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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 下
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147.異変

 深夜になり、シャビンアスタルト寮のシェアハウス28番の、のぞみとミナリの部屋には、ある人物が訪れていた。ソファに座っている二人の女子心苗(コディセミット)は、徹夜でのぞみの警護に当たっている上級生だ。一人は背が低く、ショートヘアーで、ハイニオスの三年生の制服を着ている。もう一人は長い髪を二本の三つ編みにしており、私服のような戦闘スーツを着ていた。


 ミナリはすでにハンモック式のベッドに横になっている。周囲には魚たちが宙を泳いでいた。ミナリが大きな欠伸をすると、尖った八重歯がよく見えた。


「のぞみちゃん、おやすみニャー」


「ミナリちゃん、おやすみなさい」


 パジャマに着替えたのぞみは布団をかけると、右腕の縄を見て、軽い溜息をついた。


(一ヶ月なんてすぐだよね。ちょっと我慢すればいいだけ。……皆の命に比べれば、このくらいは……)


 腕を布団の上に置くと、のぞみは少し寂しい気持ちになった。そして、許嫁の相手を思い出す。


(光野遼介さん……。今、何してるんだろう。もうすぐ第4回目の大会に参加するんだよね……少し、見てみようかな)


 軽く目を閉じ、『天眼(てんがん)』で光野遼介を探す。のぞみの意識は宇宙空間を泳ぎはじめ、星の砂が流れる川に潜る。そして、太陽系の中から地球を探し出す。目の前に、懐かしい、青い星が見えた。


 いつものようにのぞみは、手を伸ばして飛びこもうとする。しかし、何らかの、不可抗力的な力が働き、のぞみの意識は宇宙空間から離れていった。青い惑星が遠ざかり、星の砂たちも消えていく。その後には、純粋な闇だけが残り、その空間に閉じこめられてしまった。

 のぞみは愛する者を見たいと思う。だが何も見えない。聞こえるのは自分の呼吸と脈を打つ音だけ。そしてぼんやりと、意識が薄れていく。


 経験のない状況に、のぞみは悪夢を見たときのように怯え、勢いよく上半身を起こした。息は乱れ、冷や汗がダラダラと流れ、上着はびしょ濡れになっている。


 のぞみはベッドを離れた。ローテーブルに、水晶の光が灯っている。


「どうされました?何か異常でもありましたか?」


 三つ編みの心苗が、心配そうにのぞみを覗きこみ、その髪の毛を揺らした。


「あ、いえ、ちょっと……着替えをしようかと……」


 濡れた上着を脱ぎ、綺麗な服に着替えても、のぞみはまた溜め息をついた。


「眠れそう?」


 今度はショートヘアーの三年生がのぞみに話しかける。


「はい……」


「知らない相手に狙われて、眠れないんでしょうか?」


 小さな背中の先輩が、拳で胸を叩いた。


「私たちが見張ってるんだから、安心して寝ていいのよ?」


「分かりました。先輩たち、おやすみなさい……」


のぞみはまたベッドに横になり、寝ようとした。


 のぞみが目蓋を閉じると、警護をしている二人は囁き声で会話を始めた。


「神崎さん、一体誰に狙われてるんでしょうね?」


「部長も詳しくは言わなかったけど、空間の歪み現象が起こって、そこから出てきた蜘蛛型の異形に襲われたみたいね」


「あの現象、セントフェラストのあちこちで発生しましたね。幸い、四つの学院それぞれのセキュリティーシステムが作動して、大きな騒ぎにはなりませんでしたが」


「ダイラウヌス機関からの依頼だからね、たとえ何が現れても、後輩君には近寄らせないわ」


 二人はそこで話を切ると、のぞみの寝顔を見守った。


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