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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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161.ティフニー VS 綾  ②

「ハヴィテュティーさんが一点リードしましたね!」


 のぞみは二人の戦いに、声も出ないほど驚いていた。のぞみは、光野遼介が武術の達人と戦っていたイベント試合のことを思い出していた。


 それでも、目は(れい)とティフニーから離せない。吸いつけられるようだった。


 綾はスピードを上げ、何度も突撃する。


 ステージの周りはサイレント状態で、二人のゴルミンソードが打ち合う音は、ドラムを激しく連打するように、武道館にこだまする。


 ティフニーの技を封じるため、綾はしっかりとソードを押しつける。しかし、どんなにソードを打ちつけあい、大きなプレッシャーをかけても、ティフニーは同じ気の状態を保ち、心は波のない海面のように、一つの雑念も起きない。


 ソードの押し合いが膠着状態になると、ティフニーは体のバネと柔軟性を生かし、上半身を屈めて背骨を反らし、そのままの体勢で腰を回すと、腰を戻す時の力を使い、綾を押し返した。


 押し飛ばされた一瞬後、綾は宙で体が崩したまま、片手でソードを持ち、ティフニーのすねを刺した。


 綾は強い執念で、ついに一本を取り返したのだ。


 ティフニーは落ち着いた様子で構えを整える。焦燥、優越、嫌悪などの感情は生じていない。


「見事な一本です」


 ティフニーはただ、綾の成長を喜び、称えた。


「もう一本取ったるわ!」


 その言葉のとおり、綾はすぐにまた攻めはじめる。


 のぞみは二人の戦いを、ただただ感心して見ていた。


「二人とも凄いですね……」


 それ以上の感想が言葉として出てこないのぞみに対し、修二は腕組みし、首を振って気軽に言った。


「いや、風見(かぜみ)がやばい」


「どうしてですか?」


「ペースが乱れはじめてる。一本取れたのは、ハヴィーがわざと当たったからだな。たぶん、ここまでの戦況はすべて、ハヴィーの望んだ展開どおりだぜ」


「えっ、そうなんですか?」


 のぞみには、猛烈な勢いで攻め続けている綾が負けるとは思えなかった。


「ったく、ハヴィーがもっと本気出さなきゃ、風見がまたご機嫌ななめになるぜ~」


 二人の戦い内容を見て、修二が「本気ではない」と言ったので、のぞみは驚いた。


「あれで本気じゃないんですか?」


 修二は腕を組んで面白そうな顔をしている。目は戦いに釘付けのまま、のぞみに説明する。


「さっきからハヴィーはチャンスをわざと逃してる。闘争心がないからな~。でも、風見は戦闘相手に譲られるのは大嫌いだぜ」


「勝負がつかないように配慮してるってことですか?」


「配慮っていうか、あれがあいつの自然体なんだよ。戦いよりも心の交流を求めてるんだぜ」


 のぞみはティフニーの戦いの流れを見ながら、修二の言ったことを理解した。


「たしかに、ハヴィテュティーさんは勝ちたいというよりも、風見さんの技も心も受け止めたいという感じがします」


闘競(バトル)が始まってからハヴィテュティーさんは一度も主導的な攻撃をしてないんです。相手が動かないなら自分も動かない。でも、相手が動く時には、その前に動き出します。そのうえで、相手の動きを誘導させるように先に動くんですから、凄いですよね」


 (ラン)に共感するように、のぞみは頷いた。


「そうですね。これだけの熱戦を繰り広げておきながら、険しい顔を一度も見せないなんて。何という強い精神力なんでしょう……」


 二人の手合わせの結果は2対3で綾の勝利だった。

 周りにいる心苗(コディセミット)たちは、勝敗よりもその戦いの内容を評価し、二人に喝采を浴びせている。


 二人が互いに礼をして、ステージを下りる。綾は軽く息を吐き、不満げにティフニーに告げた。


「今日はここまでか。また今度、挑戦闘競(チャレンジバトル)やろ」


「風見さん、まだ物足りませんか?」


 綾は戦闘を続けたそうな眼差しでティフニーを見ている。


「あんた、また勝手にハンデ負ったやろ?」


「ええ、力を抑えないと勝負にならないでしょう?」


「……さっきの戦い、本気の何割出してた?」


「3割未満ですね」


 本当のことをいえば、一割も出していない。ティフニーは(グラム)をしっかりとコントロールしている。


「あんた、そんな強いのに何でもっと上位目指せへんの?」


 ティフニーは優しく微笑む。


「わたくしは自我の実績評価より、コミュニティーの和を求めています」


 綾は解せないというように、首を横に振る。


「また『和諧を守るための勇気』か。理解できへんけど、いつか全力のあんたと戦いたいわ」


 闘士らしく戦いを求める綾の気持ちを受け止めるように、ティフニーは柔らかく応える。


「約束はできません。ただ、わたくしは争いを望みませんが、運命の導きに従って、なるようになるのだと思いますよ」


 ステージを下りた二人を見ながら、藍が大喜びで拍手を送った。


「風見さん、勝ちましたね」


「たぶんあれは、ハヴィーの考える、風見の望んだベストの結果だ」


「えっ?それは、風見さんの望みを叶えるように戦いを導いたということですか?」


「そうだ、ハヴィーはいつも相手の気持ちを汲むんだ」


 のぞみはさっきの戦いを思い出す。そして、ティフニーにとっての戦いの意味を考えると感服した。


「そんなことまでできるんですか……」


 のぞみはティフニーの戦闘スタイルに憧れ、その指導を受けたいと心から思った。


 修二はステージを降りた二人に声をかけながら、走り去っていった。


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