169.お買い物、優しい音色と再会 ①
午後、のぞみとミナリはベーロコット商店街にいた。昼食を食べた二人は6番街でショッピングを楽しんでいる。あちこちの店のショーウィンドウには闘士の武具や武器が展示されており、道行く人たちもまた、道着を着ている人や武器を持っている人が多かった。
先に基礎修行用のアクセサリーを買ったミナリは、一度も来たことがない6番街の風景を新鮮そうに見ている。
見張りのリュウは、一定の距離を保ってのぞみを見守っていた。
「ここは闘士の武器の専門店街だニャー?」
「そうだね、6番街は武具とか武器のお店が多いんだね。私も二回しか来たことないよ」
「のぞみちゃんは何を買いたいんだニャー?」
「私は今、物創りのスキルが封じられてるから、何か護身用の武器を持ってた方がいいって、リュウ先輩がおすすめしてくれたんだよ」
「のぞみちゃんに合うものがあれば良いニャー」
五、六軒のショーウィンドウを見て、のぞみはある刀剣専門店に入った。
店の真ん中には、三段構造のローテーブルが長い島のように横たわっており、その上に、刃渡り40センチ以下の数本の刀剣が並んでいた。45センチ以上、また、それよりも長いものは、両側の壁にかけられている。初心者練習用、ローレベル用、ハイレベル用と、使い手の能力によって三段の木板から選べるようになっている。勘定台の後ろの展示棚には『尖兵』以上の者しか扱えない、プロレベルの刀剣もあった。
タヌーモンス人の社会は貨幣経済ではない。商品には値札ではなく10色に色分けされたシールが貼られている。買い手の持っているAPポイントのレベルが、シールの色に見合うだけあれば、品物を買うことができる。客は品物の代わりに店に対して評価点数を付ける。それを店の商売実績とするのが、タヌーモンス人社会の商売のルールだ。
のぞみは壁の下段にかけてある刀を順番に見ていった。一緒に入店したミナリは、ローテーブルの上でビカビカ光る短刀や短剣のデザインを見ながら、他にどんな要素を入れればもっと凄いものが創れるか、心の中で想像して楽しんでいた。
のぞみは五分ほど品定めをしていたが、なかなか決まりそうにない様子を見て、店員が声をかけてきた。
「お探し物ですか?」
「あ、はい。えっと、ローレベル用の刀を探していて」
「どのようなニーズでしょうか?」
のぞみは質問の意図がよくわからず、少し考えてから聞いた。
「ニーズですか?」
「ええ。お客様の戦闘の慣習や流派、対象など、具体的な条件をお教えいただけましたら、よりニーズに合うものをお探しできますが?」
「そうですね……」
のぞみは自分が欲しい刀のニーズを考えてみた。
「二刀流で、軽さと靭性の優れたもの……。それと、人を斬らないものを探しています」
ニーズを聞くと、店員の目は丸くなり、先ほどからのぞみに向けていた業務用の笑顔が硬くなった。
「お客様は二刀流なんですね。人を斬らないという定義を、もう少し具体的にご説明いただけますか?」
「えっと。魔獣は退治できるけど、人は斬らないような刀です」
矛盾したのぞみのニーズを理解できず、店員は硬い笑顔で応えた。
「刃を研磨しないという注文はできますが、魔獣退治なら、靭性だけではなくて硬度も必要ではありませんか?お客様は、研磨していない刀でも上手く魔獣を斬れますか?」
のぞみはいつも、自分の思い通りに物を創ってきた。だが、自分に使いやすいものを量産の商品に求めるのは、実は贅沢なニーズだ。
「多分できると思います……」
店員は、ローレベル品をと言ったのぞみの体格を見て、レベルを品定めしている。そして、笑顔を絶やさずに続けた。
「……申し訳ございません。当店では、お客様に合う商品の扱いがないようです。ニーズに合う物が他店で見つかりましたら幸いです」
その営業スマイルを見てのぞみは、自分が歓迎された客ではないとわかった。
「ご迷惑をかけてすみません」
のぞみは身を引くと、ミナリに声をかける。
「ミナリちゃん行きましょう」
「でも、のぞみちゃん、何も買ってないニャー?」
「他のお店を見てもいい?」
「分かったニャー」
二人は店を後にした。
それから五軒の店を回ったが、どの店でも商品を紹介してもらえることはなく、同様に追い払われた。のぞみは、見えない壁があってそれ以上中に入れてもらえないような、拒絶されたような切ない気持ちになった。