173.不意の待ち合わせ ②
修二と綾のやり取りを横目に、藍は真人に訊ねる。
「島谷さん、今日は黒須さんや吉田さんと一緒ではないんですね。何かあったんですか?」
「元々違う寮に住んでいるし、彼らは朝からどこかで遊んでいた」
真人の言葉を聞いて、修二がツッコむ。
地雷を踏んだ修二を、真人が睨む。
「あの集まりは速形さんが作ったが、そのわりに彼女はミッションをたくさん引き受けている。だから、自分は問題児一人一人を相手する暇もなくて、同じヒイズル出身の同胞のケアはほったらかし。そのしわ寄せが俺に来ている」
「お疲れ様やで」
綾は真人の苦労をよく理解しているようにうなずいた。
微妙な空気になってしまい、藍が話題を変えようとティムに話しかけた。
「皆はどうしてここにいるんですか?闘競が後ろ倒しになっていても、開始まで席で待っていればいいじゃないですか」
ティムは困ったように笑う。白い歯がこぼれた。
「私たちが買ったのは指定席のチケットなんです」
「なるほど……。指定席は試合別でなく、時間で割り振られていますからね。スケジュールが後ろ倒しになると、次の時刻を買った客が来てしまいますよね」
「そうなんです、それで退場することになりました。仕方がないので自由席を取りなおして、再入場しようかと話していたところです」
これだけ話していてものぞみがなかなか来ないので、メリルもさすがに心配しはじめた。
「それにしても、のぞみちゃん遅いヨン」
そう呟いたとき、藍がのぞみの姿を見つけた。
「あっ、来ました」
藍は手を挙げ、呼びかける。
「のぞみさ~ん!こっちですよ~!!」
二人が六人の前まで走ってきた。
のぞみはまだ体力があるようだったが、同じペースで走ってきたミナリは息が上がり、ヒュウヒュウと辛そうにしている。
「遅くなってすみません……」
軽く息を整えると、のぞみは頭を下げた。
「何かあったんですか?」
「申し訳ありません」
「オヨンヨン、はじめましてダヨン?」
「あ、はい。私のハウスメイトで、フミンモントル時代は同じクラスに所属していたミナリちゃんです。闘競の勉強をしたいって言ってくれて、一緒に来ました」
「そうですか」
藍はのぞみからミナリのことを聞くたびに興味深く思っていたが、初めて本人に会えたので嬉しかった。
「ミナリちゃん。メリルさんに藍さん。他の皆さんも、同じクラスで仲良くしてくれている方々です」
「メリル・アクラビィア・ヴィントヌスだヨン」
「私は藍可児です。のぞみさんから時折、ハウスメイトのお話、伺っていますよ」
メリルが先に自己紹介をし、その後に藍が続く。
藍はのぞみが人を連れてきたのが予想外だったが、それでも気軽に話しかけた。
ミナリは知らない人々と会うことに恐縮し、背を縮めている。とくに闘士は意の沿わない者にすぐに喧嘩を売るという印象があり、余計に小さくなっていた。
「クルストンブック出身のミナリと言います。よろしくお願いしますニャー……」
可愛らしいミナリを初めて見て、修二が綾に耳打ちした。
「あの子、神崎さんのルームメイトなのか?」
「わからんけど、ハウスメイトなら馴染みの仲なんやろな」
「不思議な源だな」
「せやな、裏が読みづらい。典型的な操士やな」
怯えたようすのミナリに藍は声をかける。
「ミナリさんも闘競に興味ありますか?」
綾と真人の厳しい目付きや刺々しい源気が気になるのか、ミナリは警戒したままで応える。
「あまり好きではないけど……のぞみちゃんのために、戦い方の勉強をしたいですニャー」
「親友のために苦手なものに飛びこむんだヨン?!ミナリちゃんは偉いヨン!」
大喜びしているメリルに、ミナリは縮んだままで応じた。
「そうですかニャー?」
ティムはのぞみの顔に覇気がないのが気になった。クリアたちだけでなく、最近はルルを中心にクラスで悪評がばらまかれている。
「ランさんにちょっとお願いしたいことがあるんですが」
「はい、なんでしょうか?」
ティムの相談を聞くと、藍は少し考えてから頷いた。
「分かりました」