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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 上
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81.乱れる心 

 数秒後、笛の音が響いた。のぞみは仰向けのまま、しばらく曇り空を見ている。


「Ms.カンザキ、手助けが必要か?」


「……平気です。申し訳ございません」


 ステージは次の16ペアが使うことになっているため、長居はできない。のぞみは残っている力を絞り、何とか立ちあがると、重い足取りでステージから離れた。


 場外の休憩エリアへ戻っても、手足はまだチクチクする。折れているところはないかと、のぞみは確認した。そして『気癒術(きゆじゅつ)』で体力と痛みの回復をしながら落ち着く。のぞみは、マーヤとの戦闘を思い起こしながら、戸惑いを感じていた。稽古に対しての想いはそれぞれだ。のぞみは、実戦演習で重体になる可能性があることを、改めて知った。


「カンザキ?」


 のぞみは仰ぎ見て、巨体の近付いてきたのを意識する。


「ヌティオスさん?」


「大丈夫か?パレシカに負けてたじゃねぇか?!」


 のぞみは眉毛を下げながら笑顔を作る。


「大丈夫です。……パレシカさんは凄いですね……。ただのパンチやキックで相手を撃ち飛ばしてしまうんですから」


 戸惑うような口調で言葉を紡ぐのぞみに、ヌティオスが応える。


「あいつは自分の源気(グラムグラカ)すべてを体内に閉じこめるからな。丈夫なだけじゃなく、源を手足の筋肉に圧縮させるんだ。普通のパンチやキックに見えても、威力は数倍だぞ」


「……パレシカさんは、バーサーカータイプですね?」


 興奮したマーヤの表情を思い出しながら、のぞみはやはり、バトルから刺激や爽快感を得たいという欲を理解できない。ただのクラスメイトを相手に、なぜ真剣に戦えるのかがわからない。相手が『敵』ならば、むしろ気が楽だが、心苗(コディセミット)を『敵』として扱うことはできない。のぞみは泣きそうな表情になった。


「ドンマイだ、カンザキ!俺もライに負けたぜ!負けたらまた次、頑張ればいいぞ!」


「ヌティオス・ブラザーヨーロ!」


 赤い肌、長い茶髪を無数の三つ編みにして流し、上腕筋と首に入れ墨のある男がヌティオスに声をかける。二人と一緒にいると、のぞみは子どものように小さい。


「ベックルか?」


「撃ち合おうぜヨーロ?」


「ああ、俺はいつでも付き合うぜ!」


「いつでも受けるお前のこと、気に入ったヨーロ!すまんなカンザキ・シスター!ちょっとこいつを借りていくぜヨーロ!」


「どうぞ、私は構いませんよ」


 のぞみはヌティオスを連れていこうとしているポンポンに両手を振って応じる。


 意気投合し、もう周りの声など聞こえないポンポンとヌティオスは、フリーバトルの申請のため去っていく。二人は、次のバトルへの戦意を燃えあがらせているような笑みをこぼしていた。

 さっきライに負けたばかりなのに、悔しさも挫折も知らず、次のバトルへ切り替えられる固いメンタルを持っているヌティオスに、のぞみは感服する。


 のぞみがステージを見ると、(ラン)とメリルがそれぞれにバトルをしていた。乱れた気持ちの整理をしていると、E組のエクティットが声をかけてくる。


「カンザキさん」


「エクティットさん。フリーバトルですか?」


「無理しなくてもいいですよ。さっきのバトル、負けてましたよね?乱れた心では手合わせできないでしょう?」


 約束をしたのに今さら誘いを断るのは申し訳ないし、期待させておいてやっぱりやめたいとは言えない。それに、エクティットの気持ちを受け取りたかった。


「平気です。私もエクティットさんと手合わせしたいです」


 フリーバトルの時間になると、のぞみとエクティットは手合わせを始めた。


 しかし、ステージののぞみには、目の前にエクティットがいるはずなのに、マーヤの面影が重なって見えていた。バトルが始まる前からもう、のぞみの気配は動揺している。


 エクティットが自然に構えをした。


「カンザキさん、お手柔らかにお願いしますね」


 のぞみはあごを引き、気持ちも引き締める。


「……はい、よろしくお願いします」


 笛の音が響くと同時にのぞみは飛び出す。何度も拳を打ち出し、蹴りも合わせて打ちこんでいく。


 エクティットは連撃を避けると、余裕ありげに腕でのぞみの拳を受け止めた。その流れでのぞみの腕を掴むと、踵を蹴って体勢を崩させ、そのまま投げ飛ばす。


 攻撃を受け止めた時、エクティットはのぞみの異常に気付いた。その目は、何かを恐れているようだ。焦り気味の戦い方は、まるで恐ろしいものを遠ざけるための自衛行為に見える。


「カンザキさん、落ち着いて、私のことをよく見てください。パレシカさんとの戦いはもう終わりましたよ」


 投げ飛ばされ、体勢を整えて振り向いたのぞみは光弾を投げ出す。エクティットはそれを身軽に避け、跳びあがってサイドをチェンジする。


(だめですね。まるで拍子の乱れた歌のよう。このままでは彼女自身の怪我に繋がってしまうかも。もっと手合わせしたいけど、でも、これじゃ意味がありません。彼女のためにも、早めに終わらせましょうか)


 エクティットは一気に速度を上げてのぞみの足元に跳び、両手を繰り出す。


 1、2、3、4、5とパンチが当たる。軽いパンチだったため、受け身を取ったのぞみは跳んで退き、さらに光弾を出す。光弾はエクティットの残像に当たり、のぞみは彼女の行方を見失う。マーヤとはまったく違うタイプの戦い方だ。のぞみはまだ、相手の戦闘タイプによって戦い方を変えるような柔軟さがない。そもそも心の中が疑問で満たされており、バトルに集中できていなかった。


「エクティットさんのパンチは軽いけど……動きが読みにくい……」


 多角的な攻撃が続き、のぞみの反撃はいつも一拍遅れてしまう。当たったと思っても、打たれたエクティットは光の粒になって散っていく。それは、高速移動するエクティット本人から放たれている、数秒分遅い源気のかけらだった。


「カンザキさん」


 声の方を振り向くと、いつの間に集めていたのか、40センチもある(グラム)の塊が飛んでくる。いきなりの攻撃に反応できず、のぞみは顔面にそれを食らう。


 大きなダメージを受け、のぞみの視界が回る。そして、止まったかと思うと、灰色の空が浮かんでいた。

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