165.不安と楽観
二輪の月が空に上がっている。イールトノンの広場にある18の球体は、16番が光っていた。
中央情報中枢センターでは、真ん中のステージでメッキーと蘇がそれぞれの担当する事件を指揮している。
「そうですか、ヘンリー・ブロトスの身柄を確保しましたか。ご苦労様でした。これから私が取り調べます」
蘇が宙に光る通信画面を切ると、メッキーが声をかけた。
「そちらが追っている事件は順調みたいですね?」
「ああ、こちらで手配した『尖兵』の活躍のおかげです」
メッキーは腕を組んで言い続ける。
「身柄確保された子は、あちこちの門派に関わる人の命を狙い、マスタープロテタス狩りを競い合う闇討ち結社の一人みたいね」
「結社を作ったトップスリーの一人ですね」
「あら、それは大漁ね?この前、結社の三人が他国へ亡命したと耳に入れましたわ」
「えぇ、この事件は大きく一歩進みました」
メッキーがにっこりと微笑みかけてから、すっと視線を逸らしたのに蘇が気付いた。
「おや。何かありましたか?先ほどからずいぶん物憂げな様子ですが?」
「……ねえ。カンザキさんを狙っている未来からの刺客の件は、全く進んでいないようね……?」
「あの事件については神崎さんの警護支援を私たちがサポートし、容疑者の追跡捜査についてはアーリムに託すという話でまとまりましたが?」
「二日もかけて手がかり一つ見つからないなんて……思ったより手強い相手なのね」
メッキーは眉をハの字にし、伏し目がちな目をそっと上げて蘇を見た。
「今まであんな目立つ手段であの子を襲って……。次の手はまだのようね」
蘇は冷静に言う。
「こちらの動きに向こうが気付いた場合、しばらく手を引くのは犯罪者によくある行動ですよ。いつかきっとまた牙を剥くでしょう」
「もしかして、他にも何か企んでいることがあるのかしら?」
「頭を抱えるのも分かりますが、容疑者が捕まるまでは気を長く持って待つしかないですね」
メッキーは落ち着きなく、ずっと頭の中で考えているようだ。
「アーリムはあなたに増員の要求はしてきていないの?」
「ええ、ないですよ。ご存じかと思いますが、彼は自分の担当する事件には操士の『尖兵』しか使いません。今回も同じでしょう」
「今日一日、彼の姿を見なかったわ。一体どこで何をしているんでしょう?」
蘇はこれまでの事件でのアーリムの動きを思い出せば、何も違和感がないと思った。
「思いがけない形で事件を解決するのは、彼のパターンです。彼の腕を信じましょう。もうしばらく待っていれば、吉報が入るかもしれませんよ」
「それなら良いんだけど……」
説明のできない嫌な予感が胸をよぎる。メッキーはアーリムが事件の追跡のためにピックアップしたメンバーのリストを眺めながら、思いを巡らしている。