まさかの遭遇
う~ん、何か自分が隊長っていまいちピンとこないなぁ~。
もともと柄じゃないしな~。
~討伐部隊“勇者”ハリガネ=ポップ隊長~
パルメザンチーズ山脈付近に位置するチェダーチーズ山中は緑の草木が生い茂っていた。
「フンッッ!! 」。
ズバァァァァアアアアアアアアンッッ!!!
キィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!
ギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!
そんなチェダーチーズ山中で一人の男が自身の身体よりも大きい長剣を振るい、複数の魔獣達に立ち向かっていた。
「討伐完了ッッ!! 周囲の安全確認ッッ!! 」。
ハリガネは空から襲い掛かってきた鳥族魔獣数匹を斬り倒し、近くに存在する木に背後を預けて周囲を見渡しながら隊員達にそう叫んで警戒を促していた。
「前方は安全確保ッッ!! 敵の気配なしッッ!! 」。
ゴリラ隊員は木陰に身を潜め、ライフルで周囲を確認しながらそう答えた。
「後方も安全確保ですッッ!! 」。
ヤマナカもライフルで辺りを警戒しながらそう答えた。
「チェダーチーズ山まで入っていくと、さすがに魔獣と遭遇するようになってきましたね~」。
ハリガネは剣を背中に背負っている鞘に戻し、斬り倒した魔獣の片足を掴みながらそう言った。
「この先から魔法を使ってくる凶暴な魔獣も生息しているはずだ。くれぐれも用心を怠るな」。
「そうですね、この先は火山が山脈のほぼ中心に存在しているので、火を噴いてくる炎属性を有した魔獣も潜んでいますからね」。
ハリガネは仕留めた数匹の魔獣を荷車に積みながらゴリラ隊員にそう答えた。
「しかし、ゴーダチーズ丘に魔獣が下りてきた事を改めて考えると、ノンスタンスか山脈付近に潜んでいる奴等が派手に暴れているようだな...」。
ゴリラ隊員は険しい表情でそう呟いた。
「そうみたいですね...。ソイ=ソース国の隊長から聞いた情報がその通りであるならば、“アルマンダイト”狩りのために潜伏している賊人やハンター達と遭遇する可能性も大いにありますしね...用心しないと」。
「俺達が警戒しなければいけない相手がこれでまた増えたな...。ノンスタンスに“アルマンダイト”、そしてその“アルマンダイト”の首を狙っているハンターや賊団の連中か...。頭が痛くなるな...」。
ゴリラ隊員はそう言うと苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
「それに、ポンズ王国から逃げてきたノンスタンスのメンバーと、ソイ=ソースに潜伏した残りのメンバーが既に合流している事も考えると...。更に厄介な事になりそうですね」。
ハリガネがそう問いかけると、ゴリラ隊員は小さく頷いた。
「そうだな...。もし、体制を整えられたりでもしたら...」。
ゴリラ隊員がそう言いかけた時...。
ピキィィィィイイイイイイイイイイイ...ッッ!!
ハリガネ達は急に背筋が凍る様な感覚を覚えた。
「ッッッ!!! 竜族魔獣の“アゲート”がこちらの方に急接近してきますッッッ!!! 」。
ギャァァァァアアアアアアガァァァァアアアアアアッッッ!!!
攻撃態勢に入ったヤマナカがライフルを構えた先には、恐竜の様な二足方向の“アゲート”が甲高い声を上げながらハリガネ達の方へ襲い掛かってきた。
「うわぁぁぁぁあああああああああああああっっ!? 」。
ガァッッスィィィィイイイイイイイインッッ!!
茶色い鱗を纏った“アゲート”は口を開けて鋭い牙で嚙みつこうとしたが、近くにいたシアターはとっさに両手を突き出し魔法で青白い防壁を放ち攻撃を防いだ。
ギャァァァァアアアアアアガァァァァアアアアアアッッッ!!!
