187.空気が冷たくなるクラス
二日後、2年A組は、体術・アクションスキル強化演習の時間だった。藍は集中訓練を優先させたため、授業には出ていない。ヌティオスやメリルなど、のぞみと親しい心苗たちも、ほとんどが授業には出ていない。
のぞみは自分の記録を見ていた。全長8ハル(=9.6キロメートル)の訓練施設を、今日は22分118秒963で完走した。今日のメニューを三回走り、自己記録を数十秒、更新したものの、クラス順位としては最下位だった。
中間テストがより近付いてきて、A組だけでなく、他クラスの心苗たちも体力をはじめ、知らないうちに全体的な能力を伸ばしていた。のぞみは、自分のペースでは皆に追いつけないことを痛感し、プレッシャーを感じていた。
「のぞみちゃんの調子はどうですか?」
「まずまずです……。初音ちゃんは?」
「何とか20分以内で完走できたかな」
「えっ、凄い……!」
初音は少し照れくさそうに、頬をぽりぽり掻いて笑った。
「えへへ。最近、所属門派でアクションスキルの集中特訓を受けてたんだ。苦行だけど、何とか耐えれるようになってきてて」
元々アクションスキルが苦手な初音までも大きく成長していることに、のぞみは「まさか」という思いだった。
「そうですか、どんな特訓ですか?」
「3トンの足枷を付けて道場の敷地にある後山コースを走るんだけど、途中で絶壁を登ったり、滝の下の小道を渡ったりするの。最初は枷が重すぎて10メートルも走れなかったんだけど、あれから体が軽く感じて、動きがよくなったよ」
「身体能力がすっかり伸びたんですね?高所まで克服して、偉いです」
「高所は嫌だけどね。でも、体が軽くなったから、跳びあがって上だけ見ていれば忘れられる気がするんだ」
やはり、元から闘士の素質を持っている初音だ。しっかりと訓練で能力を磨いていけば、効果が見えてくる。
「私、もう一周走ってくるね」
初音がスタートポイントへ去っていくのを見ながら、のぞみは妙に心が冷たい感じがした。
中間テストの実技試験は、『魔獣退治』『対人闘競』『身体能力フィットネステスト』と開示された。項目がわかってから、クラスの雰囲気はさらに張りつめたものになった。
テストの時は、皆がライバルだ。たとえ親友であっても、譲れない時がある。
それにのぞみは、ルルの闘競を断ってから、以前にも増して弱虫扱いされている。さまざまな事情があるとはいえ、のぞみが同級生に話しかけても、見えない壁があるように、遠ざけられている気持ちになることがあった。
アクションスキル強化演習だけでなく、のぞみは他の実技授業でも、誰にも及ばない。基礎拳法では型の稽古のペースすら追いつかず足手まといとなり、剣法・剣術基礎演習では一対一の手合わせで、10戦10敗と、のぞみは皆に置いていかれる不安と傷心を抱えていた。
足手まといになるのも辛いのぞみにとって、実技授業を自主訓練に変更できるなら、誰にとってもいいことだと思った。ティフニーの弟子入りの件もあるというのに、義毅とはなかなか会えない日々が続いていた。
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