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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
ハイニオスに転学 編 下
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48.ルル・ドイル

 生命の危機を感じて怯えていた三人を、ルルが笑う。


「Ms.モリジマ、本当にみっともないよね。Ms.カンザキをいじめることで、余計惨めになるのはあんただよね」


 ラトゥーニがいなくなり、少し勢いを盛り返した蛍は眉をひそめる。


「身体能力も源気も低いあの女に、何ができるっていうのよ?」


「実力の評価は、「力」だけじゃないよ。忍び系統の流派で修行してるのに、まさか彼女の最大の武器を見抜いてないの?」


「それ、どういう意味よ」


 試すようなルルの訊き方に、蛍は不機嫌そうに応える。


「彼女は元フミンモントル学院の優等生。つまり、向こうのキャンパスでは多少、顔が広いってことでしょ?それに彼女は人との絆を結ぶのが得意。Ms.カンザキ自身が気付いていない可能性もあるけど、このA組に転入してわずか四日で、彼女に注目している心苗がどれだけ増えた?あなただってそうでしょう?」


「それくらい、わかってるわ。あの女は放っておくといつか脅威になる。今のうちに潰さないと、厄介なのよ」


 気が乱れ、憎しみや焦りを滲ませた表情の(ほたる)を見て、ルルは苦笑した。


「あんたバカだね。教室にいるだけでも耐えられないような弱い心苗、放っておいてもいつか自滅するのに。いじめればいじめるだけ、あんたの印象評価がフミンモントルの連中から見て悪くなるだけなのに。気にしすぎてるんじゃない?」


「うるさい!シタンビリトの次はあんた?説教なんてクソ食らえよ!」


「別に?ヤングエージェント時代、偶然任務を共に遂行した戦友として、一応、忠告してるだけ。あの子はラブラドールみたいなものでしょ。可愛くて、無防備に誰とでも仲良くできる。そういう子は友だちも多いと思う」


 ルルは逡巡するように蛍から目線を離す。そして、もう一度、蛍に目を合わせると、意を決したように笑った。


「フミンモントルでは、あの子があんたにいじめられてるって噂が立ってるよ。高圧的な態度を取りつづけると、Ms.マイヅルとの件の二の舞になるだけかもね」


 今朝、のぞみの言葉でまざまざと思い出した憎しみの相手のことが、さらにルルの言葉で鮮やかに色付けされる。火に油を注ぐような出来事の連続に、蛍は猛烈な剣幕でルルに食らいついた。


「じゃあ、あんたが私ならどうしたのよ!?あの女の宣言闘競(ディクレイションバトル)、断った?!」


 ルルはその手には乗らないとでもいうように両手を上げ、肩をすかして言った。


「さあね~?私はあなたと違って、弱者との打ち合いには興味ないから。そもそもあの子が宣言闘競したいと思うような展開にさせないよ」


 恥辱を味わい、蛍は負け犬のごとくルルを罵る。


「とどのつまりはあんたもシタンビリトと同じで、私を笑いぐさにしてるわけ?」


「ちがうちがう。あんたたちの闘競(バトル)を楽しみにしてるのは本心から。あの子、神祇代言者一族の直系巫女だっていうし。たしかにあんたは経験も豊富な実力者だけど、舐めない方がいいよ」


 ルルはのぞみの実力に少し興味があった。自分の手は汚さず、接触もせず、宣言闘競を利用して、蛍との一戦からのぞみの力を見てみたかった。蛍の戦意が上がれば、それに応じてのぞみの隠れた力も引き出せるはず。それがルルの狙いだった。

 偏屈な激励は、蛍の戦意をまんまと引きあげる。


「あの女が何者だろうと、潰すだけよ!!」


 ルルは含みのある笑みを浮かべると、手を上げて去っていく。


「ま、あんたの好きにして。god bless you~」


 今さら助言を受けたところで、バトルをキャンセルするなどできない。蛍を貶めるような噂が広がっているのを知り、蛍はこれまで以上にのぞみを軽蔑した。これが弱者の戦い方よ、と心の中で毒づく。


 自分よりも弱いくせに、自然と人と仲良くなれる優れた交友術を持ち、仲間を作っていることに、本当は、蛍は嫉妬していた。意中の相手である不破(ふは)修二も、彼女に惹きつけられている。自分にはないものを軟弱なのぞみが簡単に手に入れているのが憎かった。

 蛍が横目にのぞみを見ると、(ラン)だけでなく、メリルも会話に加わっている。二人と楽しげに話すのぞみが幸せそうに映り、きらきらと輝いているようでうっとうしい。

 

 ルルの言葉を聞き、マーヤは不安を募らせていた。


「蛍、あの女、実はとんでもなく強い心苗(コディセミット)なのかもしれないよ?」


「まさか。虚勢に決まってるわよ。あの程度の源気で作るものなんて、大したもんじゃないわ」


「でも、ドイルの言うことが本当なら、ヤバいかもしれないよ」


 蛍はもはや誰に何を言われようが、のぞみをバトルで叩き潰すということしか頭になかった。


「ふん、だったら何だっていうの?フェイクニュースの拡散なんていう狡猾な戦い方をするなんて、実力のない小物がすることでしょ?」


 威勢よく顎を上げ、蛍は続ける。


「当日あの女がどれだけ観客を集めたところで結果は変わらない!バトルのステージに立つ者同士が実力をぶつけあうのみよ。本人が弱ければ、神であっても救うことはできない。無様に敗北するところを見せて、場外のガヤも黙らせてやるわ」


 次の授業が始まるチャイムが響き、賑やかだった教室は各々の席へと静まっていく。のぞみを見物しにきた他クラスの心苗たちも、おとなしく解散していった。



つづく

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