63.反撃
蛍は速やかにその場を離れたが、手毬は意思を持つ小型戦闘機のようにすいすいとついてくる。生きもののような動きはパターンが予測しづらく、スピードを上げて追撃を躱していたつもりが、いつの間にか蛍は手毬に囲まれていた。
戦闘に巻きこまれないよう、台の高度を上げ、レイニは感激したように叫ぶ。
「これはまたまた、予想外の展開!カンザキさん、面白い戦術を仕掛けていたようです!!囲まれたモリジマさんはどうするのか!?」
のぞみは銀色の盾に乗ったまま水面から飛び出すと、両手に金色の刀を翳した。周囲には多数の手毬が浮かんでいる。
距離を取っている蛍と目と目が合い、のぞみは強気に出た。
「『金毬・天訬』からは逃れられませんよ」
蛍は両手に脇差しを持ち、余裕を繕った。
「何よ、あんたの動体視力じゃ、私に追いつけないでしょ?!」
蛍は手毬地帯から突破するように動き出した。一瞬で三つの手毬を避け、のぞみに近付く。さらに飛んできた手毬は、脇差しで斬り落とした。
のぞみは斬り落とされた手毬から、蛍の位置を予測していた。素早く近寄った蛍だが、のぞみはその直前に盾ごと移動し、斬撃を切り抜ける。脇差しを振り下ろすために一瞬、速度を緩めた蛍に、七つの手毬が多方向から一斉に向かっていく。
蛍は初めて受け身を取ったが、手毬が着弾すると、爆発が起こった。
ダメージを受けた蛍は爆煙から飛びだし、柱の上に移る。スピードを上げて手毬の打撃から逃れると、砂地に着地し、疾走した。後ろからは手毬が追ってくるため、蛍は時折、待ち伏せして斬らなければならない。休みを取ることは許されなかった。
「情勢は大逆転!!モリジマさん、カンザキさんの攻撃を回避することしかできません!!」
逃げては斬るという反復しか許されない蛍は、次々と海域から飛び出す手毬の軍勢に苛立ちを覚えていた。
「この私があの女相手に逃げ戦なんて、冗談じゃないわよ!!」
走りながらも、蛍は右手に源を集中させる。逃げ場がなくなると、やや小型の迅雷六紋剣を投げ、逆手の脇差しをそこに向けて振り下ろす。脇差しの波動が迅雷六紋剣に衝突すると、高密度に集中した源の塊がエネルギーを放すように光が膨張した。爆発が起こると、周囲の手毬は誘爆させられた。
爆風が起こり、吹き飛ばされそうになりながらも、のぞみは持ちこたえる。
『
緑 森島蛍 : 神崎のぞみ 黄
ダメージポイント 13380 : 11210
源気数値(GhP) 8530 : 7200
残り時間 8:77
』
「おっと!モリジマさん、これは大胆な作戦に出ました!カンザキさんの攻撃を中断させることには成功しましたが、自らのダメージも大きい!これで戦況は逆転しました!!」
D級心苗同士だというのに、上級者のバトルに劣らず激しい戦況に、観客席が一瞬、沈黙した。のぞみの仕掛けた戦術に、男子たちは目をぱちくりさせ、口も開いたままになっている。
沈黙の次の瞬間、わぁっと沸きあがるような歓声が広がった。
フミンモントル学院の心苗たちはもちろん、二人の所属するA組のクラスメイトたちも熱狂していた。




