56.疾風が如く蛍 ①
レイニは二人がスタートポジションに着いたのを確認すると、ルール説明を始める。
「それでは、宣言闘競のルールに則り、時間制限は15分間、先に相手に30,000のダメージポイントを与えた者が勝者となります。時間切れの際は、よりダメージの少ない者を勝ちとし、途中で戦闘不能状態、意識不明状態に陥った場合は負けとなります。また、相手を死亡させた場合は、即失格です」
『
青 森島蛍 : 神崎のぞみ 青
ダメージポイント 0 : 0
源気数値(GhP) 4230 : 3510
残り時間 15:00
』
ルールを聞き、のぞみは気を引き締め、戦闘態勢に入る。蛍の源気の強度がグングンと上昇していくのを感じた。
「それでは、両者、用意!始め!!」
闘競開始を知らせる鋭い笛の音が響いた直後、蛍はあちこちの柱の上に跳び移り、のぞみを翻弄しはじめた。
「おっと!モリジマさん、早速、得意のスピード戦法で攻めを開始!カンザキさんはどう応対するのでしょうか?!」
柱を移りながらも、蛍は両手の指に源で創った手裏剣を挟み、タイミングを定めると、のぞみに投げ出す。のぞみは後ろの柱に退き、石板の床に着地すると、左手で直径1メートルの金色の盾を創り、手裏剣を防いだ。
しかし、六方手裏剣は次々に投げつけられる。右から来たかと思えば今度は左上から。反応が二拍遅いのぞみでは、防ぎたくても間に合わない。
「はっ!あんた、遅すぎ!」
パンッ!
一瞬だけ近くに跳び寄った蛍が、素早く拳を連打した。のぞみは受け身を取ったが耐えきれず、防御は崩され、蛍の掌撃に打ち飛ばされる。
のぞみはダメージに耐えながらバク転し、体勢を整えて砂地に着地した。さっと手の甲を見ると、2580ダメージを受けていることがわかった。
首を上げて蛍の姿を探す。と、すぐに数枚の手裏剣が飛んできた。息つく暇も与えない攻撃に対し、のぞみは防戦ばかりで、新しい盾を創ると両手で支え、手裏剣を受け止める。乱射された手裏剣は、砂地に触れると光弾のように次々と爆発した。
乾いた地面に砂煙が巻き上がり、のぞみの姿を隠す。
レイニの実況だけが場内に響く。
「攻めのモリジマさんに対し、カンザキさんはなかなか反撃のチャンスを得ることができません!」
煙の中に潜むのぞみは、数瞬、思考した。
(さすがは忍びの修行を受けた実力者……。動きだけでなく、攻撃のテンポも速い。この柔らかい砂地なら、森島さんのスピードを抑えられる?)
押し切れば楽勝で勝てると思っていた蛍は、作戦など不要とばかりに笑った。
「もう終わり?記念にもう一丁、お見舞いしてあげる!」
煙の中、金色の細長いものが揺れている。
右手に脇差しをかざすと、蛍は積極的に煙に飛びこんだ。高速で駆ける蛍の軌跡は紫の閃光となり、煙を切り払う。
蛍は目を凝らし、脇差しをさらにもう一閃させた。しかし、のぞみが左手にかざした銀色の盾が、攻撃を受け止める。次の瞬間、のぞみは金色の光を蛍に向けて放った。
間一髪、胴体をひねって避けた蛍は飛び退き、近くの柱に身を移す。
直撃は免れたものの、上腕に傷を残した蛍は瞳をくるくるさせる。源気をしっかり出していなければ、切り口はさらに深くなっていただろう。
蛍は1800のダメージを受けていた。
「煙で見えませんが、カンザキさんはモリジマさんに反撃し、ダメージを与えたようです!」
無傷でのぞみを倒せると思っていた蛍は、極めて不機嫌な表情になり、のぞみを睨んだ。
「……許さない」
つづく
読んでくれてありがとうございます。
のぞみは蛍に申し掛けた宣言闘競はついに始まりました。
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来週の回は、戦いが更に熱くなりそうです。
これからも精進して参ります。
よろしくお願いします。