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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 上
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79.玄関と回廊の取り調べ ②

 清らかな女性の声に、ジェニファーが振り向く。


「Ms.ハヴィテュティーか」


「皆さん、ごきげんよう」


 ティフニーを一瞥したジェニファーの目付きが、わずかに鋭さを増す。


「悪いが今、Ms.カンザキは宣言闘競についての取り調べ中だ」


「あら。闘競はもう終わりましたでしょう?大した問題でもないのに、今さらになって彼女を責めることに意味があるでしょうか?」


 ジェニファーの厳しい声に対し、ティフニーはいつもと変わらぬ柔らかな声で返事をする。


「あるさ。Ms.カンザキの軽率な行動によって、問題は加速化したかもしれない。その場合の迷惑を考えなかったのは彼女の失点だ」


「そうかしら?学院が申請を認めた時点で、闘競には問題がないということでしょう?それよりもメビウス隊は、どうしてヒタンシリカさんたちを見過ごしていらっしゃるのかしら?」


「適した者が生き残り、不適切な者が淘汰される。Mr.チャロス番隊長の教えだ」


「たしかにそれはセントフェラストの不文律の掟ですね。では、アテンネスカレッジにおける治安風紀隊の怠慢は問題ではないのでしょうか?」


 自分たちの仕事にケチを付けられ、ジェニファーは憤りを見せる。


「この程度の些末な事案よりも、危険性の高い事件を中心に戦力は投資されるべきだ。優れた才能を持ちながら我々に貢献しないあなたのような心苗に、組織の実行方針を指摘されてもお話にならないね!」


 あからさまな反撃にも気を乱さず、ティフニーは微笑んでいる。


「人間同士の争いに深入りしないことは、私たち若いミーラティス人が他種族との交流をする時の掟です。それでも、「アドバイス」で済まない一歩手前まではやっていますから、武力を使うような貢献は断じて許されません」


 種族の問題では仕方ないとわかっていても、ジェニファーの怒りは収まらなかった。


「そうかい、それは残念なことだね!だが、戦力にならないのであれば文句も言わないでもらえるかな?」


「問題を解決するための方法は、武力だけではありませんよ」


 気分を害したジェニファーは、取り調べする気も失った。振り払うようにティフニーに背を向けると、今度はのぞみを睨みつける。


「Ms.カンザキ。ハイニオスに通いたいなら、三流の心苗(コディセミット)なんかにいじめられないくらいの度胸と、相応の力をつけなさい。他人の暴力を抑止できないようでは闘士(ウォーリア)として一人前とは言えない」


「はい……」


 ジェニファーは肩を怒らせたまま大股で去っていった。(ラン)とメリルは複雑な表情でその背中を目で見送っている。


 のぞみはがっくりと項垂れ、ティフニーに話しかけた。


「ハヴィテュティーさん……。私の宣言闘競、そんなにいけないことだったんでしょうか……」


「そんなに気を張らないでいいですよ、ツィキーさんはあなたのことを心配しているだけでしょう。物事を決断する前に、十分に考えた方がいいとアドバイスしてくださっただけではないですか?」


 さっきまで巨石でも背負ったように重かった背中が、ティフニーの言葉で綿のように軽くなった。


「そうでしょうか?」


 それでもまだ表情は晴れない。


「あのバトル、勝敗よりも大事なことがあったはずです。上出来だったんではないでしょうか?」


「……でも、ツィキーさんの言うとおり、森島さんが何も変わってないなら、彼女を含めた五人の命が助からないどころか、もっと酷いことになってしまうかも……」


「いいえ。あなたの努力は伝わっています。彼女の心情にも変化はありましたよ」


 のぞみとの闘競(バトル)を経ても、蛍には何の変化もないと多くの心苗は思っていた。しかし、ティフニーは、その並外れて鋭い感覚で、蛍の心の動きを感知していた。


「森島さんのバトルに介入してしまった件は、もう決着がついています。これ以上、あれこれと悩んでいては、鍛錬にならないでしょう?」


 ティフニーの言うとおり、そもそも宣言闘競(ディクレイションバトル)を申し出た目的は、蛍のバトルの邪魔をしてしまったことについての追及を放棄するためだ。


「そ、そうですよね……」


「それにしてもハヴィテュティーさん、すごいですね。あんな鬼モードのツィキーさんに対しても平然と向き合うなんて」


 藍は尊敬の眼差しでティフニーを見ている。


「その人と、起こっている事柄をよく見抜けば、落ち着いて対応することができます。あまり感情的になると、物事は複雑になってしまいますから。さて、そろそろホームルームが始まります。行きましょう。私たちが長時間立ち話してしまうと、カンザキさんは掃除ができませんから」


「そうですね、皆さん、先に行ってください」


 メリルと藍が頷き、手を上げた。


「では、のぞみさん、また後で」


 三人を見送り、のぞみは掃除を再開する。ホームルームが近いためか、玄関も回廊も、心苗の姿は少なくなっていた。鳥型の小動物の鳴き声が、回廊に響き渡った。


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