92.祓い踊れ!日月明神剣! ①
「ノゾミちゃんが本領発揮するヨン!楽しみだヨーン!」
メリルは先にチャレンジに成功していた。制服は汚れ、シミが残っていたが、戦闘が終わり、瞳は丸く穏やかになっていた。
「カンザキ!頑張れよ!」
一方、ヌティオスはチャレンジに失敗していたが、上の両腕を使って大きな旗を凧のように揺らめかせて叫んでいる。その表情からは罰ゲームの心配など微塵も見られず、ただただのぞみのチャレンジを全力で応援していることが伺えた。
リング状になった平台の辺りに立っている修二も、口に手を添えて声をあげる。
「そんなダミー魔獣、遠慮なく打ち倒していいぜ!」
「あの女が二刀流?」
のぞみの構えを見て、蛍は腕組みをした。クリアは蛍の側でせせら笑っている。
「ふ~ん?力もないのに二刀流なんて。あの程度の実力じゃ、第3ラウンドまでで失格しになるんじゃない?」
マーヤは両手を腰に当てて嘲笑った。
「ハハ、痛みに耐えきれず、時間切れになる前にギブアップするような弱虫じゃ、大型魔獣相手に、ビビって動けないんじゃないか?」
クリアとマーヤはすでにチャレンジに失敗していた。蛍は窮地に立たされたが、第10ラウンドまで生き延びた。鋼のゴーレムとの交戦中、時間が来て、チャレンジプログラム成功となった。体が傷だらけになり大ピンチに陥ったが、ルールに助けられた形だ。蛍にとっては成功さえすれば、傷も痛みもどうでもいいらしい。乱れた息を整えていたところ、見たことのない構えをするのぞみがステージに立っているのを見つけた。
「チャレンジに失敗したんやろ?あんたらに、他人のことを笑う資格なんかない」
すでに近くまで来ていた綾に、マーヤはゾクリとして身を引く。
「風見か?」
クリアは鼻で笑った。
「ふふ、チャレンジには失敗したかもしれないけど、まだ余裕があるわ!第16ラウンドで4頭の大型ワイパーン相手に、窮地に追いこまれたあんたと違ってね!」
生真面目な顔をしている綾は、涼しく笑った。
「ふ、クリアした私に対して、余裕があるやて?そう言いながら自滅したのは、慢心が招いたことやろ。評価以前の問題やな」
「何ですって?!二度目のチャレンジチャンスがあれば、今度こそあんたを越えてみせるわ!」
「同じようなことばっかり何回も聞いて、耳が詰まりそうやわ」
のぞみとともにチャレンジするのは、リンム・ライ、鄧昭瞬、吉田悠之助、舞鶴初音、ジェニファー・ツィキー。他にも男女各一名の心苗がスタートポジションに立っている。
スタートの音が響き、6体のクラグンドが現れた。左右に各2体、前方にも2体いる。のぞみは先制攻撃をせず、魔獣たちの攻撃を待ち、しっかりと刀を構えた。
左から二番目のクラグンドが触手を差しのばす。のぞみはそれを左手の刀で受け止めると、瞬時に右手の刀を振って斬り落とす。次の瞬間には床を蹴り、左の2体のクラグントの間まで跳ぶ。そして、2体のクラグントの後ろで足を止めた。
「『日月明神剣・鋩たち』」
切り裂かれた2体は、そのまま粒子となり散った。
(そして……)
のぞみは他の4体のクラグントに背を向け、そこで5秒を過ごした。
「ふん、悪あがきね。そんなところで止まるなんて隙だらけだわ!」
クリアに同調する者も多かったが、
「ちゃうやろ」
と綾は、生真面目な表情のまま、のぞみの戦法に思いを馳せていた。
クラグンドが攻撃するところを、のぞみは目では見ていなかった。しかし、絶妙なタイミングで振り返る。直撃してきた触手は、のぞみに辿り着く1メートルほど前で、何かに切り飛ばされた。
のぞみは速やかに爪先で地面を踏み、一回転すると、二つの剣気を振りだす。
「双暈!」
触手を斬られたクラグントは、剣気を食らうと爆散した。
「ほう?なかなか筋がいいな」
ダメージを受けた魔獣を消し去ったライは息も乱さず、鷲手に握った両手と足腰の構えを整える。第2ラウンドをクリアした彼は、次のラウンドが始まるまでの間、余裕ありげにのぞみを見ていた。
のぞみは残る2体のクラグンドも斬り捨てる。
閉じた扇子をヤリギントスの体に刺しながら、鄧も涼しい顔でのぞみを見ていた。
「これはこれは、本日の注目心苗は彼女ですね」
しばらく体を動かしていた魔獣は、大きな口を開け、鄧に噛みつこうとした。しかし、その口が開いた瞬間、一点に凝縮させられた源が注入され、魔獣は体内から爆発した。
より近くのステージにいた悠之介は、頭を床につけるとブレイクダンスのように素早く体を回転させ、近寄ってくる骸骨を蹴散らす。その後、一旦動きを止めると前転し、立ちあがったかと思うと、回転蹴りでもう一度寄ってきた骸骨を蹴り倒した。脛骨が折れた骸骨は、もう再起することができない。ダンスを楽しむように、悠之助はのぞみに呼びかけた。
「お~い!神崎さん!二刀流は凄いっスね!!」
そんな悠之介の声はまったく聞こえていないのか、のぞみは第2ラウンドのヤリギントスとの交戦を始めていた。のぞみはトゲによる射撃を身軽に避け、一番右にいたヤリギントスのさらに右側へと着地する。同類に向かってトゲを撃たないというヤリギントスの習性を活かし、攻撃の死角に立ったのだ。
クールダウンのための時間を稼ぐと、のぞみは銀の刀を前に、右手に持った金の刀は体に沿うように左の腰に回し、中段に構えた。
床を蹴り、のぞみは突進する。翳した銀の刀は障害物を防ぎ、攻撃の本命は金の刀だった。のぞみはヤリギントスの首を狙う。
<グゥオオオオ!!>
のぞみに斬られた魔獣は、苦しげな咆吼をあげながら消えていく。残ったヤリギントスは、二足で立ち、前足を使って爪で攻撃を仕掛けてくる。のぞみは一回転し、刀を使って爪撃を弾くと、魔獣の体勢を崩させた。
好機を逃さず、のぞみは後ろ向きにバク転し、着地と同時に膝を低く曲げる。その体勢のまま、二本の刀で2体のヤリギントスの腹を鋭く切り上げた。それは、魔獣の弱点だった。
全体感をステージに集中させているのぞみの意識下には、もう自分と魔獣しかいない。
のぞみの健闘する姿に、悠之介は驚いていた。
「この距離で叫んで聞こえないなんて!神崎さん、極めて集中してるってことッスか?」
第4ラウンドに現れた魔獣が、背後から攻撃を仕掛けてきた。悠之介はそれを避け、掌を地面につけて力を込めると、反動を使って魔獣を蹴り倒す。
「ボクももう一丁、頑張るッス!」
第2ラウンドをクリアしたのぞみは残り時間を確認する。すでに70秒が過ぎていた。納得のいく成績を残せるかもしれないと思いながらも、のぞみは刀を見る。二つの刀にはヒビが入っていた。