表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日あなたは私に愛を捧げた  作者: 有沢ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/26

17


「お嬢さんと……その男だけかな? 他には誰も?」


どうしよう、どうしたらいい?

シエラは冷や汗をかいて黙り込む。

何を答えても、言質を取られる気がした。


「ふむ、その男が何か無体を働いたのかな。君は自分を魔力で守った。そうだね?」


肯けば、魔力があることを認めることになる。

否定すれば、暴力事件だ。

やはり何も言えないままのシエラに、司祭はにんまりと笑った。


「よろしい。僕が君を保護しよう。来なさい」

「あの、私、帰らないと」

「いいとも、この事件の事情を聴いてからね。明確に、暴力が使われたわけだから」

「では軍部を!」

「いいとも、さあ、君、騎士団を呼んできたまえ。場所は、オーバル教会だ」



はい、と楽しそうに答えたリーリアは、蔑むような視線でシエラを見た。


「これで二度と私の前には現れないわね、お前。

 本当に目障りだったわ。

 ごきげんよう、せいぜいあちらでお役に立ちなさないな」


そして、弾むような足取りで去っていった。









事件や事故の解決には、防衛庁のいずれかの組織があたる。

だが、その被害者を保護し、必要があれば引き取り先を探すなど、環境を整えるのは教皇庁の管轄だ。

シエラは今、犯罪を犯した側か、保護される側か、どちらかに立たなければならない。


一度犯罪歴がつけば、軍には入れなくなる。

選択肢はひとつしかなかった。



「来るんだ」


腕を引かれ、シエラは大人しく頷いた。









教皇庁舎に併設された教会に連れていかれ、一般人は入れない通路から、奥の部屋に案内される。

中にいた何人もの司祭が、それを驚いたように見ていた。


座って待てと言われ、しばらくすると、老人が二人、入って来た。


「おお、おお、よくやった」


興奮につばをとばしながら、明らかに格上の白い祭服(キャソック)に、金糸の(ストラ)をかけた男たちが、シエラを無遠慮に眺める。


「おい、ラウル、あれを」


ラウルと呼ばれた、シエラをここに連れてきた細目の男が、見覚えのあるものを取り出した。

魔力測定器だ。


前回は、口伝えと測定器の痕跡で報告されたものが、ここではっきり数値で認知されてしまえば、シエラの処遇は複雑なものになる。


軍の保護はあくまで取り調べの一環であり、立場を明確にするものではない。


それに対して、被害者保護の名目で連れてこられた今、魔力のことが記録に残れば、それを盾に身柄を留め置かれる可能性が高い。

なんとかして拒否できないだろうか。


「あの、帰りたいのですが」

「いいともお嬢さん。どこへだね?」


にんまりと老人が笑う。

それで、彼がシエラのことを思った以上に知っているのだとぞっとする。

父親が拘束されていること、もしかしたら、家出中であることも調べられているのかもしれない。



「ローズ情報部大佐(カーネル)を呼んでください。

 私の保護者です」

「おやおや、両親がいるのに、軍に保護者がいるのかい?」

「私は被虐待児です、軍預かりになっています」

「それは大変だ。そうした子供は、うちで面倒をみることになっているんだよ。

 さあ、安心して、ここに手をのせるんだ」



何を言っても、手ごたえがない。

子供の戯言に付き合う大人のような顔で、いなされてしまう。


ラウルがシエラの手首を、やんわりと、だが有無を言わせない目つきで掴む。




その時だ。

ざわめきが近づき、何事かとみんなが入り口を見ると同時に、バァン!と扉が開いた。


「邪魔するぜ」

「ローズ大佐!」

「うちで監護されている人間が、暴力被害にあったと聞いてな。

 犯人の自白の裏付けに、被害者の聞き取りをしなければならない。

 うちで連れて行かせてもらう」


入って来たのは、大佐と、それからセヴィランだ。

入り口に集まり始めている司祭のなかに、アーロンドの顔がある。

最初に冷たい水を飲ませてくれた時と同じ、心配そうな、でも安心させてくれるような顔をしている。

彼が知らせてくれたのだろう。

きっと、リーリアは報告をしていないだろうから。



「何の権利があってだね?」

「そちらこそ、なんの権利がある?」

「あるとも。こちらは、事件の際に大きな魔力を測定している。

 そちらが彼女を保護しておきながらこの事実を隠していたのなら、隠蔽の疑いを免れない。

 まさか軍人にしようとしているのではあるまいな?

 このような小さな子供を。

 それは、人道的にまったく許されないことであるぞ。

 なれば……当教会で保護するのだ筋というものだ」


「言いがかりもはなはだしい!」


「おやおや、幼い子供の保護が、言いがかりだと。これはこれは、軍の思想が知れますな。

 なんにせよ、魔力を測定すれば済む話。

 なければないで、これらの疑いも晴れましょう」


押し問答をするには、状況が悪い。

ここはすでに教皇庁の手の内で、ミシェル・ヨーデリンに関する暴行事件は事実として起こってしまった。




もし教会に取り込まれれば、赤竜を探しには行けない。

魔力を取り戻せない。


今のままでは、三年後の戦争に勝てない。

同じ未来をたどってしまうのだ。


そして、レアンドル王子もまた、まもなく死ぬ。


結局、未来は変えられないのだろうか。





「教皇様への良いお祝いになろう」


老人がニヤリと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