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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 中
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143.ラストステージ

 のぞみは下り坂になった回廊を駆ける。上から眺めればその道は、螺旋を描いている。

 進んでいく道々には、どこかの組織の制服を着た人々が倒れていた。ジェニファーたちが倒したのだろう。のぞみはそのうちの一人の男性に触れる。その体はすぐに光となり、崩れて散った。


「この人たち、ダミー人間……?まさか、ラストステージの課題って……」


 目の前の屍たちは次々と消えていった。この現象から予想すると、チームメイトたちはすぐに追いつける距離にいるのだろう。のぞみはさらに走る。

 300メートルほど先まで行くとそこは、ラストステージの果てであった。


 情報管理中枢のようなその部屋は朽ち果て、廃墟化している。旧式の水晶モニターがあちこちに設置され、割れた石板が水晶モニターをコントロールするためのキーボードのような役割を果たしている。

 案外広いこの部屋の真ん中には数段の踏み台があり、そこに課題の目的である人質が座っていた。そしてその周りには、15人ほどのダミー人間が見張りとして立っている。


 気配を小さくしてこっそりと部屋に入ったのぞみは、石柱の後ろに姿を隠し、様子を見ていた。


(思ったより人数が多い……。下手に一人で手出しすると、失敗するリスクが高まりそう。皆はどこだろう?ラストステージは一本道のはずなのに……?)


 のぞみが思案していると、背後から人の手がにゅっと伸ばされ、口を覆われる。


「むむむ……」


 のぞみが慌てて声をあげようとすると、男の声が、空気のように小さな声で囁いた。


「おい、喋るなよ。気付かれたら戦術がパーだぜ」


 すっかり聞き慣れたその声に、のぞみは落ち着き、目配せをした。クラークに向かって軽く頷くと、手のマスクが外される。のぞみはクラークに合わせて声を小さくした。


「ティソンさん、皆は……?」


「こっちだ」


 のぞみはクラークの後ろにつき、柱の後ろに身を隠しながらそっと移動する。複数人でも十分に隠れられる垣の後ろを、のぞみはしゃがみながら動いた。

 そこに、ジェニファーと藍の姿が見える。


「のぞみさん!きっと追いついてきてくれるって、信じてました。では、舞鶴さんも?」


「うん、彼女も無事です。あっちのチームはクリアしましたよ。それより、ヌティオスさんは?」


 のぞみの質問に、クラークが答えて言う。


「敵に気付かれないように、俺たちが攻撃をしかけるまでは外で待機してもらってるんだ」


「え?でも、ここまでの間にヌティオスさんを見かけませんでしたよ?」


 ジェニファーが囁くような声で指示を出す。


「きっとどこかに隠れているさ。さて、Ms.カンザキ。君はここで待機だ」


「ツィキーさん、何故ですか?こんなに敵の数が多いのに、皆で攻めた方がいいんじゃないでしょうか?」


「私の戦術は、敵の集団の注意を引きつつ、ドンを狙い撃ちすることだ。こちらの人数は少なくても構わない。それに、君は人間を相手にした途端、手加減するだろう?ようやくラストステージまで来たんだ。未然に防げるようなミスで、すべての努力を水の泡にはできない」


 ジェニファーの指摘に、のぞみは反論できなかった。もうミスは許されないのだ。


「わかりました」


「のぞみさん。ここは私たちに任せてください。一瞬で敵の集団を討ち取りますから!」


「さて、Ms.ランにMr.ティソン。君たちの準備が整い次第、作戦を実行する」


 二人は頷くと、すぐに飛びだした。

 

 藍はスイたんを手に、高速かつ、変化のある剣法で、深く浅く、四人を斬り倒す。


 クラークはいきなり光弾を投げ出した。

 地面に当たると爆風が二人を吹き飛ばし、近くにいたほかの二人も動きを鈍らせる。その隙に、『鎌星拳(かませいけん)』の技を使って一人を投げ飛ばし、もう一人は体勢を崩させると肉弾戦で打ち飛ばした。


 一瞬間で敵の集団は半減した。

 さらに二人が迎え撃つように武器をかざす。


「オリャアアアアア!!」


 大きな叫び声が聞こえたかと思うと、外側から爆発が起こり、壁が吹き飛んだ。粉砕した瓦礫は多数の敵に当たり、ダメージを与える。それは、特攻のように壁にぶち当たったヌティオスが巻き起こしたものだった。その勢いのままでヌティオスは、下の二本の腕で2人の衣服を掴むと、軽々と投げ飛ばす。投げられたダミー人間は壁に体をめりこませた。


「ハハ!戦術通り、後押しに来たぞ!」


 藍、クラーク、ヌティオスの3人は、二方向から挟み撃ちを仕掛け、敵にプレッシャーを与えることに成功した。しかし、極度の緊張状態になると、集団のドンはナイフを持ち出し、人質の首に突きつける。


「近付けばどうなるかわかってるだろうな?」


人質が傷ついた瞬間、課題は失敗だ。3人はそれ以上、近付くことがむずかしくなってしまった。


 それでもクラークたちは、源気(グラムグラカ)をまとった状態を維持したままで敵と対峙している。

 その時、ジェニファーが水鳥のようなスピードで敵のドンに跳び寄り、(さい)でその首筋を狙った。


 一瞬後、ドンが失神したことで敵は制圧され、残った3人の敵はクラークと(ラン)が倒した。これにより、人質は晴れて自由の身となった。

 アタッカー戦術を活かした形で、5人は一人も欠けることなく、課題をクリアしたのだ。


 5人の水晶札が、課題クリアの通知音を鳴らす。


「やった!クリアです!」


「し、しかも5人揃ってだぞ!」


「へっ。色々あったけど、とことん付き合ってよかったぜ!」


 垣の後ろに隠れて経過を見守っていたのぞみは、全員でクリアできたことを素直に喜んでいた。


「皆、良かったですね……」


 課題が終了したため、設置されていた転送台が稼働し、光を放った。


「のぞみさん~!私たち、チャレンジ成功です!一緒に戻りましょう!」


 藍が手を挙げ、のぞみに呼びかけた。転送台からダンジョンの玄関に戻れば授業は終了する。ほっとして、のぞみは気が抜けた。


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