185.心得たもの
のぞみは他に用があると言うと、藍とメリルも見送りのため、一緒に闘技場を抜けた。護衛の『尖兵』も動き出し、エルティが前衛に付き案内をし、ルーチェが後ろに付く。一行は、身辺警護四人組に囲まれながら、無事に入り口の広場まで出た。のぞみはまだ顔色の悪いミナリを心配している。
「ミナリちゃん少し楽になった?」
「はい……ニャー」
何とか返事はしているが、まだ少し眩暈が残っているらしい。
観戦途中で退場してしまうのぞみに、熱血ロリとなった藍が声をかける。
「もっとバトル観戦した方が勉強になりますよ?自由席チケットの残った時間も勿体ないです」
「実は買い物の途中で抜けてきてしまったので、手続きが残ってるんです」
困り顔ののぞみを、メリルがフォローした。
「護身用の武器なら、今のノゾミちゃんには必需品だヨン」
「それなら……仕方ありませんね。でも、また一緒に観戦しましょうね!」
藍はのぞみに訊ねる。
「のぞみさんは、今日の観戦で何を得ましたか?」
のぞみはいくつかの戦闘を思い出しながら、感想を述べた。
「うーん。騎士なら、身体能力を活かして物理攻撃をするというよりも、物質に特化した装備や武具を使って多彩な戦術を展開できる。魔導士であれば、多元多彩な『章紋術』で直接的な攻撃もできるけど、それよりも繊細に綴ったトラップ章紋を発動させて奇襲的な攻撃ができる……。みんな、戦い方がそれぞれ違っていますね」
「たくさんの人の戦い方を見ていれば、ノゾミちゃんに合う戦闘タイプも見つかるはずだヨン」
「そうですね。色々考えさせられました」
「たくさん見ることで、自分の戦術の展開だけでなくて、相手の戦術に対する対処法も覚えられるヨン」
「多彩な戦闘があって、興味がそそられますね」
藍が強い口調で言う。
「とくに、生徒会幹部の闘競を一試合見るのは、普通の心苗の戦いを30戦見るよりも価値がありますよ」
「確かにそうかもしれませんね」
生徒会幹部は、一つの学院に数十人ほどの玉苗から、さらに引き抜かれたエリート中のエリートだ。
「のぞみさんも少し危機感を覚えたんじゃないですか?」
「誰かに狙われていることにですか?」
「違いますよ。性質や属性に関係なく、心苗は誰でも、対人戦の心得を備えている必要があります。魔獣の退治だけでなく、悪い人間が襲ってきた時に、自分の力で追い払えるようでなければ、闘士の恥ですよ」
珍しく真剣な面持ちの藍に、のぞみは苦笑いを返した。
「そうですね。ロム師範にも同じようなことを言われました」
「のぞみさん、笑いごとじゃありません。中間テストが終われば毎週、恒例闘競があるんです。もっと真剣にやらないと、今よりもっと大変なことになりますよ」
ティムのアドバイスを受けて、闘競を受ける頻度や基準をどうするかが課題だと思っていた。自分の思いと闘競のバランスを取ることは難しい。
「可児ちゃん、急に気合いが入ったみたいですけど、何かありましたか?」
のぞみは今日の観戦の前と後とで、藍がスイッチを押されたように突然、勢いづいたことが気になっていた。
「コールちゃんは熱血モードになったんだヨン」
「私、ミンスコーナさんのように、正義のために戦う闘士になりたいです。そのために、もっと強くならないと。中間テストまでも、まだ時間がありますから、もっともっと強化訓練を受けて……。中間テストでは、実績評価を一気に上げます!」
急に心を燃やす藍の心情を、のぞみは模索する。
「可児ちゃん、すっかりミンスコーナさんのファンになったの?」
「戦術の練り方も、あれだけの激戦において余裕のある風格も、闘士の鑑です」
「たしかに戦術が上手でしたよね。可児ちゃん、メリル姉さん、今日は観戦に誘ってくれてありがとうございました。では、私たちは行きます」
藍とメリルが手を振ってくれている。のぞみとミナリは二人にもう一度、手を振り返して、ラトゥパス闘技場を後にした。
読んで下さって有難うございます。
宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。
これからも引き続き連載します。