“それもこれも”...
...魔法使える人間はホントいいよな。
火が使えたり、日常生活も不便なさそうだし。
~討伐部隊“勇者”ハリガネ=ポップ隊長~
「オルァアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
ザァァァァアアアアアアアアアスッッ!!
ブギィィィィイイイイイイイイイイッッッ!!!
日が沈みかけているチェダーチーズ山中。
ヤマナカは巨大な長剣を振り落とし、迫り来る猪族魔獣の“アンデシン”を複数斬り倒した。
「ヤマナカッ! ナイスッ! こっちの方も討伐完了したぞッ! 」。
ハリガネは討伐した魔獣数匹を荷車に積みながらヤマナカに声をかけていた。
「いやぁ~! しかし、随分と魔獣がパルメザンチーズ山脈から下ってきてるんですね~! 」。
ハリガネはそう言いながら荷車に積み上げられた魔獣の山を眺めていた。
「何を呑気な事言ってんだ。それだけノンスタンスかハンター達が山脈周辺で暴れ回っているという事なんだぞ? もしかしたら俺達の場所まで接近しているかもしれない。気を抜くなッ! 」。
ゴリラ隊員は険しい表情で周囲を見渡しながら、厳かな口調でハリガネにそう忠告した。
「あ~! メンドクセー! “アルマンダイト”討伐なんて引き受けるんじゃなかった~! 王国の拘置所生活に戻りた~い! 飯もあったしぃ~! 布団の中で眠れるし~! 」。
「フンッ! 陛下の命令に背いた時点で即処刑される運命だろ。まぁ、後先の事を考える必要もなく永遠の眠りにつく事はできただろうがな」。
「はぁ...ん? 」。
ハリガネはゴリラ隊員に冷たくあしらわれがっくりとうなだれていると、いつの間にか布や枝で制作した屋根を荷車に付けているパルスの姿が視界に入ってきた。
「仕留めた魔獣は後でバラして整理するとして、荷物に敷いてあった大きめの布で荷車の屋根作った方が効率的だな~! ホワイトさんだっけ? ちょっと手伝って~! 」。
「はいな~! 」。
何故か縄から解放されたホワイトがパルスの荷車用の屋根作りを手伝っていた。
「おいッ!! アイツの縄解いたの誰だッ!! 」。
ゴリラ隊員が問いかけるとヤマナカが申し訳なさそうに頭を下げた。
「すっ!! すいませんっ!! パ、パルスさんの御指示でしてっ!! 」。
「なっ...!! 」。
「いいじゃなっすかぁ~! 凶悪集団“ノンスタンス”の一員とは言えど、パルメザンチーズ山脈では凶暴な魔獣と隣り合わせになるわけなんですから~! お互い協力しないと! 」。
「そ、そんな悠長な...」。
「それに何か良い人そうだし! 」。
「...」。
ゴリラ隊員はパルスによる極度のマイペースっぷりに開いた口が塞がらない様子であった。
「と、ところで二人は荷車の上で一体何をしているんですか?(俺達が命懸けで戦ってる時に何してんだ...。この人は...)」。
「布と近くに落ちてる細い枝やロープで荷車の屋根を作ってるんですよぉ~! 」。
パルスは手慣れた様子でホワイトと共に荷車を改造しながらハリガネにそう答えた。
「や、屋根...? いや...あ、あの...。まだ魔獣が潜んでいるかもしれないので、あまり無防備にならない方が...」。
「もう少しで出来るから待っててくださいな~! せっかくの冒険なんだから楽しくいかないとね~! 」。
「は、はぁ...(せっかく...?)」。
「あと、はぐれたノンスタンスの仲間達も心配だろうしね~。魔獣達に襲われないうちに見つけ出さないとっ! 」。
「パルスはん、おおきに...」。
ホワイトは神妙な表情を浮かべながらパルスに頭を下げた。
「隠れてるそいつらが逆にお前を裏切って俺達に襲い掛かってくる事も...考えられるかもな」。
ゴリラ隊員の鋭い眼差しで睨まれたホワイトは首を小さく横に振りながら苦笑した。
「はは...。それは無いですよ...。僕が連れ出したメンバーは疲弊しきっています...。それもこれも...」。
「...」。
厳かな面持ちのハリガネ達は、眉間にしわを寄せて憤った様子を露わにしているホワイトの顔を黙って見つめていた。
「...っ! 」。
周囲の視線を感じ取ったホワイトは慌てて笑顔を取り繕った。
「さ、さぁっ!! 完成しましたよっ! ほな行きましょっ! 」。
「あっ!! おいッ!! 人質のお前が先を行くなッ!! 」。
足早に歩き出したホワイトに、ゴリラ隊員は慌てて後に続いた。
「それもこれも...か。軍事刑務所であのオッサンが言ってた事以上にデイとの確執が深刻みたいだな...」。
ハリガネは意味深な面持ちでそう呟き、ホワイトの後を追う事にした。