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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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305.絶望の一手

15分が経った。のぞみたちは山エリアのゲートを通過し、予定通り協力者たちと合流した。陣形はさらに変化し、1―3―4―3―3となっている。先頭にラトューニ、すぐ後ろにメリルとのぞみ、そしてルルが付いた。その後ろがクラーク、(ラン)、修二、悠之助となり、後続ではヌティオスとデュクの巨人コンビがジェニファーを挟んでいる。最後尾にはティム、楓、ラーマが配置され、三人は集団全体を見ての戦況コントロールを任されている。


彼らがダンジョンに入ると、さらに後ろから、陣形とは関係なく、(ほたる)とクリアが微妙な距離を空けて追ってきていた。


 エルヴィたち警護班メンバーも、テストの邪魔にならないよう、後方から尾行を続けている。


 最初の三叉路となり、ラトューニは左の道を選んだ。彼らの進む道を見て、クリアは右の道を選ぶ、関わりたくない気持ちが強かったのだ。蛍は立ち止まり、悩んだ末に、


「ごめん、やっぱり放っとけない」


とクリアに宣言し、左の道を選んだ。


 ラトューニに導かれるようにして、のぞみを含めて13人の集団は進む。道中、現れたどんな魔獣も、後衛の心苗(コディセミット)たちの飛び道具ですぐに倒された。無敵の急行列車のように、彼らは走る。ダンジョン内に仕掛けられたトラップでも、彼らを止まらせることはできない。のぞみは後衛にいるジェニファーに意識を向けていた。


 ラトゥーニに誘われて協力者となった彼女だが、治安風紀隊のメンバーである以上、事件に関わる理由と権限は十分にある。今、ここに彼女がいることに疑いの目を向ける者は一人もいない。今のところ同級生の中で、ジェニファーが殺し屋である真実を知っているのは、ティフニー一人だ。


 その頃、中央情報中枢センターでは、イーブイタが情報ボードを眺めていた。のぞみたちの進捗は順調で、全ては円滑に進んでいるように見える。しかし次の瞬間、彼はダンジョンの機元端(ピュラルム)に異常サインが出ていることに気付いた。


「ソ副部長。ダンジョンエリアの機元端がハッキングされています!これは、先日の演習授業の際に起きたパターンと同じです」


「遂に来たか……」と、()も情報ボードを見た。


ハークストはまだ冷静さを失わず、


「やはりダンジョンで手を打ってきたね」と頷いている。


「今回はどんな改ざんが行われている?」


「ダミー魔獣のみならず、コースの順路サインの設定まで改ざんされている模様。彼女たちの集団はすでにコースを離脱しています」


「何!?ダンジョンエリアのシステムを再起動させることは可能か?」


「それでは他の心苗たちが混乱に陥ります。テストが一時中断になりますが……」


 イーブイタの指摘に、蘇は冷静さを取り戻す。


「彼女らだけのためにテストを中断するわけにはいかないか」


 このレベルの大イベント中にトラブルが起きた場合、コントロール可能であれば全体を続けながら、必要な部分のみ対応する。また、このイベントは闘士(ウォーリア)の実力を試すことを目的としているため、トラブル発生中の対応力を見る意味でも、イベント中止の即決は、通常ありえないことだ。


「どこからの攻撃か分かるか?」と蘇が訊ねる。


「調査中です」


「このままでは犯人に逃げられますね。蘇、君は現場の指揮に専念してください。ハッカーの方は私が」


「助かる」


 ハークストはスーツのボタンを押し、『念話』でロッドカーナルの生徒会、情報部に指示を出した。


「私です。ハイニオス学院内で機元端のハッキングを確認。ハッカーの位置をマークしてください。逮捕までを任務として要請します」


 投影された画面に、生徒会のメンバーリストが現れる。ハークストはミッションに当たるメンバーを指名し、すぐに出動要請を出した。


 蘇は数刻の間に自分の取るべき対応を考え、イーブイタに呼びかける。


「イーブイタ君、カンザキノゾミの走るコース内にある源気(グラムグラカ)反応を洗い出してくれ」


「分かりました」


 それからサーイトを振り返り、


「サーイト君、ハッカーが彼女たちをどこに連れて行こうとしているか、ルート計算は可能か?」


「了解、一分で調べます」


 イーブイタの調査が先に終わった。


「ソ副部長、彼女が行く先のエリアに源気反応は一名の心苗のみ。『章紋術(ルーンクレスタ)』の波長が見られます」


「すぐに『章紋術』の専門の方に調べさせなさい」


「承知しました」


 その間にサーイトの計算結果が出た。

「ソ副部長」と呼びかける、サーイトの声に緊張感が混じっている。


「このルートの先にあるのは……立ち入り禁止エリアです。この先は……東北の柱の間になっています」


「何だと!?」


 蘇はつい、声を荒げたが、それも無理はない。

 イトマーラの結界は、聖光学園(セントフェラストアカデミー)内にある九つの柱で支えられている。いずれの柱にも守護聖霊が存在し、その柱を守っているが、柱の間に入った者は事情にかかわらず、侵入者として抹殺される。


「奴は学園の守護聖霊の力を利用してカンザキを殺すつもりか!」


 事態の厳しさに気付き、蘇は声を上げる。


「リュウたちに知らせろ。一刻も早く、彼女たちを正規ルートに戻せ!」


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