暗闇の中にいると不安を感じますか?
最近、自分の出番が少ないような感じがしますっ!
何か自分、最近影薄くないっすかっ?
一作目は結構活躍したと思うんですけどねっ!
~討伐部隊“勇者”ヤマナカ=マッスル隊員~
ハリガネ達は辺りがすっかり真っ暗になったチェダーチーズ山中を彷徨い続けていた。
暗い夜空を見上げれば無数の星々が白く輝いている。
「おいっ!! 馬鹿っ!! 魔法で照明つけんじゃねぇよっ!! 賊人やノンスタンスにバレたらどうすんだっ!! 」。
少し離れた後方で浮遊する飛行絨毯に乗ったチャールズとフユカワがハリガネ達を尾行していた。
「いやぁ~、すんませ~ん! 暗くて何も見えないんもんで~! 」。
チャールズが白い魔法陣で周囲を照らしながらハリガネにそう答えた。
「ふざけんなっ!! 光に驚いて襲ってくる魔獣だって…」。
ボカッ!!
「痛ってぇぇえええ...っっ!! 」。
「大声張り上げんじゃねぇッッ!! 敵に見つかるだろがッッ!! 」。
ゴリラ隊員が持っているライフルでハリガネの頭部を小突き注意した。
(アンタだって大声出してんだろがっ! クッソぉ~! 兜被ってても頭に衝撃が響きやがる~! この野蛮人がぉ! )。
ハリガネは頭を摩りながら前を行くゴリラ隊員の背中を睨みつけた。
「パルス様ぁ~! 私はもう足がパンパンで歩けませんよぉ~! 荷車かあっちの絨毯に乗せてもらいましょうよぉ~! 」。
シアターが額の汗を拭い息を切らしながら横にいるパルスへそう問いかけた。
そのパルスは舌打ちをしながらシアターを睨み付けた。
「あ? ふざけんなお前。一兵士がそんな事許されると思ってんのか? 歩けねぇんだったらその場に座り込んで魔獣に喰われちまえ」。
「うわぁぁぁぁあああああああああああああああッッッ!! 死にたくないよぉぉぉぉおおおおおおおおおおッッッ!! 」。
「ちょっとっ! 御二人さんっ! 静かにしてくださいなっ! 騒がれると仲間の居場所が分からなくなりますわぁ~! 」。
ホワイトはパルスとシアターにそう忠告し自身の両目を閉じて耳を澄ませた。
「...」。
ハリガネ達は暗闇の中、目を凝らして周囲を警戒した。
「...俺は魔力の適性が無いが、確かに数人の気配がするな。つまり、この先に仲間達がいるという事か? 」。
「そういう事になりますね~」。
ホワイトはハリガネにそう答えながら前を再び歩き出した。
「俺も魔法使うから魔力感じ取れるけど、何か不気味だなぁ~。さっきから十人ちょい程度の魔力がビンビン感じ取れるんだけど...。てか、“サイレンス”で気配隠してるとか言ってなかったっけ? 」。
パルスはそう言うと魔力を嗅覚で感じ取っているかのように、周りを見渡しながら鼻を数回鳴らした。
「多分、“サイレンス”に使う魔力がもう無いのかもしれません。魔力を補充する代物も無いはずですし...」。
「...分裂した党首のデイのグループという事は考えられないのか? 」。
ゴリラ隊員は周りをしきりに見渡しながらホワイトにそう問いかけた。
「いや、考えられないですわ。アイツは用心深い奴です。こんな場所で“サイレンス”を使わず魔力剥き出しで行動するなんて考えられませんわ...あっ! あそこの洞穴ですっ! 」。
なだらかの下り坂で、ホワイトが遠くにある洞穴を指差した。
「確かに洞穴の奥から気配がするな...という事で」。
ジャキ...ッッ!!
ハリガネは装備しているライフルをホワイトの背中に突き付けた。
「え?? ...えぇっ!? 」。
「デイと別れたといってもノンスタンスだからな~。洞穴に突撃する際に、お前には盾代わりになってもらうぞ」。
「そ、そんなハリガネはぁ~ん! 」。
「確かに魔力は使えなくても、銃やらグレネードはあるだろうしな」。
ジャキ...ッッ!!
ゴリラ隊員もホワイトに銃を向けた。
「いっ!! いやいやっ!! 銃も実弾無くなったし短剣程度しか持ってないはずですよぉ~!! 」。
「手練れた剣術士であれば短剣も脅威的でありますっ! 」。
ジャキ...ッッ!!
ヤマナカもそう言ってホワイトに銃を向けた。
「いやいやっ!! 護身のために持っているだけですっ!! 仲間に剣術を心得た人間なんていませんよぉ~!! 」。
「どうかな~? ノンスタンスの人間の言う事はなかなか信じられんな~」。
「か、堪忍してやっ!! ハリガネさぁ~ん!! 」。
ホワイトがハリガネ達に詰められて狼狽している時...。
ギュルルルルルルルゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウッッ!!
腹の虫が辺りに鳴り響いた。
「あう~」。
ホワイトは疲労困憊といった表情で自身の腹を両手で摩った。
「スゲー腹の音だな。腹減ってるのか? 」。
ハリガネがそう問いかけるとホワイトは力なく小さく頷いた。
「はい...。さっきも言いましたけど、仲間達はまともに食事をしていないんですわ。僕自身も正直へとへとで...」。
「...」。
そう答えて溜息をつくホワイトを余所に、パルスは興味深しげに洞穴を見つめながら自身の顎を撫でていた。
「どうしました~? パルス様~? 」。
その様子を不審に思ったシアターはパルスに問いかけた。
「隊長ぉ~、あの洞穴をノンスタンスから乗っ取ってアジトにするんっすか? 」。
「はい、あまり長居はしない予定ではありますけどね~。あと、見た感じ荷車も全然入るくらい広そうですしね~」。
「なるほど~、この洞穴ならキッチン代わりに使えそうですねぇ~」。
「キ、キッチン...? 」。
「フフフ...。俺達の部隊は戦力もさることながら、戦場でも有意義なソルジャーライフを送る事も心得ているのさ...」。
パルスへ問いかけるホワイトに、ハリガネは不敵な笑みを浮かべてそう答えた。
「...そうだったか? 」。
ゴリラ隊員は怪訝な面持ちでそんなハリガネにそう問いかけた。
「特に隊員のパルスさんの料理の腕は達人級だからな~。魔獣で作った極上料理があるから士気も上がるってもんよ~」。
「へっへっへ~、ありがとうございやすぜ隊長ぉ~! もともと料理は趣味だったんすよね~! 軍にいてもやる事無くて退屈だったんすよ~! それで暇つぶしに始めたら凝り出しちゃって~! 今じゃ王宮料理も御手の物でっせ~! ゲッヘッヘ~! 」。
「何だ、この会話」。
ゴリラ隊員はハリガネとパルスの胡散臭い会話にすっかり呆れ返っていた。
そんなゴリラ隊員を余所に、ハリガネはホワイトに耳打ちした。
「つーか、お前が先頭に立って仲間を説得できたら狩った魔獣の肉ご馳走してやるぞ。それに空腹で苦しんでる仲間達を助けたいだろ? 」。
「そ、それは...」。
「いや、ちょっと待って隊長」。
ハリガネがホワイトに心理的誘導を仕掛けている時、パルスが神妙な面持ちで呼び止めた。
「パルスさん、どうしました? 」。
「隊長、良い方法思い浮かんだんすけど~」。
「...良い方法? 」。
微笑を浮かべているパルスに、ハリガネは怪訝な面持ちで首を傾げた。




