61.雷光爪・乱舞
闘競だというのに、闘士らしい戦い方をしてこないのぞみに、歯噛みするほど腹が立った。観覧席にはルルや綾の姿もある。フミンモントルから来た実力不足の転入生に優勢を取られるなど、ハイニオスではお笑いぐさもいいところだ。
戦術も源気のレベルも上昇させられなければ、クリアをはじめ、強さを求める連中からは見捨てられるだろう。修二もきっと、強い女にしか興味がない。
蛍はさらに源気を上昇させた。
「いいわ、その戦法でいらっしゃい。私にも考えがあるわ」
急激に気配を変化させた蛍の全身は、紫色の強い光を帯びている。その気配に圧倒されそうになりながらもぐっとこらえ、のぞみは冷や汗を流した。
のぞみはすぐさま光弾を撃ち出す。
1、2、3、4、5と源の塊は連続で打ち出されると、的を集中攻撃するように飛んでいく。
攻撃が当たったかと思われた瞬間、蛍は退き、光弾はそのまま水に落ちて飛沫をあげた。
のぞみは右に左にと振り返り、蛍の姿を探す。しかしその姿は忽然と消え、影や音さえも感知することができない。それは、動きが高速すぎるからだ。次に蛍が現れた時、手に持った『迅雷六紋剣』が、のぞみの至近距離で投げられた。金色の盾と衝突すると、大爆発が起こった。
重なった二枚の盾は大破し、追撃を避けるように銀色の盾に乗ったのぞみは、上空へと飛びあがろうとした。
「逃がさないわよ!!」
蛍はのぞみの脚を、鉄爪型の鉤で捉える。手を引くと、のぞみは盾から引きずり降ろされるように落下した。
「わああぁ!!!」
「『雷光爪・乱舞』!!」
捕えられたのぞみは、蛍の接近戦を逃れることができないうちに、数発のパンチとアッパーパンチを受けた。殴り飛ばされたのぞみは、10メートルも離れた場所に落とされる。
「私に勝つなんて、十年早いわ」
「カンザキさんの戦術も空しく、モリジマさんに破られました!やはり、属性の相剋には抗えないのでしょうか?!あ!今、カンザキさんのダメージポイントが10000を超えました!」
『
緑 森島蛍 : 神崎のぞみ 黄
ダメージポイント 6200 : 11210
源気数値(GhP) 7890 : 6230
残り時間 11:33
』
ダメージを受けたのぞみは横たわったままで、しばらく立ち上がれない。痛みが酷く、息も乱れていた。歓声と野次がぐるぐると回り、のぞみの頭の中で、天地が何度も逆さまになる。
その体勢のまま、『気癒術』で怪我とスタミナを回復させる。痛みも和らぐだろう。
一分間を経て、のぞみは立ちあがる。
「ちっ、しぶといわね。でも、確実に拳を打ちこんだはずなのに……。まさかあいつ、ヴィタータイプ……?」
のぞみは呼吸と体勢を整えると、蛍に向き合った。
(浮遊シールドでの遊撃作戦でスピードを抑えられたけど、森島さんの接近戦での強襲戦法までは止められないか……。時間はまだあるけど、ダメージの差を埋めていかないと、僅差で勝つこともできない……)
「ふふん、小賢しい戦術で攻めたところで所詮、操士ね。闘士には勝てないわ!」
「それは統計学上の古いデータです!たとえ確率が低くても、私は自分の可能性を信じます!」
「言ったはずよ!夢見心地はいいかげんにしなさい!」
純粋で芯の強いのぞみの言葉は、蛍の心を波立たせる。それは、さざなみなどというものではない。流れのない湖に隕石が落ちたかと思うほどの、おそろしいほどの高波だ。
蛍はまた、源圧手裏剣を投げはじめる。しかしのぞみはそれを無視し、柱から水域へと飛び降りた。