「うわぁぁぁぁああああああああああああっっ!! たっ!! 助けてぇぇぇぇええええええっっ!! 」。
「“アゲート”に銃は致命傷を与えられねぇッ!! 俺がヤるッ!! シアターさんッ!! 動かないでッ!! 」。
ハリガネは長剣を素早く振り上げ、“アゲート”に襲われているシアターの救出に向かった。
「おらぁぁぁぁあああああああああああああッッッ!!! 」。
ズァァァッッスッッ!!
ハリガネの振り落とした長剣はアゲートの頭部を斬り落とし、胴体もなすすべなく地面に崩れ落ちた。
「ひ、ひぃぃぃぃいいいいいいいいいいいっっ!! 」。
シアターは“アゲート”の首が斬り落とされる光景を目の当たりにすると、飛び上がって荷車の後方に身を潜めた。
「おお~! さっすが隊長ぉ~! あっという間に魔獣を倒しちまった~い! 」。
パルスは感心したように何度も頷き、ハリガネが討伐した“アゲート”を眺めていた。
「いやぁ~! シアターさんが足止めしてくれてたから簡単に首を狩る事ができましたよ~! 」。
ハリガネはパルスにそう答えながら“アゲート”の頭部を掴んだ。
「うわぁぁぁぁあああああああああああああああんっっ!! 帰りたいよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっ!! 」。
シアターは荷車の陰で泣きじゃくり始めてしまった。
「またこれかよ...。さっきの軍隊に王国の方まで連れて行ってもらうようにお願いしておけばよかったじゃねぇかよ...」。
呆れた表情を浮かべるパルスは、号泣し続けるシアターを見下ろしながら舌打ちをした。
「ははは...」。
ハリガネがパルスやシアターに苦笑していた時...。
「北西方面に一人の男と二匹の“アゲート”を発見ッ!! 男は防御魔法で“アゲート”の攻撃を防ぎながら戦闘中ですッ!! 」。
周囲の安全確認を行っていたヤマナカは声を張り上げて隊にそう報告した。
「何ッ!? 人間の詳細を確認しろッ!! まさか、もうノンスタンスがここまで下ってきたのかッ!? 」。
ハリガネはライフルを構えるヤマナカとゴリラ隊員の下へ急いで向かった。
「...ん? あの白い服装は...ノンスタンスの副頭領“白装束のホワイト”だなッ!? しかし、何故に奴一人だけしかおらんのだ...? 他の仲間は一体どうしたんだ...? 」。
ゴリラ隊員がライフルの銃口を向けた先には、両手を突き出し魔法で発動させた防壁で“アゲート”二匹の攻撃を辛うじて防いでいるホワイトの姿があった。
「あっ!! ハリガネはぁ~ん!! ちょっ!! ちょっと助けてくださいな~!! 見ての通り只今、魔獣に襲われていまして~!! 助けていただけたら幸いなんですけどぉ~!! 」。
ホワイトは“アゲート”に襲われている最中、笑顔でハリガネ達に助けを求めてきた。
「...」。
黙ったまま襲われているホワイトを真顔で見つめているハリガネ達。
「...」。
ハリガネ達はそのまま襲われているホワイトから背を向け...。
「...」。
さっさと荷車の所へ引き返していった。
「あ、あれ...? あれぇ~!? ちょっ!! ちょっとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? ハリガネはぁぁぁぁああああああああああああああああああんッッッ!?!? たっ!! 助けてくださいよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 今にも食われそうなんですぅぅぅぅうううううううううううッッッ!!! 助けてぇぇぇぇえええええええええええええッッッ!!! ねぇってばぁぁぁぁああああああああああああああッッッ!!! 」。
「さぁ~て! ノンスタンスの主軸も消えるわけだし、日も暮れるから先を急ぎましょうか~! 」。
「そうっすね~」。
「ちょっとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 本当に助けてぇぇぇぇええええええええええええええええええッッッ!!! 」。
ハリガネ達に置いて行かれるホワイトの悲痛な叫び声が周囲に響き渡った。




