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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
ハイニオスに転学 編 上
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36.不穏な空気が漂う食卓

 一部始終を見ていたのぞみは、二人の隠れた実力と暴力に対するスマートな対応に驚いていた。


「二人とも、すごいですね……」

「ライの実力はよくわかんないッスけど、鄧さんの成績評価はA組の4位ッスからね」


 のぞみは俄然、二人のことに興味が沸いてきていた。


「あの二人、ふだんクラスで目立つ方ではないですよね?」


 初音がコクコクと首を振った。


「そうですね。でも、鄧さんの実力ならうちのカレッジのネメシス隊に入隊できると思いますよ。謙遜な人なんでしょうかね?」


 力の強さや実力を必死にアピールする心苗も多い中、のどかに碁を打つ二人からは、そのような競争意識や好戦的な印象は全くといっていいほど見受けられない。


 京弥(きょうや)は二人を見て言う。


「さあな。実力至上主義のこのハイニオスで、毎日平然と囲碁なんか打ってる奴らの脳みそは理解できねえよ」


 その言葉を受けてのぞみが言った。


「でも、不破(ふは)さんやハヴィテュティーさんもネメシス隊には入っていませんよね?」


 のぞみのような可憐な女の子が自分のライバルを持ちあげるようなことを言うので、嫉妬した京弥は語気を強めた。


「フン、ハヴィは人外だろ?あいつの考えることなんて、トヨトヨ猿でもわかんねぇぜ。不破の野郎に至ってはただのバトル馬鹿だからな!」


 焼き餅を焼くのに忙しい京弥に対して、真人は涼しい笑みを浮かべて突っ込む。


「京弥。君は少し成績順位の争いから離れて物事を考えた方が良さそうだな。ライや鄧は物事を異なる視点から見ているだろうから、単純・短気な君には理解できないかもしれない。俺が考えるに、彼らはおそらく一年以上先の未来を見据えている。つまり、成績順位や評価などよりも、もっと別の何かを見ているんだろう」


 単純、短気と叩かれた京弥は拗ねるようにテーブルに肘を置き、掌で頬を支えてむすっとしている。


「フン、陰気な奴らの考えなんて知りたくもねぇぜ」

「ま、人の考えはそれぞれッスねぇ」

「オメェは遊び半分でバトルに向き合ってっからいつまでも底辺軍団のゴロつきのままなんだろうが」


 不機嫌なだけの京弥のツッコミは全く効果がないようで、悠之助は笑って言った。


「ボクはバトルよりも、仲間とやるダンスに夢中ッスね」


 話を戻すように、のぞみは真人に訊ねる。


「そういえば、島谷さんもネメシス隊ではないんですよね?どうして入らないんですか?もし私に島谷さんほどの力があれば、喜んで皆に貢献したいと思います」

「俺はまだ、それに値する腕ではないと自認している」

「でも、成績評価では風見(かぜみ)さんより高いですよね?」


 真人(さなと)は多元文化の共存するこの世界で、異なる種族の者の中に自分よりも腕の良い剣術使いがいることにショックを受けた過去があった。

 ほかの心苗(コディセミット)と比べれば、実戦の経験も豊富な真人だったが、今は少し自信が揺らぎ、動揺したままなのだ。だから、道場での自主修行に励むので精一杯、というのが現状である。


 真人からは不穏な気がどっと噴き出し、切れ味のよい刀で両断するような口調で言う。


「神崎さん、これ以上は、君が踏みこむ場所ではない」

「余計なことを言いまして、申し訳ございません」


 逆鱗に触れたと気付いたのぞみは慌てて口を閉じた。


「神崎。島谷はいつもその調子だから気にするなよ。自分のことは誰にも言わないガチの陰気王だぜ」


 クラスメイトになって以来、よく付き合いのある真人は、京弥がまだ単純・短気と言われたことを引きずっているのだとわかっていた。毒づくようなツッコミも、単純だからこそなのだが、それを言うとまた怒るだろう。


