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貴族の戯れ...?


挿絵(By みてみん)


さて、王国を追放されて色んな人達が魔獣討伐に参加してくれたわけで、マジ感謝なんだけど...。


一体、どうなる事やら...。


ん? 寝床??


いや、全然大丈夫よ。


テントもあるし、寝具もあるし。


人数もいるから交代制で周囲を見張ってもらって、残りの人は仮眠を取るって感じだね。


え? パルス長官??


いや、さすがに見張りなんか任せられないよ~。




~討伐部隊“勇者”ハリガネ=ポップ隊長~




竜族魔獣である“アルマンダイト=ガーネット”を討伐すべく、ハリガネ率いる討伐部隊“勇者”はパルメザンチーズ山脈へ向かっていた。


そんなハリガネ一行は荒野を歩き続けながら、道中で談笑を交わしていた。


「へぇ~! ゴリラさんは歩兵部隊の一部隊“ガレージ”の“元隊長”だったのかぁ~! じゃあ立場的には“隊長”の上官だったわけかぁ~! 」。


鎖式の鎧を着用しハリガネと共に歩きながらそう話す男の名は、伯爵の称号を持つ貴族にして現在はポンズ王国軍の高官であるパルス=イン八世。


軍の機関である対魔獣危機管理局の長官でありながら、()()ハリガネ達の後を追って魔獣討伐に共闘する事となった。


「ええ、まぁ...」。


ハリガネは恐縮しながらそうパルスに答えた。


「そんなに畏まらなくてもいいって~! この部隊では“勇者”隊長がトップなんだからさぁ~! 」。


改めて説明するが、“勇者”とはハリガネがポンズ王国の兵士として配属していた時の愛称である。


「は、はぁ...」。


「ねっ! ゴリラさんっ! 」。


パルスはゴリラ隊長改めゴリラ隊員にそう呼びかけた。


「え? え、ええ...」。


ライフルを構えながら周囲を警戒しているゴリラ隊員は、一瞬戸惑った表情を見せたがパルスにそう答えた。


(軍機関の長官っていう地位にいるのに随分とフランクだなぁ~。歳も俺とそんなに変わらなさそうだし...。つーか、ゴリラ隊長なんか機嫌悪そうだな...。この隊では俺が隊長になって上官だった立場の自分からしたら思うところが色々あるかもしれないけど、俺を隊長に決めたのは当のゴリラ隊長なんだよなぁ~)。


口を真一文字に結ぶ言葉少なげなゴリラ隊員を横目で見ながら、ハリガネはそう思っていた。


「それで、ヤマナカ君...だったっけ? 」。


荷車を牽いているヤマナカにパルスは不意に横から話しかけた。


「...え? あ、はいっ! 私っ! 元ポンズ王国配下歩兵隊兵士っ! ヤマナカ=マッスルでありますっ! 王国兵士として仕えていた時はゴリラ隊長...もとい、ゴリラ隊員と軍曹...もといハリガネ隊長の部下にあたりますっ! 」。


ヤマナカもハリガネと同様、隊内の組織関係が従来より大分変化しているせいで混乱している様子であった。


「...」。


ゴリラ隊員も複雑な心境なのか、表情を曇らせて黙ったままライフルで周囲を見回していた。


「へぇ~! 王国兵士だった時も隊長の部下だったわけね~! 」。


「はいっ! そうですっ! 」。


「そうかぁ~! まぁ、同じ隊員としてこれから頑張っていこうじゃないかぁ~! 」。


「は、はいっ! よろしくお願いしますっ! 」。


パルスとヤマナカは挨拶を終えると、お互い握手を交わした。


「そ、それで長官...。こ、こちらの方は? シアターさん...でしたっけ? 」。


ハリガネは泣きじゃくるシアターに視線を移した。


「隊長ぉ~! 長官はいいって~! それにコイツの事も“さん”付けしなくてもいいって~! 」。


「は、はぁ...」。


ハリガネはパルスのテンションに圧倒されている中、シアターが手で涙を拭いながらハリガネ達の方へ向き直った。


「グスっ...。み、皆さん...。自己紹介が遅れて申し訳ありません...グズっ...。わ、私はパルス=イン様の側近を務めています...。シアター=アローンです...。よ、よろしくお願い致します...グスンっ」。


シアターは泣き続けながらそう言って深々と皆に頭を下げた。


「お前、いつまでメソメソしてるつもりだ? お前はただでさえ実戦経験が無いんだから...役に立たないなりに部隊に貢献しろや、コラ」。


「え? 実戦経験が無い...? 」。


パルスの言葉にハリガネは眉をひそめながらそう聞き返した。


「はい...。私は軍人でもなければ兵士でもないので...。それに、僕は魔法は使えますけど戦闘系の魔法はあんまり使えないわけないわけでして...その...」。


シアターはいじいじしながら、そう答えてうつむいていた。


「隊長ぉ~! どうします~? やっぱ帰らせますぅ~? 」。


「そ、そんなぁぁああああああああああ...っっ!! 一人で戻るなんて無理ですよぉぉぉおおおおおおおおおお...っっ!! 飛行絨毯も燃え尽きてもう無いし...っっ!! 途中で賊人に襲われたりでもしたら助からないし...っっ!! 無事に王国へ辿り着いたとしても責任問われ...。そして、屋敷からも追い出され...。挙句の果てには社会的にも抹殺されちゃいますよぉぉおおおおおおおおおおおおおお...っっ!! 」。


顔を真っ青にして頭を抱え、その場で悲壮感にさいなまれるシアターに対し...。


「じゃあ、死ねよ」。


パルスは真顔でシアターの心に無慈悲な一撃を与えた。


「うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああッッッ!! 死にたくないよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!! 」。


