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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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323.メフィナル現象

ダンジョンエリアから空を照らすように、膨大な源気(グラムグラカ)の束が放たれた。

十数クルも離れた他学院のキャンパスからも見えるほど、大規模な現象で、テスト会場にいた観覧者やゴールした心苗(コディセミット)たちの間にどよめきが起こる。


「あれを見ろ!」


「あんな莫大な源気のメフィナル現象が起こるなんて、一体?」


 さっきまでは盛り上げ役に徹していた司会のレイニも、深刻なニュースを報じるキャスターのように冷静な態度に変わった。


「なんと、現在ヘサトラミュウジュダンジョンエリアにおいて、メフィナル現象が発生しています。一体何が起こっているのでしょうか?」


 生き物に死が与えられると、その身体に宿る源気が放たれる。これをアトランス界ではメフィナル現象と呼んでいる。大抵の生き物の場合、メフィナル現象は光の玉が霧散する程度の規模で起こる。だが今、昇っていく光の玉が柱のようになり、目視できるのを見れば、死に臨むのが膨大な源気を持つ者であることが伺えた。


 教諭陣の間に、険しい雰囲気が湧き上がる。(ヨウ)が青ざめた表情で呟いた。


「まさか、神崎さんの事件に関係があるのかな……」


 カルロスが聞き捨てならないというように姚に視線を向ける。


「カンザキ君の事件?それは何の話だ、詳しく聞かせたまえ」


「カルロス先生、知らないの?四週間くらい前から、神崎さんは殺し屋に狙われているのよ。機関が事件として扱って、()とラメルスが警護、捜査を続けてるようだけど、まだ未解決みたいね……」


「うむ。たしかにハストアル棟領内のみならず、我がクラスの心苗との共同授業の際にも三年の『尖兵(スカウト)』が張り込んでいたか……。だが、二週間ほど前には彼らの姿も見えなくなっていたようだが?このメフィナル現象とも関係があるのかね」


「分からないけど。でも……神崎さんだけじゃないわ。A組の上位心苗たちが全然帰ってきてない。皆、ダンジョンエリアに入ったっきりで、神隠しにでも遭ったみたいに姿を見ないわね」


 大規模のメフィナル現象を見て、ポールも厳しい顔で沈黙している。ポールはA組の心苗だけでなく、自分の教え子であるエクティットの姿も見えないことに気付いた。姚の話を聞き、獣のように低い唸りを上げる。


「あのネズミ坊主野郎、一体どこにいやがる」


 姚は苦笑したが、この状況においても義毅(よしき)に対する信頼は厚かった。


「もしもこのメフィナル現象が事件と関連があるなら、トヨちゃんはもうすでに、現場近くにいるんじゃない?」


 教諭陣の中にはルビスの姿もあった。いつになく心配そうな目で、遠くを眺めている。


「皆さん、落ち着いて聞いてください。先ほど、機関より情報が入りました。現在、ヘサトラミュウジュダンジョンエリア内で、事件が発生。すでに状況は把握され、ダンジョンエリア内の一部ルートが封鎖されています。機関より中止の指示がないため、テストは続行いたします」


 休憩エリアでは、(トウ)が顎に手を添え、黙っていた。(れい)も不愉快げな表情は変えず、腕組みをしている。


 A組ではルミナスがゴールに辿り着き、鄧、綾、アニターのグループに合流している。

 アニターは口を開け、心配するような目つきになった。


ルルが作戦に参加しているのを知っているルミナスは、日頃付き合いのある彼女を心配していた。


「あの光の柱の下に……ドイルさんがいるのかな……?」


 アニターが鄧に訊ねかける。


「トウさん、あれ、本当に大丈夫かな?」


「……明らかにトラブルが発生していますね。死傷者の有無は不明ですが、何かしら、一つの難関を抜けたと考えてもいいでしょう」


 綾は未だ複雑な胸中を抱えていたが、ほとばしる義憤を抑えきれず、ついに踵を返した。


「カゼミさん?」


 休憩エリアを離れる綾に、アニターが声をかけた時には、もうその姿は遠く離れていた。


 綾は、作戦に参加する同級生のうち、半数は自分よりも実力評価が低いと知っている。にもかかわらず、作戦から外されたのは自分だった。それがどうしても納得できない。

 そして綾は、休憩エリアから、テスト会場の逆にある施設に入っていった。

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