45.一人じゃない朝 ②
それから三人は、シャビンアスタルト寮から一番近い浮遊船の駅まで歩いていた。
「寮長先生の右目は見ている者の未来の姿が視えるって、本当なのかしら?」
イリアスの言葉に、ミナリも興味深げに頷く。のぞみは以前、図書館の本で読んだ知識を思い出した。
「たしか、クロノトスアイって言うみたい。観察する者の過去と未来が視える力だね。私にも予知能力があるみたいだけど、小さい頃にお母さんが術で封じたって。予知夢として事相の断片を視ることは今でもあるけどね。代わりに天眼の能力に長けたみたい」
先天的に恵まれた能力や、後天的に修行や特定の条件を満たし手に入れる力を持つ源使いは多い。その中でも、操士には不思議な力を持つ者がとくに多かった。
「いいな~。私もあんな力欲し~い。領域系操士の弱点って、環境物なら何でも作れるけど、本人にまったく戦闘能力がないことよね。やっぱり何か、チート技を習得したいなあ」
「イリアスちゃん。珍しい力を持つにも、それ相応の対価が必要だよ。先生たちも何度も言ってたけど、相当な覚悟がないと、本人が後悔するだけじゃなくて周りにも迷惑をかけるよ?」
のぞみの正論を聞いて、イリアスは両手で頭を抱えた。
「わかってるわよ!でも……領域系操士が仕事を受けるには、ホミを組むくらいしか方法がないってことになっちゃうじゃない」
のぞみはハイニオスで同級生にいじめられていることを、最近までハウスメイトにも知らせていなかった。ミナリは、のぞみが倒れた夜、もっと学院でのできごとを聞かなかったことを悔やんでいる。あの日ならまだ、宣言闘競を取りやめにすることもできたはずだった。
「のぞみちゃん。ハイニオスは遠いけど、大変なことがあるときは一人で抱えないでほしいニャ。ミナリに何かできるかわからないけど、聞かせてほしいニャー」
親友に心配をかけまいと、トラブルがあってもすぐミナリに言うことができなかった。門派入門試験のことばかり考えていたせいもあって、ハウスメイトたちへの報告も後回しにしてしまった。
「ミナリちゃん」
心配させたくないという気持ちから問題を一人で抱え、立ち向かうつもりだったが、それがかえってミナリを悲しませる結果を招いた。
「二人、ううん。皆で一緒に考えれば心強いニャー?」
温厚なミナリにしてははっきりとした物言いで、それだけ心配をかけていたと気付き、のぞみは俯く。
(そっか……。最近ずっと一人で考えごとばっかりしてて、夢中になってた。バカだな……私、一人じゃないんだね)
「ミナリちゃん、イリアスちゃん、心配させてごめんね。そうだよね、皆で一緒に考えた方が、もっと良い方法が見つかるよね」
のぞみは反省した。宣言闘競についてはもう、決まったことだ。通知書を受け取った時点で取り消しにはできない。だが、学院が違っても親友であることには変わりがない。ミナリやハウスメイトたちと相談する時間をたくさん取ろうと、のぞみは考えを改めた。
駅に辿り着く。ゲートのない完全解放のホールの上で、三人は岐路に立った。
「のぞみちゃん、気をつけて!」
蛍たちのことを気にかける言葉を残し、イリアスとミナリは逆時計回りの浮遊船に搭乗する。
「ありがとう。じゃあ、またね」
鋭いブザーが鳴り、扉が閉じる。
浮遊船を見送ったのぞみは踵を返し、駅を離れる。そしていつもの通り、ハイニオスまで走り出した。
つづく
今週は、連続二回を投稿しました。のぞみと蛍のバトルがまた起こってないが戦は既に燃え上がります。
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