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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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156.力試し

「カンザキ!」


 太鼓を叩いたような男の声に、芝生に座っていたのぞみはびっくりして立ち上がった。


「ロム師範、何でしょうか?」


 のぞみがそばまで来ると、ロムは腕組みをしたままのぞみを見た。


「一ヶ月間の稽古で、お前は何を得た?」


「えっと……十の型を何とか……。ただ、似ている技もあるので、間違っているのもあって……」


「何度も言うが、拳法の型は剣術を同じでイメージトレーニングだ!頭ではなく、体感で覚えろ!ちゃんと叩きこんでおかなければ、これから皆のペースに追いつけなくなる」


「すみません……。拳法は初心者なので……。何とか皆のペースに追いつけるように頑張ります」


 のぞみの反省を聞いてロムは目を閉じ、そして強く見開いた。


「お前はたしかに剣術が長い!だが、戦場ではそれだけでは足らん!私が敵ならば、お前に剣術を使わせるタイミングを与えない。武器まで破壊し、一気に攻める!」


 師範の指摘は痛いところを突いていた。のぞみは何度も刀を破壊され、窮地に追いこまれる経験をしている。悔しいが、それが弱点であることは認めざるを得ない。のぞみは黙っていた。


「そうだろう?だから我々、闘士(ウォーリア)たちは、体を武器にして戦えなければならない。拳法の技や作法を身につければ、戦闘中の悪い癖も修正できるはずだ」


 のぞみはその意見を大人しく受け入れる。


「ロム師範の仰るとおり、私は未熟です。拳法も習得できるよう、精進します」


 その答えはロムの気に入るものだった。師範は熊のように太い首を満足げに振った。


「うむ。お前は今、大変だろう。だが、闘士はいつも、他人に守られることを望んではいけない。常に己の強さを追求してこそ闘士だ」


「はい、心に銘じます」


「あとはしっかりと気配を張れ。源気(グラムグラカ)が足りなければそれだけで周りに潰される」


 のぞみは敬礼してロム師範の言葉を聞いた。これまでも師範に目をかけてもらうことはあったが、フリーバトルの時間にも特別指導が受けられたことは、のぞみにとってゾクゾクするような体験だった。師範はそれだけ言うと、また別の心苗(コディセミット)のところへ去っていった。


 のぞみは振り返る。そこに、(ラン)とメリルの姿はない。


可児(コール)ちゃん、メリル姉さん?」


 二人の姿を探していると、


「お~い!のぞみさん!ここですよ~!」


 藍の声が聞こえてのぞみがそちらを見ると、いつの間にか二人はステージに上がっていた。


「フリーバトルですか?」


「せっかくロム師範がくださった時間ですから!手合わせは経験になりますよ!」


「ノゾミちゃんも誰かと手合わせしましょうヨン!」


「私は二人のを見たあとにします」


 間もなく、二人の手合わせが始まった。

 藍が遠慮なく、何度も拳を打ち出し、メリルは真正面からの攻撃を間一髪で避ける。藍の手はメリルの髪に触れるほど近かったが、その手が行き場を失った瞬間、メリルが藍の腹に肘を打ちこんだ。藍が倒れる。


 メリルが爪で追撃し、藍は伏せて避ける。地面に手をつき、体を支えるようにして低い位置での旋風蹴りを返した。


 蹴り飛ばされたメリルは宙で体勢を整え、空中をさらに跳ぶ。重力を使って体の重心を足に寄せる。そのまま地面に押しつけ、蹴り返した。強力な蹴り技だったが、藍はそれを避けた。蹴りが外れたメリルの足は、ステージの石ブロックを破壊した。


 のぞみが二人の熱闘に夢中になっていると、大人びた心苗が声をかけてきた。


「やぁ、のぞみちゃん。お相手にどうだべ?」


速形(はやがた)さん……。私、かなり下手なので、練習相手になれませんよ」


「ははっ、のぞみちゃんのこと、聞いたべさ。対人戦が苦手なんだべ?」


 楓は特殊金属で作った竹刀を愛用しているが、格闘も上手い。蹴り技ではA組の女子のなかでピカイチの実力者だ。武器がなくても足だけで大型魔獣を黙らせられる。のぞみはそれを知っていたため、楓と手合わせする資格などないと思っていた。


「はい、でも、私は速形さんのレベルには及びませんよ……?」


 楓はのぞみの弱点やある程度の実力を知ったうえで、颯爽と申し出た。


「私はのぞみちゃんの力を試したいんだべ。のぞみちゃんが仲間同士、傷つけあいたくない気持ちはわかる。だから、私は一切攻撃しない。遠慮なく、一方的に攻めて良いんだべ」


「それで……良いんでしょうか……」


「なんもなんも。私にはほとんどダメージにならないべ。サンドバックとでも思って、攻めたら良いんだべ」


 頼もしい笑顔を見せられ、のぞみは楓の誘いを受けることにした。


「わかりました。では、お願いします」


 前のバトルが終わり、ローテーションとなった。二人がバトルブロックに入ると、周囲の目は釘付けになる。楓はA組の実績評価9位だ。


 闘競(バトル)が始まっても、楓は戦闘の構えを取らず、自然体で立っていた。

 約束どおり、のぞみは思い切って攻撃を加える。


 だが、のぞみの攻撃はどれも、巧妙な受け身を取られる。投げ技を取ろうとすると距離を取られた。反撃もせず、楓はただ次の技を待っている。


 のぞみの蹴り技が決まった。だが、無防備に蹴られたはずなのに、楓はノーダメージで立っている。のぞみは楓から距離を取り、光弾を何度も撃ち出した。しかし、その攻撃も手で払うように打ち消される。のぞみが一方的にスタミナを減らし、息を乱しているなか、体内に源気を溜めている楓は子守りでもしているように笑った。


「もっと来いや」


 のぞみは激しく荒れた呼吸をして、それでも何とか、崩れかけた体を整える。


「はっ…はっ……はい、行きます!」


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