182.戦のコーディネーター
「うおおおおおお!!!」
審判の実況により、静まっていた観覧席が一気に沸いた。
「すげぇ!二年生がこんな強力な技を出せるのか!?」
「これは、賭けたポイントがボツになっても文句言えねぇ」
「あの金髪ポニーテールの子怖い」
「クラスメイト相手にあそこまでやるのは酷くない?」
容赦のないクリアの戦いに、賛否両論の声が止まらない。そんな声を聞きながら、修二はやれやれと言った様子で声を上げた。
「まったく、クリアさんは本当に手加減を知らないなぁ」
真人が腕組みをして、冷静に言う。
「いや、彼女は本気でミンスコーナさんを潰すつもりだ。クラスの上位席にとどまらず、胸の奥に秘めた野望は想像以上に大きいらしい。恐ろしい女だな」
修二はまた言う。
「最近覚えた新技もバンバン使ってるけど、今日はいつもより大きいよな。あんな技、頭上から食らえば、さすがのラーマさんも無傷では脱出できないだろ」
修二の推測を聞き、綾は真剣な顔で首を横に振った。
「いや、ラーマさんがこのまま終わるわけないわ。彼女が本気出してこの程度とは思われへん」
真人はさらに言う。
「ヒタンシリカの技が効いているかは問わず、警告指導ポイントが加算されるはずだ」
真人の言葉を聞いたかのように、審判が判定を下す。
「先刻の攻撃ですが、技のコントロールをしていないため、Ms.ヒタンシリカに警告指導ポイントが一点与えられます」
技のコントロール不足や悪意のある戦術であると判定された場合には、その者に警告指導ポイントが与えられる。どちらかが3ポイント与えられた時点で、残り時間に関係なくその者は負け隣、闘競は終了する。
警告指導ポイントを与えるかどうかの判断は、ファイター二人の戦い方、戦術内容により判定される。
実力差が明らかに大きいにもかかわらず、強者が手加減なしに決め技を何度も繰り出したとき。
ダメージを負い、ダウンしている相手をさらに追撃したとき。
一方が紳士的な戦術なのに対し、もう一方が理不尽に凶暴な技で猛攻したとき。
三つ目の場合は少し主観的な判断になりがちだ。二人ともが猛攻しあっているときには警告指導ポイントの判定は出ないだろう。一人が技を受けて倒れたときに、優勢の者が昂ぶる気持ちを抑えきれず追撃した時点で判定が下る。ステージに立つ二人が技で何を伝えるか、それをどう受け取り合うかといった姿勢が判断材料なのだ。
ステージごと壊滅状態に晒すような戦いがあまりに怖く、ミナリはいつの間にかのぞみの膝に顔を伏せ、耳を両手で塞いでいた。観戦の苦手なミナリはずいぶん耐えていたが、クリアの攻撃は過激すぎた。
ミナリをケアしながら、のぞみも驚き、丸く開いた目に涙を滲ませている。クラスメイトに対してここまでの技を繰り出すなど、のぞみには理解できなかった。
驚愕の色に染めあげられた顔で、のぞみは呆然と、言葉もなくステージを見ている。
「カンザキさん大丈夫ですか?」
「私には……分かりません。……どうして、クラスメイトに対してあんな危険な技を使えるんでしょうか?」
「技を習得しても、それをどのように使うかは人次第です。何かを守るために使う人もいれば、自分の欲望を叶えるためという人もいる。それはヒタンシリカさんが言ったとおりでしょう。それ以外にも、仇討ちのために力を使う人だっている。私たちのクラスにも、昔殺し屋をやっていたという人が何人もいますよ」
知性を感じさせる優しい声音が、冴え冴えとしている。
「戦闘に対する観念はみんな違っていて当然です。だからこそ、闘士はどんな観念を持った相手でも、確実に討ち取るだけの心身の強さを求められます。武徳を持っているような敵と戦えるのは、むしろ幸いなことでしょうね」
丸く開かれたのぞみの目に涙が滲んだ。クラスメイトを相手に、壊滅的な技を繰り出すという感覚が理解できない。握りしめた手も震えていた。恐怖ではない。それは、悲しみと怒りと戸惑いが混ざった震えだった。
「ミンスコーナさんは勝てるでしょうか?」
ラーマが闘競に勝てば、クリアはしばらくの間、下位の心苗への虐めから手を引くだろう。そうすれば、クラスの風紀も少しは良くなるはずだ。その効果を願って、のぞみはラーマを応援している。クリアの戦闘に対する観念を知って、その思いは一層強くなった。
ティムは落ち着いて言う。
「大丈夫、彼女は勝てます。ヒタンシリカさんが警告指導ポイントを付与されたことも、策のうちだと思いますよ」
ついに砂煙が薄くなった。見え始めたステージから、東棟ビルが消えていた。ビルがあるはずの場所には大きな深い窪みができ、三階にあった西棟ビルとの連絡橋も半壊している。
崩れ落ちた連絡橋の端から、クリアが窪みを見下ろした。彼女は全身に源の光を纏っており、それをバリアのようにして、爆発の衝撃波や石などの破片を防いだようだ。
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