルを入口に向けて構えながらそう声を張り上げた。
「グレネードでも投げれるもんなら投げてみろッ!! 我々は既に副頭領ホワイトの身柄を拘束しているッ!! 一度でも抵抗したら拘束しているホワイトとお前等を躊躇なく殺害するッ!! 神妙にお縄につけッ!! 」。
「ん~、美味そうな肉の香りだな~。やべぇ、俺も腹減ってきた」。
ハリガネはホワイトの背中にライフルを向けながら焼ける肉の香り嗅いでいた。
「ア...アカン...。腹減りすぎて目が回りますわぁ~」。
ホワイトは喉元を鳴らしながら後方でパルスが焼いている肉を見つめていた。
「...むっ!! 」。
入口から七歳くらいの少年一人が姿を現した。
少年は物欲しそうに焼かれる肉を見つめ、トコトコとハリガネ達に近づいてきた。
「おいッッ!! ボウズッッ!! 止まれッッ!! 」。
ゴリラ隊員は厳かな表情でそんな少年に銃口を向けた。
「ダ、ダマエっ!! こっち来たらアカンっ!! 」。
ホワイトが静止を促すが、ダマエという少年は肉を焼くパルスに向かって歩き続けた。
「まだ子供です。パルスさん達に任せましょう」。
ハリガネはそう言ってゴリラ隊員を制止した。
「...ケッ!! お前は相変わらず甘いなッッ!! 何が起きても知らんぞッッ!! 」。
ゴリラ隊員はぶっきらぼうにそう返し、苦虫を嚙み潰したような表情でパルスから肉を受け取るダマエに睨みを利かせていた。
「ダマエッ!! 」。
後方から茶色い麻の服を着用した数人の男達がダマエを追って入口から出てきた。
ジャキ...ッッ!!
「...ッッッ!!! 」。
ハリガネ達に銃口を向けられた男達は金縛りになったかの様に立ち止まり、何も言わず即座に両手を挙げた。
「ホワイトさん...」。
ハリガネにボディチェックを受けている男達のうち一人が、恐怖で顔を引きつらせながらホワイトに声をかけた。
「ははは...。魔獣に襲われてるところ助けてもろたけど、結局捕まってしもうたわ」。
ホワイトは肩をすくめて男達に答えた。
「他の連中は奥にいるんだなッ!? 」。
ゴリラ隊員は銃を男達に突きつけながら問いかけた。
「も、もう...」。
男達の一人が肩を震わせ、その場にへたり込んだ。
「おいッッ!! 誰が座れと言ったッッ!? 」。
「も、もう疲れた...」。
ゴリラ隊員の言葉を余所に、男は地面に突っ伏してしまった。
「生き地獄だぁぁぁぁああああああああああああああああああああッッッ!!! もう一層の事殺してくれぇぇぇぇえええええええええええええええええええええッッッ!!! 」。
遂にその男は号泣しだし、他の男達も緊張の糸が切れたのかその場にしゃがみ込んでしまった。
「...」。
そんな彼等にハリガネとゴリラ隊員は厳かな表情を保ったまま、お互いの顔をしばらく見つめ合っていた。