329.負傷
のぞみがジェニファーとコミルに釘付けになっている間に、ケビンは四人目のハワードを倒していた。
戦況はケビンが優勢に見えたが、その時、リディが『ブレーズサンシャイン』を放った。ケビンが攻撃を避けている間に、繭に閉じ込められていたはずの一体のハワードが、繭を内側から粉砕し、一直線にのぞみに向かってきた。
ハワードはのぞみを守っているハネクモを破壊。そのまま進むと、鋭い指先でのぞみを切り裂こうとする。
「あのバカ女、油断しすぎ!止めて、『六紋手裏剣』!!」
敵の動きを先読みし、蛍が六紋手裏剣を鋭くぶん投げる。
攻撃がヒットすると、蛍は手裏剣を取り戻し、のぞみとハワードの間に割り込んだ。傷を負ったハワードはターゲットを蛍に移行し、血の色をした光弾を乱射させる。
蛍は光弾を浴び、爆発に呑まれた。彼女は被弾していたが、傷の痛みに耐えながら『神風脚』で退避する。その間に、ハワードはのぞみを狙った。真紅の源気が手に集められ、ハワードの鋭い手刀が振り払われた時、蛍はのぞみの代わりにその攻撃を受け止めた。
「わぁ!」
回避が間に合わないまま、蛍は腹を切られる。蛍がその場に倒れた。立ち直ることもできない蛍を見て、のぞみが悲鳴を上げる。
「森島さん!!!」
幸いなことに、ケビンが糸弾で牽制してくれたおかげで、ハワードの追撃は免れた。
のぞみの叫び声に、クラークが振り返る。
「どうした?」
「モリジマさんが襲われて、倒れたヨン」
「マズいですね。彼女を安全な場所に動かさないと」
心苗たちに動揺が走った。ティムの言葉に素早く対応したのは楓だった。
「私がやるべ」
「頼みます。皆さんは援護をお願いします」
(蛍ちゃん、私より早く敵の動きに気付いてたんだべ……あの子は……)
楓は速やかに近付き、お姫様を扱うように蛍を抱きかかえると、鉄柱のそばまで退避した。
蛍を倒したハワードは、もう一度のぞみを狙って攻撃をしかける。急いで飛んできたえくてぃっとが、短剣を構えて防いだ。
「カンザキさん!避けてください!」
エクティットは防御態勢を取っていたが、ハワードのパンチを食らい、飛ばされた。
「エクティットさん!?」
エクティットは源気を大量放出し、緩衝材を着たような状態になったまま壁に衝突した。
次々に攻撃される心苗たちを見て、修二が発狂したように叫んだ。
「お前!!仲間を傷付ける奴は許さねぇぜ!!」
一人、立ち向かっていった修二は、片手剣でハワードに鋭く斬りかかる。ハワードはその攻撃を素手で受け止めたが、修二は攻撃の手を緩めない。ハワードを押し飛ばしたまま、修二はさらに源気を爆発させると、猛獣のような雄叫びを響かせた。
「はあああああああああああああ!!!!」
そのままハワードを後退させると、剣を大きく振り払い、二段の近距離攻撃で突き飛ばした。
「くらえ!『クロススラッシュー』!!」
縦横にクロスした二本の剣気波が打ち飛ばされ、ハワードはそれを生身で受け止める。しかし、限界を超えたハワードは、そのまま向こうの壁まで押し飛ばされ、木っ端微塵となった。
のぞみは、楓が退避させた蛍の様子を見に飛んできていた。大粒の涙がボロボロとあふれ、頬を流れている。