331.心の声を聞いて
「分かってはいるんだども……この状況で私たちに何ができるべ?下手な手出しをしても、ウェスリーさんの足手まといになるだけだべ」
「でもさ、私たち、ここで見学してるだけで、本当にいいのかな?」
「ドイルさん」とのぞみが声をかける。
「敵が強いと知っていても、恐れずに挑むべきだよね。だって私たち、闘士じゃん?」
「お前らは頭で考えすぎなんだよ。あの魔人みたいな奴だって、技は強いけど受け身は弱いぜ。実際、俺様はもう一体倒したしな」
修二の戦いは全員が見ていた。今の言葉を聞いて、ルルはハワードが倒せない敵ではないと分かったし、弱点にも気付けた。
「たしかにあの人形、数が増えれば増えるほど、動きのパターンが単純になってる。もし、主導権をこっちが握れれば」
ティムも、ハネクモに守られたままで『尖兵』たちの戦いを見て、作戦を思いついた。
「ドイルさんの言うとおりです。私たちが彼を応援するなら、この作戦にはそう遅くない終わりがあるはずです」
戦場では新たに三体のハワードが出現していた。
攻められるケビンを見ながら、ラーマが訊ねる。
「フェラーさん、何か策がおありのようですね?」
「はい。魔人は現在五体。いずれもウェスリーさんを狙っています。その間に、我々五人が一体ずつをマークし、奇襲をかける。そうすれば、ウェスリーさんは魔人に邪魔されず、彼女たちの相手ができます」
人数に入れてもらえず、蚊帳の外に出されたクラークが、
「おいおい、俺を忘れるなよ?」と不機嫌そうに言った。
「ティソン君、あなたはとっくに限界を超えているでしょう?ビーストタイプのあなたがそのレベルの傷を負えば、最悪命を落とします。補給陣地で待機していてください」
「俺は……」
もどかしげなクラークに鶴の一声を放ったのはティフニーだ。
「ティソン君。手当てする人が増えるといけませんよ」
穏やかだが、有無を言わせぬティフニーの言葉に、クラークは渋々従う。
「ハヴィテュティーさんがそう言うなら、仕方ねぇか……」
実際、クラークは気力で立っているだけで、気が抜ければもう戦えないほどの容体だった。
「フェラーさん、私にも協力させてください。彼らの狙いは私です。私が囮になっているうちに『使役体』を倒すのはどうでしょうか?」
のぞみの、半分捨て身のような提案は、ティムに却下された。
「あまりにリスクが高すぎます。あの魔導士が他にどんな章紋を使えるかも未知数ですから。あなたは補給陣地で待機し、ハヴィテュティーさんのバリア内で安全を確保してください」
「でも……」
「カンザキさん」
ティムはそう言って首を振った。自分のために蛍が倒れた今、のぞみにはもうそれ以上、返す言葉がなかった。
「さて、彼のおかげで私たちはしばらく、体力を回復させてもらいました。全力で魔人を倒しましょう。きっとその間に、彼が二人を倒してくれます」
ティムに指名されたラーマ、楓、ルル、修二がバリアから出て行った。
ティフニーは蛍の救助に安全な環境を確保するため、『ルビススフェーアゾーン』の範囲を狭めることで、バリアの密度を上げた。
五人の背中を見つめながら、のぞみはまだ、自分にできることはないかと悩んでいた。
(皆さん……)
五人はすぐに攻撃を開始した。
ティムが決め技を一撃食らわせ、続けてレイピアで連続刺撃を加える。レイピアはハワードの体に無数の穴を作る。さらに攻撃が続き、何度も刺されると、ハワードは耐えきれなくなり、その巨体を爆散させた。
ケビンがティムに近付いた。
「君たちはどうするつもり?」
ティムが頷く。
「闘士の心苗として、黙って守られているわけにはいきません。ラメルス先生を見逃すこともできませんので、挑みたいと思います」
ティムの目に映る美しい光を見ながら、ケビンは涼しげに笑った。
「闘士としてのプライドか。感謝するが、君たちの命の保障はできないよ」
「皆、覚悟は決めました」
ティムの指示で大人しく待機していたのぞみだが、前戦の様子を見るほどに狂おしい気持ちが募っていた。
いつも誰かに守られ、安全地帯から戦いを眺めているだけの自分。そして、蛍を重体にさせてしまった自分が許せなかった。今だってそうだ。出陣した五人は、元はと言えば自分の事件のためにここにいる。
のぞみはもう、自分のために誰かが傷付くところを見たくなかった。
(守られているばっかり……これじゃ私、昔と何も変わらない……)
ティフニーは蛍の手当てをしながら、のぞみの心の声をはっきりと聞いた。
「ノゾミさん、あなたはどうしたいんですか?」
「私、皆の力になりたいです。今、私に何ができるでしょうか?」
「迷う必要はありません。トヨトミ先生から教わっているはずですよ?」
「豊臣先生から……?」
手首のリングを見ると、義毅の家で個別レッスンを受けたあの夜が思い出された。
(いつも何かに守られている状況を望んではいけない。戦況の変化っていうのは速いもんなんだ、だから、自分で切り拓くしかないんだ)
(賢しくあろうとしても状況が変わらないときは、自分の強みを最大限に引き出して、まっすぐに打ち合うしかない)
(お前だけのやり方で戦えばいいんだ)
「ここまで皆と一緒に戦ってきて、いざという時になってただ守られているだけなんて、嫌です!私は私だけのやり方で、皆と一緒に戦います!」
「ええ、その思いを持って、行きなさい」
「はい、ハヴィー姉さん、私も行きます!」
ティフニーはのぞみを送り出し、自分は蛍に源気を送り続けた。
のぞみは金銀二本の刀を鞘に納め、ティフニーの『ルビススフェーアゾーン』を後にする。
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