193.豊臣邸でのゲーム夜会 ②
二人が作った男のキャラクターは、少女二人の意に沿って動き出し、ダンジョンを突破しながらモンスターを倒していく。のぞみは最初からキャラのスキルと動きの限界を試すため、コントロールしているキャラにあえて横暴な振る舞いをさせる。そしてわずか数秒で設定のコンセプトを掴んだ。のぞみが動かす男キャラの動きは一気に神技を習得したように、粋なアクションでステージを踏破していく。
短時間でゲームのコツを把握するのぞみに、クラウドはびっくりした。
「カンザキさん、凄いですね!もうこんなに上手に動かせるなんて。もしかして経験者ですか?」
「このテーマソフトは初めてですが、フミンモントルの一年生後期で受ける基礎授業では、人形を動かす課題があります。そのコントロール法を応用しています」
「凄い、また見たこともない技を……。このキャラにそんな裏技があるなんて知りませんでした。どうやったらできるんですか?」
面食らっている様子のクラウドに対し、のぞみは大したことではないと言いたげに答える。
「そうしたいと思えば、普通に動きますよ」
予想以上にのぞみがゲームを上手くやっていることを、義毅は喜んでいる。
「ハハ、思ってた以上だな。お前をプレーヤーに誘ったのは正解だぜ」
「うーん、嬉しいですけど……」
「この調子で一気にこのステージを突破するぜ」
「はい……」
完全にゲーマーモードに入って没頭している義毅に、のぞみは苦笑した。
(先生、いつになったら相談させてくれるかな……)
のぞみはゲームを終えて相談に乗ってほしい一心で、素早くステージをクリアする。次のステージを生成するための待機時間となり、ダンジョンが作り替えられていく。
クラウドはグライムソーダを飲んではチップスを口に放りこみながら、のぞみに話しかける。
「カンザキさん、本当に凄いですね。僕がやると、どんなテーマソフトでも、キャラが亀のように動きが鈍くて遅いんですよ」
「たしかに他の属性の源使いと比べると、格段に操士が有利なゲームかもしれません。でも、ルレコンはよく練習すればきっと上手くなりますよ」
クラウドがまた訊ねる。
「操士が実際に物を創って動かすのも、ゲームと同じ原理なんですか?」
「『意のコントロール』だけでなく、動かす対象を形作っている源気の本質にも関係があります。私も、本質が異なる源を動かすのは初めての体験です」
自分の源気で動かしながらも、物そのものには相手の気配を感じる。
「このキャラは、ずいぶん暴れん坊です。少し気を抜くと手綱を放した馬のようにすぐに暴走してしまいます。自分のものではない源気でできたものを操るのも面白いんですね」
「それでも短時間でここまでコントロールできるようになるなんて、さすがは元操士の優等生ですね」
ゲームが始まるまで、のぞみはしばらく無言になった。
授業では罰ゲームといってあれこれ悪戯のようなことをされてしまうが、そのたびに義毅なりの考えがあることに、のぞみはいつも気付かされる。そのことを思うと、今日、こうして相談に来たはずなのにルレコンで遊びながら思うのは、これも義毅が教えたいことがあるからなのでは?ということだ。のぞみは戸惑っていた。
(先生は私に、操士の方が向いているんだから、そっちに専念しろって言いたいのかな……)
第二面のステージが始まったが、汐はのぞみの気持ちに気付いた。しばらくはゲームを続けていたが、折を見て、義毅に言う。
「トヨトヨパパ、このステージか、その次のステージまで行ったら、私は抜けますね」
「おう、バスタイムか?」
「はい。クラウド兄ちゃんも、明日の『章紋術』のテストの準備、忘れないでくださいね」
汐に釘を刺され、クラウドの顔が一気に青ざめた。
「……あっ、そうだった……。僕が一番苦手な『誓詞章紋』だ……」
「不合格だったらまた補習を受けないといけないんでしょ?」
「えっ、ハイネールさん、勉強しなくていいんですか?」
「いつも不合格ですからね……。でも、ギリセーフを目指すなら勉強しないと……」
「ハハ、仕方ねぇさ、アイラメディスはバカほどテストが多いからな」
義毅は仕方がないと言ったが、第三面のステージが終わると、汐とクラウドは一緒に席を立った。
「のぞみお姉ちゃん、トヨトヨパパとのお話で悩みが解消するといいですね」
汐はのぞみが義毅と二人きりで話ができるように、時間を作ってくれたのだ。
だが二人が去っても、のぞみは少しの間、声をかけることができなかった。キャラの叫び声と、モンスターを倒す音だけがリビングに聞こえている。
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