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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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148.情報交換、そして、 ①

 白銀に輝くイールトノンタワー。その塔はまるで、大地に聳え立つ華麗な権杖(けんじょう)のようだ。表面の紋様は時々刻々と色を変え、広大な広場にある18の球体は、0の刻を示す球体が光っていた。


 中央情報中枢センターでは、機関の任務をサポートするために要員たちが働いており、賑やかな光景が広がっている。義毅(よしき)は中央の通路を通って、真ん中のステージに上がった。


 最初に見えたのは190センチの巨体を持つグラーズンだ。そして、魔導士(マギア)のメッキーが捜索中の事件のサポーターに指導をしている。()はもう一人の副部長を務める男と話していた。


 ステージから4人の姿を見ていた義毅に、グラーズンが声をかけた。


「来たか、英雄トヨトミ」


「ああ、悪いな。教諭会議が長引いちまって。ずいぶん振り回されたぜ」


「事情はわかっている。さて、『火霊の松明』の帰還依頼についてだが、確実にラーウンス卿の元まで届いたことは確認している。だが、君にしては少し時間がかかりすぎじゃないかね?」


 グラーズンの質問に、義毅が気楽に答える。


「ああ。アイテムを狙って襲ってくる連中の中に、20年前の生き残りの残党が再興した組織の奴がいると噂に聞いてな。アイテムを持っていればそれ以外の新手の奴らも引き出せると思って、この機会に情報収集してやろうというので時間を使ったぜ」


「ふむ、たしかに良い餌だな。具体的な情報は入手できたのか?」


 義毅は惜しいところだったというように、皮肉な笑みを浮かべた。


「いや。連中はどれも尉士レベルだった。取り調べを行おうとしたが、それよりも前に自害されちまったぜ、エグいやり方でな。奴らの(グラム)紋データは情報捜査官に渡してあるぜ」


「そうか。サーイト、検査の結果はどうだ?」


「はい。英雄トヨトミの取った源紋データや時流定向レーダーに記録されたものと一致しました。8人の刺客はすべて地球(アース)界の住民で、前科の記録はありません」


 グラーズンの目の前に、8人の刺客についてのデータが投影されている。


 映像は義毅からは反転して見えていたためはっきりとは読めなかった。


「共通点はあるのか?」


「はい、男女問わず若年層であること、また、地球界では一般人(ガフ)と登記されていることでしょうか……」


 サーイトの返答を聞きながら、グラーズンは映像を操作する。そして、考えを巡らせながら目を細めた。グラーズンの背に、不安が走る。


「あの組織の残党が地球界で巣を作ったということか……?単に少人数で行動しているだけ……いや、すでに復活していると認識した方がいいのか……?」


「任務で地球界へ行っていた我が学院の心苗(コディセミット)からの情報によると、少数の残党による事件とは考えにくいですね。地球界では社会的に、源使いに対して敵視する傾向があるので、その観念を、テロ事件や情報操作によって深刻化させているのかもしれませんね?その8人の刺客たちも、組織の残党に操られた、いわば影武者にすぎないのではないでしょうか?」


 メッキーの話を聞き、グラーズンは事態の深刻さを評価する。


「時勢の流れか……。ローデントロプス機関管内では、これからハードな事件が頻発するだろう。我々も地球界から来た者に対して警戒を強めるべきだ」


 義毅は目線をメッキーに移す。先ほどから、サポーターたちを指導する様子が気になっていた。


「メッキーちゃん、えらく忙しそうじゃねぇか?こんな深夜まで事件の捜査の指揮を執ってるのか?」


「ええ……ちょっと暴れん坊な子がフェロトスの定魂石を盗んだの。守護獣だけでなく、守護隊の子たちにも死傷者が出てしまって」


「それは一刻も早く奪還しないと大変だな。まさか定魂石を盗むなんてな、豪胆な奴だぜ」


 アイラメディス学院の結界は、建物を柱として成り立っている。その礎石であり、機元端(ピュラルム)を支配する守護聖霊を安定させるのが定魂石だ。


 守護聖霊のなかでもとくに反応の激しい者は、定魂石がなければ暴走のリスクが高くなる。タヌーモンス人の建築において、定魂石は心臓の弁膜のような存在である。逆に、反応が普通程度の守護聖霊の場合は機元端の作動に不整脈のようなノイズが起こり、建物本体へのダメージ耐性も弱化する。

 地域や国を守る結界の柱にはよく、重要な建物が使われる。そうすることで、より結界を強くする狙いだが、もしも失われた場合、やはり結界は弱化してしまう。

 定魂石は錬成までに手間がかかるため、闇市では相応の資源を入手できるだけの価値がある。事情でAPポイントが稼げない時や、資源を稼ぎたい場合、闇の売買のために手を伸ばす人も少なくないのが実情だった。


「そうですね、今は手配した子たちが、逃走中の子の追跡に当たっています。一刻もあれば捕まえられるでしょう」


 メッキーは自分の事件についてはある程度、余裕が見えてきていたのか、義毅の方を気にしていた。


「トヨトミ先生、そちらの事件の方が大変じゃありません?あの子が襲われたとき、同時多発的に時空の歪みが起きました。派手な手を打たれましたね」


 あの時のぞみを襲った蜘蛛型のミミックは、聖光学園(セントフェラストアカデミー)内の複数箇所で、時空の歪みから現れた。明らかな攻撃行動を伴った一連の事件は、一気にA級扱いに引きあげられた。


「詳しい捜索結果はどうなった?」


 義毅はメッキーに頷き、グラーズンの方を向いた。


「あれは本命であるカンザキノゾミを狙うための撹乱戦法だ。サーイト、彼に情報をシェアしてくれ」


「分かりました!」


 分析データが義毅の前に投影された。

 学園全体の立体マップには、歪み現象の現れた50箇所にポイントが打たれている。翅の生えた蜘蛛に関するデータには、外見、攻撃スキル、数量や源紋パターンまで書かれていた。義毅がそれらに目を通している間に、サーイトが説明する。


「50箇所に現れた異形の数と比べると、ヘルマティヴダンジョンに現れた異形は二倍でした。さらに、『尖兵(スカウト)』であるリュウ・ゲンペイが彼女を救援し、異形を排除すると、空間の歪み現象は全ポイントにおいて同時に消失しました」


 義毅はあらかたすべての情報に目を通し終える。


「こんな派手な方法で襲撃するってことは、他にも目的があるはずだろ?時空の穴はどこから繋がってきたんだ?」


「未来だ」


 それを聞いた瞬間、義毅は激しい好奇心に襲われたような表情になった。


「本当か?」


「間違いありません。時空探索石の光からして、あのミミックの群れは二年半後の時間点から来たものです。おそらく英雄トヨトミの授業で現れた人間型の異形も、おおよそ、その時間点から来ました」


 義毅が読んだデータの中には、一度目と二度目にのぞみを襲撃してきた者の源紋パターンが合致しないという情報もあった。


「ふっ。やっぱり相手は複数人いるってことだな。この手口から考えれば、奴らはもうすでにやってきてるってことだろ?」


「仰るとおり、反応パターンは現れましたが、一瞬で消え、何らかの方法で源気(グラムグラカ)反応の追跡を拒まれました」


 パチパチと、誰かの拍手が響いた。


「さすがは英雄『羅漢王』、見事な推論だ。それは戦争時代に蓄積した経験を活かした判断とでも言えばいいでしょうか?」


 声のする方を見る。拍手を続けているのは、蘇と話していた男だった。


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