シアターは天に向かって再び号泣しだした。


「...」。


そんなシアターを見つめているハリガネは、自身の頬を人差し指でポリポリと搔きながら困惑していた。


「おい、お前隊長だろ? さっさと注意なりして隊をコントロールせんかい。こんな荒野にずっと突っ立てたら危険だろうが」。


ゴリラ隊員はハリガネを横目で見ながらそう促した。


(チッ...!! このパワハラ元上官がッ!! 俺に厄介事ばっか押し付けやがってッ!! )。


ハリガネはゴリラ隊員を一瞥し、シアターの方に視線を戻した。


「ま、まぁ、シアターさんも行くという事で...。それで戦闘系の魔法が使えないと言ってましたけど、どういった魔法が使えるんですか? 」。


「グスっ...。回復魔法とか一通りの治療ができます...。あとは防御とか妨害系の魔法も使えます...グスっ...。僕はパルス様みたいに魔法陣があまり扱えない魔法使いなんですが...」。


シアターは手で涙を拭いながらハリガネにそう答えた。


「ほう~! そうなると衛生兵みたいな立ち位置になるわけですかぁ~! それは心強い! 僕等は魔法を使えない物理攻撃中心の武闘派の戦士なんで頼もしいなぁ~! 魔法が使えるだけでも十分戦力になりますよぉ~! それに、人数も多い方が断然良いですしね~! 」。


「い、いやぁ~。皆さんの身の回りのお世話をさせていただければと...」。


シアターは少し照れ臭そうな様子でハリガネにそう答えた。


ハリガネによるトークのおかげか、シアターは少し元気を取り戻したようだ。


「あ、そういえば...。さっき、シアターさんは長官みたいに魔法陣があまりに扱えないって言ってましたけど...。長官も魔法をお使いになられるのですか? あ、でもさっき掌から炎を出してましたよね~」。


「だから隊長ぉ~、パルスでいいってば~。まぁ、一応魔法は出せるけどね~」。


「あ、すいません...。でも、魔法陣も使いこなされるって事は魔術師なんですね~! いやぁ~! 羨ましいなぁ~! 」。


「そう? 俺は剣士や武闘家とかの物理やフィジカルで対抗する武闘派の戦士の方が良いと思うんだけどな~」。


パルスは腑に落ちない表情で素っ気なくハリガネにそう答えた。


「...? そ、そうなんですか? 」。


「俺、今となっては機関の官職やってるけど...。戦争中は防衛部隊の兵士として現場にいたんだわ~」。


「あ、はい...存じ上げております」。


「あ、知ってたんだ~。それで話を続けるけど、防衛部隊はずっと王国に引きこもってたから最前線で戦ってた隊長達が羨ましくてね~! やっぱり兵士は侵攻する前線組の歩兵部隊と騎兵部隊でしょっ! 魔術師に認められたって嬉しかぁないやいっ! 」。


「は、はぁ...。で、でも、長...パルスさんも防衛部隊で指揮を執られて、敵軍や賊団の討伐に成功して王国に貢献されてきたじゃないですかぁ~」。


ハリガネがそう言うと、パルスはおどけた表情を浮かべながら小さく溜息をついて肩をすくめた。


「いやいや~、実際は前線部隊が敵地へ積極的に侵攻してくれてたからさぁ~。敵軍側は防戦一方であまり攻めてこなかったし、当時から同じく前線で戦ってた魔術部隊が活躍してたから俺等の部隊はそんなに役に立ってなかったんだぜ? ずっと国王の城敷地内を歩き回ってたわ~。もう散歩だよ、散歩」。


「え、そうだったんですか? 」。


「もう、防衛出動もなくて暇でさぁ~! 城内を歩きながらずっと欠伸してたなぁ~! もう、城の敷地内にずっとひきこもりっぱなしって感じでさぁ~! 」。


「は、はぁ...。そ、そうだったんですか...」。


「騎士団の奴等なんかもっと酷かったぜぇ~? 仕事らしい仕事しないで街中でナンパやホームパーティーのオンパレードだよ~。当時は貴族の食事会も頻繁に開催されてたからなぁ~。俺も一応は貴族だからメンツもあって、少しだけだけど参加してたよ~」。


「は、はぁ...(そういえば、ノンスタンスが侵攻してきたのにサクラダ卿も率いてる騎士団のAT05とレストランの女給を口説いてたらしいしなぁ~。もともと、そういう習慣があったのか~。なるほどねぇ~)」。


「だから、さっきの話に戻るけど前線での戦闘に憧れていたわけさ~。それで一応は王国兵士の端くれってわけだから、オラも戦士として何かを成し遂げたかったわけよ~。やっぱり戦士の華は剣とかの武具でしょう! 」。


「オ、オラ...? 」。


「剣や銃こそ戦士の心っ! 心身共に強くあれっ! 自他に厳しく歩む戦士道っ! いかなる敵が待ち受けているかっ! それは魔獣か? 人間か? う~ん!! 未知なる冒険の始まりにオラ、ワクワクすっぞ!! 勇者隊長ぉ~!! 早く先を急ぎましょうぞぉ~!! 」。


(だ、大丈夫かな~?? あ、でもパルス長官に何かあったら仮に“アルマンダイト”討伐したとしても、王国に戻った時にその責任を問われて俺は殺されるんじゃないか? はぁ~、こっから先は長官の安否も気にしないといけないのか~。今からお帰りいただく事は...無理かもな~。何かやる気満々だし...)。


ハリガネは鼻歌を歌いながら軽快な足取りで歩いていくパルスの背中を見て、そう思いつつ大きな溜息をついた。





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