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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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177.刺客の密話 継

「誰の行方が気になるって?」


 シークレットリビングに、いるはずのない男の姿があった。

 赤ボウズ頭にピアスをしたその男は、ローテーブルの前まで来るとしゃがみこみ、水晶玉を眺める。


「ト、トヨトミヨシキ!どうしてここに!?」


 何の気配も感じさせず現れた義毅(よしき)に、レンは心臓が止まりそうなほど驚いていたが、それは他の三人も同じだった。

 カロラとケビンは飛びあがり、ソファーの後ろに移動している。行方がわからず不安要素だった義毅の急な来訪に、さすがのリディも目を丸くした。


「未来から来たガキ共が、俺の教え子を覗き見してるってのか。困るなぁ。先に担任に一言言ってくれねぇと」


 負けじとケビンが大声を出した。


「ど、どこから入ってきたんだ!なぜここを知っている?!」


 義毅の後ろに隠れるようにして付いてきているマイユを見て、リディは事の顛末を知る。


「あなたが知らせたんですね?エロランタさん」


 名前を呼ばれると、マイユはびくりとした。


「もう一人の男子はどうした?」


「ああ、戦闘機元を創れるガキのことか。あいつなら今頃、良い夢でも見てるところだぜ」


「何だと?」


「あいつはラメルスの教え子だからな。少し寝かせてやらないと、お前たちと話ができねぇと思ってな」


 事情がわかると、カロラの怒りは内通者であるマイユに向かった。


「クソ女、私たちだけなく、よくも仲間まで裏切ったね!」


「トンクロスさん……。申し訳ないですが、独断で先生にお話ししました。先日、トンクロスさんからお話を伺いましたが、どうしても放っておくことができなくて」


 身を縮めながら謝るマイユを見て、レンはすぐに冷静になった。


「そうか、自判権を使ったんだな」


 ミッション遂行には常に、機関の長官によって示される具体的な目標条件や方針がある。しかし、ミッション途中に状況が一変した場合、『尖兵(スカウト)』は一人でも複数でも、自主判断権を持つことが許される。

 形勢が急激に変化した場合において、元の目標を達成したり、より最適な結果を残すために、また、死亡リスクを最小限に抑えるために、自判権はある。


 自判権の使用が必要になる場面というのは、特に危険度の高いミッションで起こる。状況が急転しやすいからだ。そういう場面で柔軟な対応力を発揮できるかどうかは、『尖兵』としての能力の高さに関わる。優秀な『源将尖兵(マージスター)』たちであれば誰でも身に着けている能力だ。一本取られたレンは、マイユを不愉快げに見つめた。


「疑心を抱く者を使うべきではなかったか……。君もラメルス先生の指示をおとなしく聞いているだけかと思ったが。先に知らせておくべきだったな」


 その時、カロラが本能的に(グラム)で人間を創った。その人間こそ、ベラタールでのぞみを襲ったあの男だ。男はマイユに飛びかかる。


 戦う意思のないマイユは身を引き、両手で頭を抱えた。


 マイユの前に立ちはだかった義毅が左手で男の手首をつかみ、右手で腹に一撃を食らわせる。男は爆散した。


「往生際の悪いガキだな。『尖兵』同士が殴りあうなんてみっともないことはやめろ。俺も別に、喧嘩がしたくて来たわけじゃねぇ」


 男を素手の一撃で簡単に倒されてしまい、カロラは歯噛みする。


 マイユは自衛のため、象の首と6本腕を持つ聖霊を呼び出した。6本の手にはそれぞれ異なる武器を持たせ、戦闘態勢を取る。


「くっ、その程度の聖霊なら……」


 カロラはもう一体、人間を創ろうとしたが、レンが割り込んだ。


「よせ、カロラ。彼の言葉には一理ある。無意味な喧嘩は無駄だ。私たちの時間点において、無関係なものまで変化してしまう」


 カロラはそれを聞くと、「くそ……」と言いながら、源気(グラムグラカ)の集中状態を解除した。


 カロラの源気の状態を感じ、義毅もマイユの方を見る。


「お前も聖霊を戻せ」


「ですが……」


「俺に任せろって言っただろ」


「分かりました……」


 マイユの召喚した聖霊も、霧散した。

 全員が戦闘態勢を解いたことを確認し、義毅がレンの方を見た。


「お前がチームのリーダーか?」


 レンが答える前に、リディがふっと笑った。


「いえ、責任者は私です、トヨトミ先生」


 義毅はリディを見る。


「ん?……どこかで会ったか?どうも見覚えがある。……アイラメディスの心苗か?」


 記憶を辿るように義毅がリディの顔を見る。凪いだ源を保ったまま、リディも義毅に笑いかけた。


「ええ、トヨトミ先生が見たのはこの時間点の私でしょう。たしかこの時間点の頃は、ヘスティアトカレッジ、二年生ピカゾルトクラスに所属し、特質(プロプリテェタス)学会に入会したばかりの頃です」


 アイラメディス学院は、6つのカレッジに分かれている。いずれのカレッジも9つのクラスがあり、クラスの名は聖霊、神獣、植物、鉱物などから付けられている。ハイニオスとは違い、学力評価は心苗の学力、実技、実績、印象等を通算した成績に応じ、9のレベルに分けられる。このレベルによって、受講できる授業も多少異なる。


「へぇ。二年生早々、学会に入ったとは、優秀だな。美人を育てる揺り籠なんて言うくらいだが、さすがはアイラメディスの玉苗(ルムト)、特上美人ってわけか」


 リディは微笑んだ。そして、警戒を続けているカロラとケビンにも声をかける。


「英雄にお褒めいただくなんて光栄です。ウェスリーさん、クロンバリさん、落ち着いてください。ハリネズミのような態度を取っていては、できる相談もできませんよ」


 ケビンとカロラは、ソファーに座るリディーの左右にそれぞれ座った。


 彼らの正面にあるソファーに、義毅もどっかりと腰かける。リディーの真正面に座った義毅は、気楽げに自分の隣に置いてあるクッションをポンポン叩いた。


「エロランタ、お前もこのミッションに関わるメンバーの一人だろ?いつまでもそんなとこに立ってないで、こっち座れよ」


 マイユは目の前にいる義毅が教科書に載っている英雄トヨトミと同一人物だと、リディの言葉で初めて知り、まごついていた。その憧れの英雄と同席することに、余計に緊張する。だがそれは、この場において命の安全が確信できる場所でもある。


「はい……」


 義毅は、はしゃいででもいるように快活な様子だ。


「さーて、お前らがここに来た目的と、その原因になった事件の経緯を頭から全部話してくれ」



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