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週末、夜さりに夢を見る  作者: 藤見 ときん
中央競馬 美浦トレーニングセンターにて
12/16

閑話 はじめての競馬場@附田ジュニアカップ

クリンチャー、お誕生日おめでとう。愛しの菊花賞二着馬。愛しのお馬さんの息子さん。8歳で重賞連覇。そして彼を導いてくれた川田さん、ありがとう……。


あっ、(今月は)初投稿です。

もう秋になるっていうのに、暑くて暑くてしょうがない。


エアコンの効いたミニバンから降りると、焼き付くような陽射しが照り付けてくる。UVカット仕様の上着とはいえ、ここまで暑いとなるとちょっと不安。

温暖化を目の当たりにするかのような気温と、わざわざそんな日に外へと連れ出してきたアタシの彼氏に、ほんのりため息。


「ちょっと、こんな暑い日に外デートって……それマぁ?」

「まあまあ、頼むよユイちゃん。今日マジ大事な日だからさ!」


ちょっと大人な動物園だよ。そう言われて連れてこられたのは、寂れた競馬場だった。

そもそも自分の地元にこんな場所があったなんて、思いも寄らず。出かけるといえば、車で三十分かけてショッピングモールに行く、とか。付属の映画館で旬が過ぎたメロドラマを見る、とか。その程度でしかないと思っていた。


しかし、初めて彼氏から「一緒に行きたい場所がある」と言われ、ちょっぴりワクワクしながら車に同乗すれば、これである。昇りつつあったテンションが急激に落ちていくのを実感した。


「……デートに競馬場って、どないなん?」


思わず感情を顔に出して言うと、彼氏のショーくんはご機嫌取りのためなのか、ソフトクリームを買ってきてくれた。真っ白なミルク味のそれをぺろりと舐めながら、じとっとショーくんを見つめてみる。


「美味しい?」

「…………まあ、美味いけど」

「ほんと?よかった!意外と競馬場のご飯とかデザートって侮れないんだよね」


マイペースなショーくんはいつもこうだ。結局アタシが折れて振り回される側。仕方がないか、と思って一緒に楽しむ羽目になってしまうのはもう慣れっこだけど。


ショーくんはリンゴ味のシャーベットを口いっぱいに入れながら、アタシの手を引いて競馬場の案内を始めた。どうやら、馬券は買わないみたい。曰く、「ハタチにならないと買えないんだよね。でも見るだけでも面白いよ」とのこと。お金も賭けずに何を見るんだと思ったけど、その場では大人しく不平不満の言葉を飲み込んだ。


「……ひと、多いね」

「あ、気付いた?今日はね、特別なレースがあるんだよ。重賞レース!」

「……なんかすごいってこと?」

「選りすぐりの馬だけが走るってこと!」


ほう。どうやら珍しいレースになるらしい。アイスが滴るコーンの先っちょをぽいっと口に投げ入れて、室内からまた外へと向かう。かなり近くで、何頭かの馬がぐるぐると同じ場所を回されてたのが見えた。


「ここで、馬の調子を見たりする」

「ふぅん、そう」


腕を組んで、ショーくんはいつになく真面目な顔をしていた。どこからか取ってきたのか、パンフレットを手渡してくれる。けれども中身は文字ばっかりで、どの馬がどの説明がされているのかさっぱり分からない。


「ん~……ユイちゃんの推しはどれ!?」

「ええ?突然言われても分かんないんだけど」

「直感!ビビビッときたやつでいいからさ!」


そうは言われても、馬を見極める審美眼のようなものはない。はたまた、なにがどういいのかといった知識もない。困ったところに、一頭の馬が目の前を通りがかった。


「あ」


右目が透き通った春の空みたいに、明るい水色をしている馬だった。毛は真っ黒なのに、片目だけは綺麗に真っ青。それに、どこか気取って歩いているようにも思えた。レッドカーペットを歩く映画スターみたいに、足首を曲げて歩いている。

ただ歩くだけでこんなにも個性が出る馬がいるのか、って思う。ちょっと面白い。


「あの馬」

「お?あ~あの馬はね、今んとこ二番人気くらい!愛嬌あっていいよね」

「名前、どれ?」

「ん~とね、それ貸して。8枠の9番だから……」


ショーくんはパンフレットみたいな、新聞みたいな記事を広げて指さした。その間に、アタシはスマートフォンを取り出して写真を撮る。ちょっと背伸びをする必要があったけど、この前カメラ機能がいい感じのものに機種変更をしておいてよかった、と思ったりもした。カメラ越しに、二色の目とぱっちり目が合う。


「──8枠9番、ヨサリオーロだって!」


ぱしゃ、とシャッターを切る。その馬はなんとも奇妙なことに、カメラを向けた瞬間にくっと口元を引き上げて、視線をこちらへと向けた。

馬は隣を歩く飼育員みたいな人の腕を、自分の首を使ってグッと引っ張る。男の人はびっくりしていたけど、その馬は喜色満面といった感じでこちらを見ている。


まるでこちらが何を求めているのか、分かっているような感じ。


「…………ファンサできる馬じゃん、すご」


少し画像を切り取って、色味を加工して。黒い毛並みと青い目が映えるようにしたら、ちょっとワクワクする気持ちを抑えて、アタシはSNSの投稿ボタンを押した。


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@yuyu_831

ファンサする馬いた。

#ヨサリオーロ

#附田競馬場 なう

#推ししか勝たん ♡


6 いいね

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12話がかなり難産なのでお茶濁し。ちょっと待ってね。

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