178.闘競の意味
その頃、ラトゥパス闘技場では、ステージの東棟ビルで連鎖的な爆発が起こっていた。クリアが光弾を投げると、ラーマは体を横に一回転させ、ジャマダハルの斬撃で弾く。弾かれた光弾は壁に当たり、盛大な爆炎が起こった。
「これは凄い!Ms.ヒタンシリカのとめどない猛攻!一方、Ms.ミンスコーナの攻防一体となった技は、鉄壁ガードとなり、ほとんどダメージを食らいません。闘競も残り8分を切りましたが、どちらもまだダメージポイントは5000を超えません!ここまでのバトルは、聖霊様であっても予測できなかったのではないでしょうか!」
二人の激戦を観戦しながら、のぞみはフェラーと話を続けていた。
「フェラーさん。根本的な問題なんですが、なぜ闘競を拒むと、変人扱いされてしまうんでしょうか?」
「『闘競』の意味は、人によってそれぞれですからね。カンザキさんはどう思っていますか?」
「私は、目的のない戦いはしたくありません。迷いのある剣では何も切れないですし、だから、なぜ戦うのかわからない戦いは無意味なもみ合いとしか思えないんです。誰にも得のないバトルであっても、断るのは間違っているんでしょうか?」
フェラーはのぞみの考えをよく理解したというように、涼しく笑った。
「さすが、兵法の知識を心得た方ですね。勝ち目のない戦いを軽率に受けないことも、自分が不利な状況で安易な手を打たないことも、賢明な判断ですよ。カンザキさんの行動は間違っていません。むしろ、同じ思いの人も少なくないでしょう」
ティムにはのぞみの主張が間違っていないのと同時に、彼女の立場でそれを言うことが認められない理由もわかる。
「ですが、一般的に闘士が強くなるためには、一つ一つ、勝負の経験を積むことしかないと考えられています。それは、抗えない世論であり、正論なこともあります」
ステージで起こった爆風に、のぞみの髪が煽られる。
ティムは少しも動揺を見せず、話を続ける。
「今、クラスの中であなたの対人成績は凡庸なものですから、とにかくバトル経験を積みなさいという考えも間違ったものではないんです。実際、あなたはチャンスを何度も逃していますからね」
のぞみは幼い頃から、遼介が修業を受けるところを見てきた。光野家宗家の当主であり、総師範でもある祖父・光野泰典の修業メニューはいつも恐ろしいものばかりだった。獣との戦いや高性能の擬人人形との手合わせ、さらに、玄関に仕掛けられた転送陣から送り込まれる殺し屋との死闘。
まだ年端もいかない遼介が、相手に比べ小さな体で血まみれになり、ボロボロの姿で戦う姿を、のぞみは見守ってきた。だからのぞみは、戦士なるものが戦抜きに強くなれないということも理解している。だが、ティムの話に頷きながらも、まだその表情は曇っていた。
そんなのぞみに、ティムは続ける。
「例えばですが、操士の心苗であればきっと、実技授業ではどんどん物を創ることが求められます。そこで、まだ未熟な者が、「私は何も創りたくない」と言えばどうでしょうか?いくら良い発想を持っていても、才能が認められるどころか、ただの浮薄者と思われるでしょう」
「……そうですね」
「闘士にとっての手合わせも同じことです。自分なりに考え抜いたうえでの言動なのでしょうが、それは主張とは言えないかもしれませんし、相手だけでなく、武術や武道そのものを侮辱する行為かもしれません」
のぞみにはもちろん、武道を侮辱するつもりなどなかった。だが、結果として自分のやっていることはそういうことかもしれないと、初めて気が付いた。
「まだ未熟な私では、闘競の誘いを断ることは許されないことだったのでしょうか……?」
「例えばですが、ライさんやトウさんは、戦えばそれなりに強いですが、好戦的ではありません。同級生たちもそれを知っています。それと同じように、カンザキさんにも闘競を断る自由はありますが、今は負けてもいいから、最小限の闘競を受けるのも悪くはないんじゃないでしょうか?」
「そうでしょうか……」
断ることも自由とはいえ、ハイニオスに通っている以上、バトルを断り続けるわけにはいかないのだと、のぞみはとうとう観念した。
ステージで行われているバトルを見ながらも、のぞみの気持ちは別のところにある。
光弾の攻撃で、また爆発が起こっていた。
『
ラーマ・ミンスコーナ VS クリア・E・ヒタンシリカ
青 緑
ダメージポイント 1890 : 3520
源気数値(GhP) 9900 : 9950
残り時間 7:66
』