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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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167.未来から来た刺客たち

 応接間を後にしたレンは、二階へと繋がる広い階段の下まで来ると、一本の廊下を選び、主が使うプライベートリビングへとやってきた。


 オレンジ色の光に染まった広いリビングには、大きなローテーブルが凹の字に並べてあり、三つの長ソファーが置かれている。5メートルほどの間を空けた壁際には、旧式の炉棚と、壁に一体化した本棚があった。炉には多数のルトラス水晶石が輝き、部屋にぬくもりを与えている。


 ローテーブルには、サッカーボール大の装置が置かれていた。謎の金属と水晶石で組み立てられたその装置の周りには、謎の六つの文字が輪状に綴られ、回転している。


 ソファーには、カロラとケビン、そしてもう一人の女性がいた。カロラは頭を垂れて居眠りしており、ケビンは両手を枕にして寝そべっている。


肩の辺りまで伸びた紅亜麻色の華奢な巻き髪の、もう一人の女性は、ふわりと纏った羽衣のような薄い源気(グラムグラカ)を出しながら、両手を合わせ、『契紋石(パトンピス)』を創っていた。

ローテーブルの上では、球体の水晶石に映し出された映像が流れている。


「ただいま」


「レン君、お帰りなさい」


 レンの気配でカロラが目を覚ました。

 レンは『契紋石』を作っている女性に声をかける。


「リディ、状況は?」


 女性はゆっくりと首を振り、冷静に告げる。


「今まで変化はなく、さらに悪化しているようです」


 レンは歯噛みした。


「そうか……。クソ、やっぱり、やるしかないのか」


 目を覚ましたケビンがソファーに横たわったままで笑った。


「レン。私たちが何のためにこの時間点にやってきたか、忘れたわけじゃないだろう?今さら些細な私情を挟んでいては、何も守れない」


 ケビンに忠告され、レンは目を閉じた。


「分かっている」


 リディ・バレーヌは、創った『契紋石』をローテーブルに置くと、溜め息をつく。


「光野さんには申し訳ないですが……地球(アース)界の存亡に関わる事件ですから。やむを得ない選択ですが、そちらがうまくいかない場合、局長から命じられた抹消任務を成し遂げるしかありません」


 レンはリディの座っているソファーに腰かけた。

 カロラはリディの話を聞くと、上半身を起こしてレンに向けた。


「トンクロスさん。本当にあの男の提案どおり、計画を後ろ倒しにするつもり?」


「彼のアドバイスは正しい。彼女の力が封じられ、警護人員が通常より増えたのは私の予想外だった」


 カロラはグラスワインを軽く一口含んだ。それから、グラスの中の液体を弄ぶように揺らす。


「名家出身の末裔で、継承者だもんね」


「そうだ。今は警護の配置が厳しすぎる。気軽に手出しするにはリスクが高い。ラメルス先生の権限で、警護メンバーを減らしてもらえば何とかなるがな」


 カロラはリディに訊ねた。


「ねえ、バレーヌさん。手を打つのが遅くなった場合、事件に悪影響は出るの?」


「因果関係を考えても、少しなら構いません。Ms.カンザキさえ抹消されれば、私たちの時間点で起こる全ての事件は起こらないでしょう。気をつけないといけないのは、他の無関係な事象に多くの変化を与えてしまうことです。その場合、時間線の全てが変わりかねません」


 カロラはワインを飲みほしたグラスをローテーブルに置く。


「厄介なのは二ヶ月後よ。私たちの入学。その前に私たちの情報がラメルス先生にバレて、合格通知が無効でもなれば。その時はおしまいよ」


 レンは大した問題ではないようにカロラに答えた。


「それは問題ない。彼は言わないだろう。我々が弱みを握っている限り、彼は味方だ。この屋敷に我々を匿ったことからも確信できる」


「でも、彼なら私たちを殺すこともできたでしょう?どうして生かしたのかしら?」


「……彼も最初から、カンザキ先輩の始末を企んでいるからだな」


 カロラはレンの推測に驚いた。


「何でそう、言い切れるのよ」


「出発前、ペニア副長に聞いた。彼には、あえて愛したり、恨んだりする性質があると。とくに裏切り者を憎む傾向の強い彼は、愛していた心苗(コディセミット)であっても自らの手で始末することができるそうだ」


 ソファーに寝転んでいたケビンは、その話に興味を持ったのか、座り直した。


「ここに来てから僕は663コード権限を使って調べた。あのダンジョン課題で、僕たちが手を出すよりも前にプログラム改ざんしたのは、ラメルス先生だ」


 そこまで聞くと、リディは納得したように頷いた。


「つまり先生は、自分の手を汚さないで済むから、私たちを利用したいということですね」


 ケビンはまた笑った。


「ふっ、こちらもたっぷり利用してやるさ。どうせ奴は通常の歴史に従って罪を償う時が来る」


「いつ、手を打つつもり?」


 カロラの質問に、レンが即答した。


「警護状況からすれば、少なくとも一ヶ月以上先だな。機関が彼女の警護レベルを下げてからだ」


「でも、そもそもこの時期の彼女が一番弱いっていう計算でこの時間点を選んだんでしょ?」


 もうひとつ新しい石を創りながら、リディが口を挟んだ。


「それを言うならそもそも、彼女が今の時期、課題のためにルール違反をしたという過去はなかったはずですが」


「まさか、私がベラタールで彼女を狙った一件で歴史が変わっちゃったなんてことは……?」


「その可能性は否定できないですが、でも、現在まで彼女はオロチの反応を解けていませんから」


「何かのミスじゃないの?」


 カロラはそう言ったが、ケビンはカロラのミスを指摘した。


「そもそもの話をするなら、最初から君がちゃんと彼女を殺しておけば、僕たちがわざわざこの時間点に来る必要もなかっただろ」


「……分かったわよ」


 レンとリディのミスを責めたつもりが、ブーメランになって自分に返ってきたことを、カロラは悔しく思った。


「明日、動きがないなら、私は上の部屋で寝てるわ。朝まで起こさないでね」


 カロラは立ち上がるとローテーブルにあった酒瓶を片手で取り、リビングから去っていった。


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