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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
332/345

331.心の声を聞いて

「分かってはいるんだども……この状況で私たちに何ができるべ?下手な手出しをしても、ウェスリーさんの足手まといになるだけだべ」


「でもさ、私たち、ここで見学してるだけで、本当にいいのかな?」


「ドイルさん」とのぞみが声をかける。


「敵が強いと知っていても、恐れずに挑むべきだよね。だって私たち、闘士じゃん?」


「お前らは頭で考えすぎなんだよ。あの魔人みたいな奴だって、技は強いけど受け身は弱いぜ。実際、俺様はもう一体倒したしな」


 修二の戦いは全員が見ていた。今の言葉を聞いて、ルルはハワードが倒せない敵ではないと分かったし、弱点にも気付けた。


「たしかにあの人形、数が増えれば増えるほど、動きのパターンが単純になってる。もし、主導権をこっちが握れれば」


 ティムも、ハネクモに守られたままで『尖兵(スカウト)』たちの戦いを見て、作戦を思いついた。


「ドイルさんの言うとおりです。私たちが彼を応援するなら、この作戦にはそう遅くない終わりがあるはずです」


 戦場では新たに三体のハワードが出現していた。

 攻められるケビンを見ながら、ラーマが訊ねる。


「フェラーさん、何か策がおありのようですね?」


「はい。魔人は現在五体。いずれもウェスリーさんを狙っています。その間に、我々五人が一体ずつをマークし、奇襲をかける。そうすれば、ウェスリーさんは魔人に邪魔されず、彼女たちの相手ができます」


 人数に入れてもらえず、蚊帳(かや)の外に出されたクラークが、


「おいおい、俺を忘れるなよ?」と不機嫌そうに言った。


「ティソン君、あなたはとっくに限界を超えているでしょう?ビーストタイプのあなたがそのレベルの傷を負えば、最悪命を落とします。補給陣地で待機していてください」


「俺は……」


 もどかしげなクラークに鶴の一声を放ったのはティフニーだ。


「ティソン君。手当てする人が増えるといけませんよ」


 穏やかだが、有無を言わせぬティフニーの言葉に、クラークは渋々従う。


「ハヴィテュティーさんがそう言うなら、仕方ねぇか……」


 実際、クラークは気力で立っているだけで、気が抜ければもう戦えないほどの容体だった。


「フェラーさん、私にも協力させてください。彼らの狙いは私です。私が(おとり)になっているうちに『使役体』を倒すのはどうでしょうか?」


 のぞみの、半分捨て身のような提案は、ティムに却下された。


「あまりにリスクが高すぎます。あの魔導士(マギア)が他にどんな章紋を使えるかも未知数ですから。あなたは補給陣地で待機し、ハヴィテュティーさんのバリア内で安全を確保してください」


「でも……」


「カンザキさん」


 ティムはそう言って首を振った。自分のために(ほたる)が倒れた今、のぞみにはもうそれ以上、返す言葉がなかった。


「さて、彼のおかげで私たちはしばらく、体力を回復させてもらいました。全力で魔人を倒しましょう。きっとその間に、彼が二人を倒してくれます」


 ティムに指名されたラーマ、楓、ルル、修二がバリアから出て行った。

 ティフニーは蛍の救助に安全な環境を確保するため、『ルビススフェーアゾーン』の範囲を狭めることで、バリアの密度を上げた。


 五人の背中を見つめながら、のぞみはまだ、自分にできることはないかと悩んでいた。


(皆さん……)


 五人はすぐに攻撃を開始した。

 ティムが決め技を一撃食らわせ、続けてレイピアで連続刺撃を加える。レイピアはハワードの体に無数の穴を作る。さらに攻撃が続き、何度も刺されると、ハワードは耐えきれなくなり、その巨体を爆散させた。


 ケビンがティムに近付いた。


「君たちはどうするつもり?」


 ティムが頷く。


「闘士の心苗として、黙って守られているわけにはいきません。ラメルス先生を見逃すこともできませんので、挑みたいと思います」


 ティムの目に映る美しい光を見ながら、ケビンは涼しげに笑った。


闘士(ウォーリア)としてのプライドか。感謝するが、君たちの命の保障はできないよ」


「皆、覚悟は決めました」


 ティムの指示で大人しく待機していたのぞみだが、前戦の様子を見るほどに狂おしい気持ちが募っていた。

 いつも誰かに守られ、安全地帯から戦いを眺めているだけの自分。そして、蛍を重体にさせてしまった自分が許せなかった。今だってそうだ。出陣した五人は、元はと言えば自分の事件のためにここにいる。

 のぞみはもう、自分のために誰かが傷付くところを見たくなかった。


(守られているばっかり……これじゃ私、昔と何も変わらない……)


ティフニーは蛍の手当てをしながら、のぞみの心の声をはっきりと聞いた。


「ノゾミさん、あなたはどうしたいんですか?」


「私、皆の力になりたいです。今、私に何ができるでしょうか?」


「迷う必要はありません。トヨトミ先生から教わっているはずですよ?」


「豊臣先生から……?」


 手首のリングを見ると、義毅(よしき)の家で個別レッスンを受けたあの夜が思い出された。


(いつも何かに守られている状況を望んではいけない。戦況の変化っていうのは速いもんなんだ、だから、自分で切り拓くしかないんだ)


(賢しくあろうとしても状況が変わらないときは、自分の強みを最大限に引き出して、まっすぐに打ち合うしかない) 


(お前だけのやり方で戦えばいいんだ)


「ここまで皆と一緒に戦ってきて、いざという時になってただ守られているだけなんて、嫌です!私は私だけのやり方で、皆と一緒に戦います!」


「ええ、その思いを持って、行きなさい」


「はい、ハヴィー姉さん、私も行きます!」


 ティフニーはのぞみを送り出し、自分は蛍に源気(グラムグラカ)を送り続けた。


 のぞみは金銀二本の刀を鞘に納め、ティフニーの『ルビススフェーアゾーン』を後にする。


読んで下さって有難うございます。

宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

これからも引き続き連載します。

よろしくおねがいします。

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