318.最凶の復活術 ①
地下、柱の間では、のぞみたちが貝竜ミラドンキスと戦闘を続けていた。数十分の激戦で彼らの多くは負傷し始めていたが、それでもまだ動きに支障はなく、健闘している。
のぞみの持つ金銀の二刀の柄にも、彼女自身の血が付いていた。体にも乾いた血が付着している。それでものぞみは『ルビススフェーアゾーン』を展開し、戦った。
十数回に渡る技を繰り広げ、首を斬り付けたのぞみだが、聖霊の攻撃を避けきれず、吹き飛ばされて壁に直撃した。肩や腕からも血が流れたが、『玉心歸元』で傷を治した。
だが、体の傷が治ったからといって、流れた血を洗えるわけではない。見た目はかなり痛々しいままだったが、気力は十分だった。
のぞみの体を、燃焼するような強い源気が纏う。ここまでのエリアでは、皆に支えてもらいながら、体力を温存させてもらった。今こそ戦うべき時だと、のぞみは全身全霊を賭けて、聖霊との戦いに臨んでいる。
突進してくる聖霊の首が当たるよりも前に、のぞみは体を回転させ、『ルビススフェーアゾーン』をつむじ風のようにしてバリアした。突風で首が方向転換させられると、そこを狙って二本の刀を斬り払う。
「もう攻撃パターンは読み切ったよ!」
のぞみの反対側から、ラトゥーニがメイスを打ち込む。源気を注がれたメイスとのぞみの刀の連携攻撃によって、太い首が内部から爆裂した。残りの首は、塩をかけたナメクジのように縮んだかと思うと、あっけなく崩れた。
「やっぱりね。この首、物理的な攻撃しか効かないんだよ」
向こうでは修二は一本の首に剣を深く刺し、そこにメリルが追加斬撃を加えて切断した。
「な~んだ、聖霊って言っても、ちょっと血の多いヘートロル虫だな?」
「でも、毒液と光弾には注意しないとヨン!」
蛍は身軽に宙を飛び、『六紋手裏剣』で同時に多数の首を斬っていく。
手裏剣が蛍の手元に戻るよりも前に、ミラドンキスの傷口を、ルルが集中的に打撃した。気弾ではなく、拳を使った物理攻撃だ。さらにアッパー攻撃を加えると、一つの首が弾け散った。
悠之助はコマのように回ると、掌で強く地面を押して、聖霊の首を避けるように中空に飛び上がった。そして、そのまま四回転すると、落下する力を使って、ミラドンキスの傷口を狙い、足を振り下ろしてその首を蹴り折った。
別の首がヌティオスへと突撃してきた。ヌティオスは上の二本の腕、それに上顎の牙で聖霊を受け止める。手足にも目一杯力を入れて、聖霊に噛まれないようにしていた。衝撃を受け止めているヌティオスだが、反撃に転じることはできない。首は地面を掘りながら、ヌティオスを押していく。
全身を黄土色の光に包まれたヌティオスは、大きく口を開け、鋭い歯を見せて、狂った鬼のように叫んだ。
「ウォオオオオオオ!負けねぇぞぉぉ!!!」
ヌティオスが攻撃を受け止め続けている間に、その長い首の上に、ラーマが飛び上がった。
「ヌティオス君!今、終わりにしますから!」
ラーマは源気を溜めたジャマダハルで『テンペストスラッシュ』を繰り出し、首を切断した。ヌティオスの手元には亡骸だけが残った。ヌティオスは切断された首を足で食い止め、思い切り投げて壁にぶつけた。首は壁に衝突し、そのまま爆散した。
のぞみたちは、徐々にミラドンキスの首を減らすことに成功していた。肉体の余裕は、戦略的余裕に直結する。
「この守護聖霊について、もっと情報はねぇのか?」
と、クラークが刀で斬り払いながら言った。
「ミラドンキスは、自分のテリトリーに入った者すべてを認識し、必要な数の手を伸ばして、異物を丸呑みすると言われています」
「え、じゃあ、この首みたいなやつは、ミラドンキスの手なんスか?」
藍はもうかなりスタミナを失っており、途切れ途切れの声で言う。
「で、でも、変ですよね……。ミラドンキスの手は、私たちよりもずっとたくさんありますよ……?」
一つの手で一人を丸呑みする計算ならば、あまりにも手が多すぎる。
「……それはつまり、この柱の間の中に、私たち以外にも誰かがいるということでしょうか?」
のぞみがそう言うと、クラークが苦い顔をした。
「おい、それって、カンザキさんを狙う、殺し屋のことか……?」
金色の光が、水平を描くように浮かぶ。ティムが最後の首を斬り払った。とどめを差すように、楓が連携攻撃を加え、竹刀をその首の真上から叩き落とす。
「分かりませんが、私が数えたところ、首、もしくは手は、37本。我々は14人ですから、他に13名の存在があると、聖霊は認識しているのでしょう……」
ドンッ!と音がして、最後の一本、太く長い首が地に倒れた。
「やったか!?」と、魔獣討伐のような達成感のある声で、修二が興奮して言った。
しかし、相手は魔獣ではなく聖霊。縁起の悪い言霊を聞き、藍は慌てて修二を振り向く。
「不破さん、そんな言い方は……!」
歯に衣着せぬ物言いは、デュクも一緒だ。
「首を全部倒したのは事実だろ?」
「妙だな」とジェニファーが言った。
「首を全て斬っても、本体が消えない」
「もう、死んでるんじゃないッスか?」
悠之助がそう言った次の瞬間。
巨大な貝が、地獄の蓋を開けるように開き、衝撃波が吹き出した。
「何だこれは!?」
クラークが叫び、ラーマも「猛烈な衝撃波ですね」と、弦楽器のように高い叫びを上げた。
受け身の上手くない悠之助、デュクは、衝撃波だけで吹き飛ばされている。
大きく開いた貝の中からは、細長い青色の触手が伸びていた。触手は筋肉のような柔らかいものでできていて、電光が走っている。貝の内側は、上にも下にも臓器があり、それらには多数の小さな穴が空いている。そして真ん中には、心臓を包んでいる大きな玉が光っていた。
「こいつ、まだ生きてんのかよ!?」
「第二形態……」
「これは、どう戦えば良いでしょう……?」