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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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311.集う心苗たち

戦況は混沌としていた。


 その時、誰かが橋を渡っていった。そして、橋の左側にある石柱の台座が炎に包まれ、光の刃が刻まれる。三本の石柱はほぼ同時に倒壊し、そのそばに、ツーハンドソードを持った男が立っていた。


 最初に彼に気付いた藍が呼びかける。


「あなたは……『眞炎たる裁き(プロテウス)』……!」


 白い肌、燃える炎のように赤い髪、薄い唇。彼は涼しげな表情で、同行している側近たちに声をかけた。


「皆の者、彼らを応援し、石柱を一つ残らず破壊しなさい」


「了解しました。ローランド様!」


 ローランドの命に応じて、六人の女子心苗が一斉に現れ、戦闘に加勢した。


 その数を減らしつつあった石像たちは、突然の増援に対応しきれず混乱し、動きに隙が生まれる。のぞみたちの戦闘効率が上がり、ついに戦況が変わった。


 治安風紀隊であるローランドの介入に気付くと、クラークは警察官でも見つけたように慌てて声を上げた。


「ち、違うんだ!俺たちはただ、プログラムのサインに従ってここに来ちまっただけで、それ以上のことは何も考えてない!」


 クラークは自分たちが排除されるのではないかと思ったようだが、


「事情は把握しています。警備拠点において、ダンジョンの機元端(ピュラルム)プログラムのハッキングが確認されました。何者かに誘導され、ここに辿り着いてしまったのだと理解しています」


 石像を倒したティムは、一瞬のクールダウンの間に、道を間違えてから今までの情報を再整理することができた。


「そうでしたか。今のこの状況に、ようやく説明が付きました」


 修二もローランドに気付き、古傷が痛むような気持ちになって苛立ちを覚えた。


「お前、何でここにいるんだ?」


「もちろん、僕は君を笑いに来たんですよ。『神石の剣豪(アスペルゴ)』」


「はぁ?」


 修二は今にも掴みかかりそうな様子で、ローランドに近付いていく。


「『神石の剣豪』と呼ばれし君が、一体何をしているんですか?この程度の状況で仲間を救えないようでは、僕と戦うなんてまだまだ先の話ですね」


 さらに挑発され、修二は見せつけるように一太刀で石像を粉砕した。


「うるせぇ!頼んでもないのに来るんじゃねぇよ!」


「おや、強情ですね」


「Mr.ロキンヘルウヌス、お力添えいただきありがとうございます」


 そう言いながらもラーマは、ローランドの行動が理解できずにいた。


「しかし、あなたは治安隊の副隊長ですよね。学園の重要施設である管制エリア内のものを破壊してよろしいのでしょうか?」


「異常事態中に起きたことですから。それに、このセキュリティー機能は例え破壊しても、0時になれば回復します。罪の追及はないでしょう」


「その情報はでけぇな」と、クラークがあからさまにホッとした表情になった。


「ただし、これ以上進んでしまったなら話は変わります。向こうに見えるあの扉には一瞬たりとも触れてはいけません。一刻も早くここから脱出すべきです」


「偉そうに能書き垂れてばっかりで、協力する気があるなら手を動かせよ!」


 修二は燃え上がる闘志を石像にぶつけながら、飄々とした様子で話すローランドに向かって吠えている。


「そうですね、では石柱は僕が壊しますから、君たちは脱出の準備をしてください」


「そッスね!早く戻って、テストに戻りたいッス」


 テストのことを忘れていないのは、悠之助だけでなく、(ラン)たちも同じだ。


「完走できなければ落第になっちゃいますからね!」


 (ほたる)は『雷光爪(らいこうそう)』を繰り出し、一体の石像を縛り上げる。そのまま足下へ引き寄せると、もう一方の手に持つ(グラム)のクナイで三連斬りを加えて解放すると、すぐさまバク転し、蹴りを入れて敵を蹴散らした。


 蛍は冷静に目の前の敵を倒すと、集中した面持ちで周囲を見る。武威に輝く修二から目を引き離すと、その次にのぞみを、さらに他の心苗(コディセミット)たちに焦点を当てた後、一瞬で次のターゲットを決めて走り出した。


 石柱が一本ずつ倒壊し、石像は敗北の一路を辿っている。その状況を、喜びきれない人物が一人だけいた。ジェニファーだ。


 ジェニファーはまだ、のぞみ暗殺を諦めたわけではなかった。

 山のゲートで協力者たちが一堂に会し、集団のリーダーは多数決でティムに決まった。この場でティムに背くことは叶わない。戦術も人員配置も受け入れ、ジェニファーは時が満ちるのを待っていた。


 不自然な動きはできないと分かっていたとはいえ、ティムの決めた陣形は、ジェニファーにとって不都合なものだった。ラトゥーニ、メリル、ルルによる前方の固い護衛、そして目の前に修二を置き、背後にはティム、楓、ラーマが目を光らせている。まるで自分とのぞみを引き離すよう考え尽くされたこの陣形で、ジェニファーは微塵の隙もないまま、ここまで来てしまっていた。


 アーリムからは『連携暗殺』を言い渡されたジェニファーだが、無差別に攻撃を仕掛けられているこの状況では、さすがに暗殺の余裕はない。


 ローランドが来て、石像による死者が出ることは防げそうだが、暗殺の難易度はさらに上がった。


(まずい、このままじゃ失敗する……。マスター・ローウェスとは未だ連絡が取れていないが、連絡がない以上、任務は続行すべきだ。今後、チャンスがあればいいが、もし連絡が取れた時にまだ任務完了できていないとなれば……おそらく私に次はない……)


 固いジェニファーの横顔を見てルルが、「ツィキーさん、どうしたの?」と声をかける。ジェニファーは心の中を読まれまいと、「何でもない」とだけ言った。


 ローランド陣営の強力な加勢により、20本あった石柱のうち16本が破壊され、石像はもう5体しか残っていない。


「よし、今のうちに脱出しようぜ!」とクラークが言った。


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