314.狂い、散る、尖兵
のぞみたちが柱の間に入ったおよそ三分後。
サイバスチャンと四人の『尖兵』の交戦は続いていた。
庭側にいた大剣を持つ男子心苗は、スーツの背とブーツに内装した源気反転アクセルブースターで宙を飛び進む。一方のサイバスチャンは、搭載している戦闘機元の、接近戦に対応するステークアームを伸ばしてその攻撃を受け止める。
サイバスチャンの隙を突くように、男は二度目のバスター砲攻撃を仕掛けた。
だが、戦闘機元が展開したバリアにより、光弾は弾かれる。
男がサイバスチャンの注意を引きつけている間に、庭側で待機していた小柄な女性『尖兵』は、盾をさらに変形させ、傘の柄の部分に当たるパーツが内装するグレネードでサイバスチャンを狙い撃つ。
「止まって……!」
グレネードが爆発し、赤い煙幕が上がった。サイバスチャンは煙幕の刺激物質にやられたのか、激しくむせ、涙や鼻水も溢れだしている。
男が三度目のバスター砲を撃った。
サイバスチャンは戦闘機元を浮かばせて中空への退避行動を取る。
そして戦闘機元を跳び離れると、それらは分解し、アーマーパーツに変化した。サイバスチャンはパーツを組み立てるように身につけていく。
アーマーパーツのおかげで、生身で空を飛ぶことすら可能になったサイバスチャンは、手足を一度縮こめてから、強く投げ出す。その動きに合わせて、機元装甲からレーザービームが乱射された。
大剣の男は機敏な動きで距離を取り、ビームを避ける。
「……さすがは『尖兵』資格保持者。そう簡単には近付けないか」
女性は盾の下に身を隠しながら、上空のサイバスチャンを見上げた。
「あははははははは!!!!!うるさい小バエども!死ねぇ!!」
サイバスチャンの首や頬には血管がビキビキと強く浮かんでいる。狂気の中にある彼は、右腕の機関砲武装を使い、源気の弾丸を二人に浴びせた。
庭の二人がサイバスチャンを引きつけている間に、リーダーともう一人の若い男が、スーツのパーツを使って宙に浮き、背後を取った。そして二人は銃身の長いバスターランチャーに源気を集め、撃つ。射出された液体弾が、サイバスチャンの背中にカラーボールのように付着する。ネバネバした紫色の液体が機元装甲の機能を無効化し、サイバスチャンは飛行能力を失い落下し始めた。
リーダーの男が墜落するサイバスチャンに近付き、水晶化したダブルランサーを長く伸ばして彼を打つ。
「大人しくしろ!!」
その一撃でサイバスチャンは意識を失ったまま地面に激突した。ネバネバの液体で自由を奪われてはいるものの、安心はできない。三人は距離を取ったまましばらく見ていたが、十数秒経っても大きな動きはなかった。
リーダーは気を引き締めたまま、本部に連絡を取る。
「こちら、ヘーラ小隊。少し手間取りましたが、サイバスチャン・ロヴァートを制圧しました」
<イールトノンに連行してください>
「了解しました。ロヴァートを拘束します」
落ち着いた様子のサイバスチャンに、四人が近寄る。
突如、サイバスチャンの目が大きく見開かれた。彼は発狂したように雄叫びのような笑いを響かせる。粘着液で動きを封じられてはいるが、源気の強度が異常な勢いで上昇した。
「アッハハハ!!滅べ!全て滅べ!!!」
サイバスチャンが妖しげな光を帯びているのを見て、一人が叫んだ。
「隊長!源気数値がデータ値を数倍に上回り、さらに上昇しています!」
「まずい!総員待避だ!!!」
次の瞬間、サイバスチャンは自身の源気の限界を突破した。最大限に集中していたエネルギーは一気に放出され、恐ろしい光とともに爆発が起こった。
直後、直径20クルものキノコ雲が浮かんだ。機関が結界を作っていたため、被害は最小限に抑えられたが、サイバスチャンの寮は壊滅状態で瓦礫が散らばり、空圧は半径2クル圏内に届いて樹木を強く揺らした。