表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
170/345

169.お買い物、優しい音色と再会 ①

 午後、のぞみとミナリはベーロコット商店街にいた。昼食を食べた二人は6番街でショッピングを楽しんでいる。あちこちの店のショーウィンドウには闘士(ウォーリア)の武具や武器が展示されており、道行く人たちもまた、道着を着ている人や武器を持っている人が多かった。


 先に基礎修行用のアクセサリーを買ったミナリは、一度も来たことがない6番街の風景を新鮮そうに見ている。

 見張りのリュウは、一定の距離を保ってのぞみを見守っていた。


「ここは闘士の武器の専門店街だニャー?」


「そうだね、6番街は武具とか武器のお店が多いんだね。私も二回しか来たことないよ」


「のぞみちゃんは何を買いたいんだニャー?」


「私は今、物創りのスキルが封じられてるから、何か護身用の武器を持ってた方がいいって、リュウ先輩がおすすめしてくれたんだよ」


「のぞみちゃんに合うものがあれば良いニャー」


 五、六軒のショーウィンドウを見て、のぞみはある刀剣専門店に入った。


 店の真ん中には、三段構造のローテーブルが長い島のように横たわっており、その上に、刃渡り40センチ以下の数本の刀剣が並んでいた。45センチ以上、また、それよりも長いものは、両側の壁にかけられている。初心者練習用、ローレベル用、ハイレベル用と、使い手の能力によって三段の木板から選べるようになっている。勘定台の後ろの展示棚には『尖兵(スカウト)』以上の者しか扱えない、プロレベルの刀剣もあった。


 タヌーモンス人の社会は貨幣経済ではない。商品には値札ではなく10色に色分けされたシールが貼られている。買い手の持っているAPポイントのレベルが、シールの色に見合うだけあれば、品物を買うことができる。客は品物の代わりに店に対して評価点数を付ける。それを店の商売実績とするのが、タヌーモンス人社会の商売のルールだ。


 のぞみは壁の下段にかけてある刀を順番に見ていった。一緒に入店したミナリは、ローテーブルの上でビカビカ光る短刀や短剣のデザインを見ながら、他にどんな要素を入れればもっと凄いものが創れるか、心の中で想像して楽しんでいた。


 のぞみは五分ほど品定めをしていたが、なかなか決まりそうにない様子を見て、店員が声をかけてきた。


「お探し物ですか?」


「あ、はい。えっと、ローレベル用の刀を探していて」


「どのようなニーズでしょうか?」


 のぞみは質問の意図がよくわからず、少し考えてから聞いた。


「ニーズですか?」


「ええ。お客様の戦闘の慣習や流派、対象など、具体的な条件をお教えいただけましたら、よりニーズに合うものをお探しできますが?」


「そうですね……」


 のぞみは自分が欲しい刀のニーズを考えてみた。


「二刀流で、軽さと靭性の優れたもの……。それと、人を斬らないものを探しています」


 ニーズを聞くと、店員の目は丸くなり、先ほどからのぞみに向けていた業務用の笑顔が硬くなった。


「お客様は二刀流なんですね。人を斬らないという定義を、もう少し具体的にご説明いただけますか?」


「えっと。魔獣は退治できるけど、人は斬らないような刀です」


 矛盾したのぞみのニーズを理解できず、店員は硬い笑顔で応えた。


「刃を研磨しないという注文はできますが、魔獣退治なら、靭性だけではなくて硬度も必要ではありませんか?お客様は、研磨していない刀でも上手く魔獣を斬れますか?」


 のぞみはいつも、自分の思い通りに物を創ってきた。だが、自分に使いやすいものを量産の商品に求めるのは、実は贅沢なニーズだ。


「多分できると思います……」


 店員は、ローレベル品をと言ったのぞみの体格を見て、レベルを品定めしている。そして、笑顔を絶やさずに続けた。


「……申し訳ございません。当店では、お客様に合う商品の扱いがないようです。ニーズに合う物が他店で見つかりましたら幸いです」


 その営業スマイルを見てのぞみは、自分が歓迎された客ではないとわかった。


「ご迷惑をかけてすみません」


 のぞみは身を引くと、ミナリに声をかける。


「ミナリちゃん行きましょう」


「でも、のぞみちゃん、何も買ってないニャー?」


「他のお店を見てもいい?」


「分かったニャー」


 二人は店を後にした。

 それから五軒の店を回ったが、どの店でも商品を紹介してもらえることはなく、同様に追い払われた。のぞみは、見えない壁があってそれ以上中に入れてもらえないような、拒絶されたような切ない気持ちになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