97.二度目のチャレンジ
その光景を見た同級生たちの大半が言葉を失った。蛍たちですら、笑うことはできなかった。自分が同じ境遇に遭ったなら、狂人男の猛攻から逃げ切る自信はなかった。
チャレンジ失敗によりプログラムが停止した後、狂人男は禍々しい光の粒子となって散った。
コントロール核には、のぞみの生命反応を示すライトが灯っている。それは、黄色からオレンジへと移行していた。即死を意味する黒ライトでなかったのは幸いだった。
のぞみの安否を確認すると、咥え煙草をしていた義毅もホッと胸をなで下ろす。
心苗たちが騒いでいると、ティフニーも義毅の元へ駆け寄ってきた。さすがのティフニーは、取り乱した様子もなく落ち着いて訊ねる。
「先生。今のは通常見られる機元端の異常ではありませんよね?」
義毅は頭を掻きながら、一瞬見えた空間の歪みを思い出す。プログラムの停止とタイミングを合わせ、男が姿を消したのも気がかりだった。誰かがチャレンジプログラムの作動に合わせた仕掛けをしたのであれば、証拠すら残さない暗殺行為だ。だが、情報不足の状況で何かを断言することはできない。義毅は気軽な調子で応えた。
「さあなぁ。機元端の作動を導く聖霊の悪戯かもしれないぜ」
ティフニーは義毅の心の内を理解し、フォローするように言った。
「それでは、聖霊は急にご機嫌斜めになられたんでしょうね?」
のぞみとともにチャレンジプログラムを開始した人々も、制限時間を終了していた。八名の挑戦者のうちチャレンジに成功したのは、リンム・ライ、鄧昭瞬、舞鶴初音、ジェニファー・ツィキーの四名だけだった。
「先生、のぞみさんは大丈夫でしょうか?」
のぞみの安否を心配している藍が、義毅に訊ねた。
義毅がコントロール核のオレンジライトのボタンを押すと、のぞみに関する生体情報が広がった。血圧、源気数値、源紋パターン、心電図、脈拍、傷の箇所、脳波、魂魄などから、義毅はのぞみの容体を判断する。
「神崎は大丈夫だ。傷は多少負っているが、重体とまではいってないぜ。体力回復のスキルを使えばすぐ動けるだろうが、精神的に疲れている。念のため、ケアの必要があるかもしれないな」
「私、見てきます!」
藍はリングに設置されている転送ゲートへと走り去る。その後を、メリルが追いかけた。
心苗たちの間に動揺が走っていた。騒ぎを静めるため、義毅は三度、手を打ち鳴らす。
「全員集合!!」
義毅の大声を聞いて、リングに点在していた心苗たちが集まる。義毅も第一階段席の通路へと飛び出た。
「まだチャレンジしてない者はいるか?」
混沌な雰囲気の残るなかで、心苗たちの反応は薄かった。全員のチャレンジを見ていたティフニーが、代弁者となって報告する。
「私を含め、あと5人やっていません」
「そうか。時間はまだたっぷりあるからな。二度目のチャレンジをしたい者は挙手しろ」
のぞみに起こったような異常事態が、自分の身に起こる可能性もある。二度目のチャレンジをする者はいないかと問われ、一旦は静まった心苗たちの間に、新たな動揺が走った。
修二、京弥、ルル、綾たちは、異常事態に対する恐怖心をすでに乗り越えていた。心苗たちの中には、チャレンジプログラムを何度でもやりたいと思う勇者も少なからずいる。
修二はのぞみのことを気にしていたが、それでもやはり、戦闘欲には勝てなかった。
想像どおりの心苗たちが挙手したので、義毅は爽やかに笑みを広げる。
「なるほど。二度目のチャレンジをしたい人は、空いているステージに入って良いぜ。ただし、一度目にクリアしていたとしても、二度目にクリアできなければ罰ゲームを受けてもらう」
それを聞き、修二たちはさらに闘志を燃やした。