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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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183.クリアが見ている悪夢 ①

クリアは気持ちよさげに笑みを浮かべている。


「ふふ、闘競を10回かけて調整したこの決め技も、今日で完成ね」

「そうですか?私には大失敗に思えましたが」


 侮蔑するようなラーマの声に、クリアはゾッとして声のする方を仰いだ。ラーマは水晶ガラスで作った屋根の上に立っている。


「何?!」

「ヒタンシリカさん。いくら破壊力の高い技を放っても、ターゲットに当たらなければ無意味って、ご存じかしら?」


 ファイター二人の姿を見て、審判が叫ぶ。


「おお!両名とも立っている!すでに激しい睨み合いが再開しているようだ!」

 観覧席が熱狂を取り戻した。


 ラーマは歯を見せて笑っている。攻撃のダメージも全くないらしい。クリアは口を開け、しばらく体を硬直させた。


 クリアは自分の目の映しているものが信じられず、目を白黒させている。思い出したように右手の甲を見たが、ラーマのダメージポイントは5550とまるで伸びていない。生体容体を示す緑ライトも青に戻っている。バーサーカータイプのラーマは、クリアが大技を繰り出し、爆発が起こった後の空白の時間を使って耐力を回復していた。


 そして今、クリアが注視しているうちにもラーマの源気(グラムグラカ)数値が大幅に上昇し始め、20000を超えても止まらない。その光景は悪夢のようだった。


 クリアは手を振り、叫ぶ。


「ありえない!ありえないわよ!私、見たもの。光弾は直撃したはずでしょ!?」

「なるほど。あなたの動体視力では追いつかなかったんでしょう。あなたが狙ったのは、私が回避行動を取ったあとの残像ですね」


 それを聞いてのぞみが、「なるほど!そういうことなんだ」と頷いた。


「のぞみちゃん、どういうことニャ?」

「高速移動したとき、体に纏った源は数秒間遅れて動くから、残像のように見えるんだよ。私もD組の心苗と手合わせしたときに見たことがある」


 のぞみはエクティットとの手合わせの時に見た、奇妙な現象を思い出していた。


「あの怖いお姉さんが狙ったのは、分身だったってことかニャ」

「うん。相手が興奮したり不安定な精神状態の時ほど効果がありそうだね」


 二人の会話に、ティムも加わる。


「それだけではなくて、ミンスコーナさんの本気の走力はヒタンシリカさんよりも段違いに速い。スキルランクの違いがあれば、動作のパターンやペースを工夫することで、生み出す残像を複数にすることすら可能でしょう」


 審判による熱烈な中継も続いていた。


「さぁ、いよいよ闘競もラストスパート。勝利の女神の微笑みは、一体どちらに向けられるのか!?」


 それでもまだ、ダメージポイントはクリアの方が優勢を保っている。しかしクリアはようやく、闘競が始まってからずっと、ラーマの戦法に従わされていたこと、警告指導ポイントを与えられたのもそのせいだということに気付いた。

 上手く術中に嵌められたクリアは、歯噛みし、チャクラムを持つ手を震わせて怒っている。


「くっ、嵌められたか……許さない!」


 クリアが屋根に向けてチャクラムを投げ出した。ガラスの屋根が割れる。ラーマは攻撃を避け、5メートルほど身を引いた。

 クリアは割れたガラスの裂け目に向かって跳びあがり、歩道橋の屋根より高くまで来た。手元に戻った大型チャクラムをキャッチし、屋根の上に立つラーマに攻め寄る。


 ラーマもクリアの方へと走り進み、衝突する2秒前に水晶ガラスの屋根にスライディングする。ほとんど横たわるような姿勢になり、衝突する寸前で体を右腕一本で支え、宙空から落ちてくるクリアの腰を蹴った。


「何!?」


 蹴り飛ばされたクリアは、予想外の動きに驚く。何とか衝撃を食いとめ、屋根に着地したものの、顔に浮かんだ狼狽の色は抑えられなかった。


「スピードといい機転といい、どちらも私には及ばないようですが?」

「あんたなんかに負けないわよ!」

「マナーをわきまえないご令嬢ですね。勝負はもう決まっているでしょう?」

「黙りなさい!」


 クリアはもう一度、『羽奏蓮華弾(はねそうれんげだん)』を繰り出すために、光弾を集めようとした。


 ラーマは全身に赤い光を纏い、源気をジャマダハルの刃に集める。

 そして、力強く床を蹴って飛び進んだ。

 移動の軌跡も姿も消え、見失ったクリアが目を見開いて叫ぶ。


「何、この動き?!」


読んで下さって有難うございます。

宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

これからも引き続き連載します。

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