93.祓い踊れ!日月明神剣! ②
「限界が近いかも?折れる前に創りなおした方がいいかな……」
のぞみは二本の刀を、源気のエネルギー体に戻す。
「次はたしか、ハルオーズ人の骸骨が8体ですね。先にあれを創ってみようかな」
のぞみは体から湧き出している源気を増大させると、両手の親指を並べて前に添える。そこに、銀の盾が現れた。
第3ラウンドが始まり、鈍器や蛮刀、長物に釘のついた武器などを持った魔獣たちが現れる。骸骨たちは顎の骨を動かし、カツカツと恫喝するように鳴らした。
のぞみは二枚の盾を宙に浮かべる。
8体は一斉に攻撃を開始した。盾はのぞみを守るように左右の攻撃を受け止める。正面から来た骸骨が蛮刀を振り落とすと、のぞみはサイドチェンジし、新たに創った金の刀で攻撃を防ぎ、左手の逆持ちにした銀の刀で斬り払う。そして体をもう一回転すると、時計回りの追加斬撃で、前方の4体の骸骨を振り飛ばした。
骸骨はバラバラのままステージの結界に当たり、光の粒子となって散った。
のぞみは身を引き、宙に浮かぶ盾で鈍器の攻撃を防ぐ。さらにその盾で、骸骨を倒した。
防戦に走ると思われていたのぞみの戦う姿を見て、見ていた心苗たちは驚きのあまり言葉を失っていた。
ルルは蛍に向かって問いかける。
「蛍……。これはあの日、あんたと戦ったのと同じ人かしら?」
蛍は目をパチクリさせ、冷や汗を流すばかりで、声を出すこともできずにただステージを眺めている。
マーヤは現実を認めたくないのか、首を振った。
「嘘だろ!あの弱虫女が、こんなに戦えるのか?!」
戦闘に集中している様子ののぞみを見て、綾は口角をぐっと上げた。
「対象が変わっただけでこれほど戦えるとはな?面白い人や」
綾はそのまま蛍に向かって言った。
「森島、あんたまだあのバトルで神崎に勝てたと思ってるんとちゃうやろな?」
「う、うるさい……」
焦った蛍は、反撃の言葉や、のぞみに勝ったという満足を忘れ、虚無感に襲われていた。
「これがノゾミちゃんの、自然体の戦いヨン?」
のぞみが魔獣を斬り払う音に、メリルは耳を立てた。素早い斬り筋を凝視しようと、つい目を鋭くさせる。
藍も目をキラキラと輝かせてのぞみを見ていた。
「……綺麗、まるで魔を祓う舞踏みたいです」
「それは神楽のことヨン!」
藍はメリルの言葉に頷いた。
「まさしく巫女ですね。でも、あれだけの技を繰り出す体力はどこから湧き出してくるんでしょうか?」
平常心で魔獣に挑むのぞみを、ティフニーが温かい表情で見守っている。
「藍さん、よく見てください。神崎さんは戦いに緩急をつけて、体力を回復するための時間を作り出していますよ」
「たしかに、それぞれのラウンドをクリアするための時間の半分以上は、技の準備と回復に使っていますね」
「ええ。次のラウンドに進むための体力を確保するために、彼女は色々と工夫しているようですね。骸骨が消滅するレベルのダメージは与えず、骨を組み直している時間に『気癒術』で体力と傷の回復をしたり、魔獣の死角を利用して魔獣から与えたダメージとスタミナの消費を最小限に抑えたりね」
ティフニーはいつも通りの優雅な物腰に、理知的な一面を覗かせる。
「それに、盾を使って攻守のバランスも取り、彼女なりに絶妙なペースを保とうとしているでしょう?それらすべては、彼女が戦いを継続させるために練った作戦なんでしょうね」
ついでに、と真人が説明する。
「この作戦は、太刀筋の出来に左右される。二刀流は利き手を多用する者が多い。彼女は左もよく技を繰り出している方だろう。実用性はどれも高いから、時折、斬り筋が浅くなるという未熟さを克服した時が恐ろしいな。仮にあれだけの技を人間に使うようになれば、間違いなく、大量殺戮の剣術としてカテゴライズされるだろう」
藍は、午前中とあまりに異なる戦いぶりを見せるのぞみを好ましく感じ、ティフニーに訊ねる。
「ハヴィテュティーさんは、のぞみさんに何か助言をしたんですか?」
ティフニーは、にこにこと微笑みを返した。
「少しだけ、ヒントをお話ししただけですよ」