 初音は暗い顔になり、不機嫌丸出しの京弥にこれ以上、刺激を与えないよう、空席となっている椅子を見て溜め息をつき、話題を切り替える。


「はぁ。結局、風見さんはまた顔を出さなかったですね。相談したいことがあるのになあ……」

「彼女はストイックだからな。軽口を叩くだけの昼食会よりも自主訓練を選んだ。そんなに相談したいことがあるなら、教室で直接声をかけた方がいいんじゃないか?」


 真人はアドバイスを送ったが、京弥はそれを聞いてパンチを繰り出すように辛辣に言葉を放つ。


「お前が森島を追い出したからだろ?あの一件以来、風見は来なくなったんじゃねぇか」


 二人のやりとりを聞いて、初音は苦しげに顔をしかめる。


「本人からそうと聞いたわけでもないのに、憶測で物を言うのはお勧めしないよ」


 話についていけないのぞみは、ただその場に流れる空気を読み、黙っていた。


「憶測?どうだろうな。風見はお前が出した勝負の条件に最後まで反対してたぜ?」

「俺の判断は、今でも正しいと思っている」


 自分の選択は間違っていなかったと断じたとおり、真人は涼しい顔をしている。


「もう、そんなこと聞きたくないよ……」


 複雑な表情になった初音が、急に席を外した。嫌な過去を思い出すのを拒否するように、初音は一人、学食を後にした。


「これで満足か?君のその、メンタルバランスを崩すと他人に当たる癖、何とかならないのか」


 平然とした表情のまま、真人は目だけ厳しさを強める。

 京弥は自分勝手な発言で初音が傷ついたことに気付くと、手に持ったグラスの中のグライムソーダを一気飲みする。


トンッ!! 


「ア~!めんどくせぇ!!」


 グラスをテーブルに叩きつけると、京弥は不機嫌さを丸出しにして叫んだ。そして唐突に立ちあがると、青みがかった茶髪をくしゃくしゃと手でかき乱しながら、初音を探すため、学食を出ていった。


 京弥の思わぬ言動に驚いたのぞみが訊ねる。


「お二人はどうしたんですか?」

「神崎さん、君はその、すぐに首を突っ込む習性をどうにかした方がいい」


 針で刺すような目付きと拒絶するような言葉に、のぞみは大きなプレッシャーを感じた。中和剤のような悠之助に意見を求めようと首を振る。

 しかし、悠之助はいつもの気楽な口調ではなく、苦笑いをして言った。


「神崎さん。知らない方がいいこともあるッスよ。ま、森島、ヒタンシリカ、パレシカからは離れた方が安全ッス」


 悠之助たちに漂う独特の空気感から、のぞみは森島蛍(ほたる)と彼らの間に何かがあったのだろうと察した。彼らとの付き合いを続けたいのであれば、蛍のことはタブーと肝に銘じておくべきだろう。


「そうですね」


 表情筋を硬く強張らせたままで、のぞみは無理やり笑みを浮かべる。しかし、それ以上は何も言えず、お茶を飲んだり、自分の使った食器の片付けを始めたりした。


「吉田さんと島谷さんは、まだ食器を使いますか?」


 元来、世話焼きなのぞみは二人に訊ねる。


「いや、ボクはもう腹いっぱいッス」


 甘える悠之助とは裏腹に、真人は無言のままで自分の食器を片付けはじめる。それを見て、のぞみは振り返ると、遠くのテーブルの間を走り回っている回収ニンモーに向かって手を振った。


「すみません~!こちらの食器の回収をお願いします!」


 回収ニンモーはのぞみの声に反応し、こちらへやってくる。

 のぞみは三人分の食器をまとめると、裂け目のようになった食器入れに一つずつ回収していく。


 食事を済ませ、少し落ち着いたのぞみは時間を確認した。


「あっ!私は先にカレッジに戻りますね。早く武操服に着替えないと、次の授業に間に合わないかもしれません」

「それは早く戻った方がいいッスね」


 悠之助の返事を聞くと、のぞみは席を立った。


「今日はご一緒できて嬉しかったです。では、先に行きますね」


 もうこれ以上、余計なことを言うのを避けたい気持ちもあり、のぞみは速やかにティンクラントスを後にした。だが、蛍と初音たちとの間に起こったことがずっと気になっており、もやもやとしたものを心中に抱えたままだった。


つづく

本日は2回分を連続更新アップロードしました。


次回は、明日にアップロード予定です。


のぞみが試し斬りの回です。

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