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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
319/345

318.最凶の復活術 ①

 地下、柱の間では、のぞみたちが貝竜ミラドンキスと戦闘を続けていた。数十分の激戦で彼らの多くは負傷し始めていたが、それでもまだ動きに支障はなく、健闘している。


 のぞみの持つ金銀の二刀の柄にも、彼女自身の血が付いていた。体にも乾いた血が付着している。それでものぞみは『ルビススフェーアゾーン』を展開し、戦った。

 十数回に渡る技を繰り広げ、首を斬り付けたのぞみだが、聖霊の攻撃を避けきれず、吹き飛ばされて壁に直撃した。肩や腕からも血が流れたが、『玉心歸元(ぎょくしんきげん)』で傷を治した。

 だが、体の傷が治ったからといって、流れた血を洗えるわけではない。見た目はかなり痛々しいままだったが、気力は十分だった。


 のぞみの体を、燃焼するような強い源気(グラムグラカ)が纏う。ここまでのエリアでは、皆に支えてもらいながら、体力を温存させてもらった。今こそ戦うべき時だと、のぞみは全身全霊を賭けて、聖霊との戦いに臨んでいる。


 突進してくる聖霊の首が当たるよりも前に、のぞみは体を回転させ、『ルビススフェーアゾーン』をつむじ風のようにしてバリアした。突風で首が方向転換させられると、そこを狙って二本の刀を斬り払う。


「もう攻撃パターンは読み切ったよ!」


 のぞみの反対側から、ラトゥーニがメイスを打ち込む。源気を注がれたメイスとのぞみの刀の連携攻撃によって、太い首が内部から爆裂した。残りの首は、塩をかけたナメクジのように縮んだかと思うと、あっけなく崩れた。


「やっぱりね。この首、物理的な攻撃しか効かないんだよ」


 向こうでは修二は一本の首に剣を深く刺し、そこにメリルが追加斬撃を加えて切断した。


「な~んだ、聖霊って言っても、ちょっと血の多いヘートロル虫だな?」


「でも、毒液と光弾には注意しないとヨン!」


 (ほたる)は身軽に宙を飛び、『六紋手裏剣』で同時に多数の首を斬っていく。


 手裏剣が蛍の手元に戻るよりも前に、ミラドンキスの傷口を、ルルが集中的に打撃した。気弾ではなく、拳を使った物理攻撃だ。さらにアッパー攻撃を加えると、一つの首が弾け散った。


 悠之助はコマのように回ると、掌で強く地面を押して、聖霊の首を避けるように中空に飛び上がった。そして、そのまま四回転すると、落下する力を使って、ミラドンキスの傷口を狙い、足を振り下ろしてその首を蹴り折った。


 別の首がヌティオスへと突撃してきた。ヌティオスは上の二本の腕、それに上顎の牙で聖霊を受け止める。手足にも目一杯力を入れて、聖霊に噛まれないようにしていた。衝撃を受け止めているヌティオスだが、反撃に転じることはできない。首は地面を掘りながら、ヌティオスを押していく。


 全身を黄土色の光に包まれたヌティオスは、大きく口を開け、鋭い歯を見せて、狂った鬼のように叫んだ。


「ウォオオオオオオ!負けねぇぞぉぉ!!!」


 ヌティオスが攻撃を受け止め続けている間に、その長い首の上に、ラーマが飛び上がった。


「ヌティオス君!今、終わりにしますから!」


 ラーマは源気を溜めたジャマダハルで『テンペストスラッシュ』を繰り出し、首を切断した。ヌティオスの手元には亡骸だけが残った。ヌティオスは切断された首を足で食い止め、思い切り投げて壁にぶつけた。首は壁に衝突し、そのまま爆散した。


 のぞみたちは、徐々にミラドンキスの首を減らすことに成功していた。肉体の余裕は、戦略的余裕に直結する。


「この守護聖霊について、もっと情報はねぇのか?」


と、クラークが刀で斬り払いながら言った。


「ミラドンキスは、自分のテリトリーに入った者すべてを認識し、必要な数の手を伸ばして、異物を丸呑みすると言われています」


「え、じゃあ、この首みたいなやつは、ミラドンキスの手なんスか?」


 (ラン)はもうかなりスタミナを失っており、途切れ途切れの声で言う。


「で、でも、変ですよね……。ミラドンキスの手は、私たちよりもずっとたくさんありますよ……?」


 一つの手で一人を丸呑みする計算ならば、あまりにも手が多すぎる。


「……それはつまり、この柱の間の中に、私たち以外にも誰かがいるということでしょうか?」


 のぞみがそう言うと、クラークが苦い顔をした。


「おい、それって、カンザキさんを狙う、殺し屋のことか……?」


 金色の光が、水平を描くように浮かぶ。ティムが最後の首を斬り払った。とどめを差すように、楓が連携攻撃を加え、竹刀をその首の真上から叩き落とす。


「分かりませんが、私が数えたところ、首、もしくは手は、37本。我々は14人ですから、他に13名の存在があると、聖霊は認識しているのでしょう……」


ドンッ!と音がして、最後の一本、太く長い首が地に倒れた。


「やったか!?」と、魔獣討伐のような達成感のある声で、修二が興奮して言った。


 しかし、相手は魔獣ではなく聖霊。縁起の悪い言霊を聞き、藍は慌てて修二を振り向く。


不破(ふは)さん、そんな言い方は……!」


 歯に衣着せぬ物言いは、デュクも一緒だ。


「首を全部倒したのは事実だろ?」


「妙だな」とジェニファーが言った。


「首を全て斬っても、本体が消えない」


「もう、死んでるんじゃないッスか?」


 悠之助がそう言った次の瞬間。

 巨大な貝が、地獄の蓋を開けるように開き、衝撃波が吹き出した。


「何だこれは!?」


クラークが叫び、ラーマも「猛烈な衝撃波ですね」と、弦楽器のように高い叫びを上げた。


 受け身の上手くない悠之助、デュクは、衝撃波だけで吹き飛ばされている。


 大きく開いた貝の中からは、細長い青色の触手が伸びていた。触手は筋肉のような柔らかいものでできていて、電光が走っている。貝の内側は、上にも下にも臓器があり、それらには多数の小さな穴が空いている。そして真ん中には、心臓を包んでいる大きな玉が光っていた。


「こいつ、まだ生きてんのかよ!?」


「第二形態……」


「これは、どう戦えば良いでしょう……?」


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