140.背合わせ戦い二人 ①
その頃。洞窟の底にある磯場では、のぞみと初音がゴブロスの群れと戦いを続けていた。
本陣がのぞみに撃破されたため、一時的に群れはパニック状態に陥っていたが、案の定、すぐに初音の近くにいた一体のゴブロスが、ボスに進化した。ほかのゴブロスと変わらない緑色の皮ふだったのが、濃い土色に染まっていく。子分からボスへと進化することで、常に誰かがボスの座につく、魔獣の性であった。
のぞみの展開した10個の金毬は、ゴブロスたちの捨て身の攻撃により、すでに消えていた。
初音は居合いのタイミングを失い、またピンチになった。
その時、鳥の鋭い鳴き声が聞こえた。3羽の八咫烏が三方から飛んできて、ゴブロスの群れを撹乱する。烏たちの奇襲を受けたゴブロスは、その嘴や翼に触れたところから体を燃やした。
烏の後ろから、のぞみも戻ってくる。二刀流の剣を構え、攻防同時の連撃で魔獣を一体ずつ捌いて突破口を作り、初音と背中合わせになる。
「舞鶴さん!大丈夫ですか?」
「はい…ご、ごめんなさい……。神崎さんが助けてくれたのに、足手纏いになって……」
ゴブロスの個体はすでに10体を下回っている。
「そんなことを気にしないでください、残りの魔獣を一緒に倒しましょう!」
「でも、どうしたら……?」
「どうやら一気に全滅させなければ、次々に新たなボスが生まれてしまうようですね。……舞鶴さん、目を閉じていてくれますか」
「えっ?どうして」
突飛な提案に、初音は驚いた。初音は目を閉じたままで技を繰り出す余裕などない。
だが、のぞみには活路が見えているようにはっきりとした口調で続ける。
「私が魔獣たちの動きを封じます。それから、一気に倒しましょう」
「分かりました……」
金毬を展開させた防衛陣も、八咫烏による魔獣の撹乱も、どれも優れた戦術だった。のぞみの戦略は大胆なものだったが、初音は今、それを安心して信じることができる。刀を鞘に収め、居合いの構えを取って目を軽く閉じた。
「目を閉じました」
準備は整った。
のぞみは狭い歩幅で、二歩、歩き出す。そして三歩目を踏み出すと、右足を前にした。左手を捻り、銀の刀の刃の角度を変えると、顔はしっかりと前方を見据える。目を閉じる。右手に持った金の刀を、銀の刀の峰に当てると、二つの刀を素早く擦り合わせた。
金銀の刀が交差したとき、眩しい光が放たれる。
『日月明神剣・金剛切り』
皆既日食の終わりに見えるダイヤモンドリングのように、眩い光が走る。一瞬で強い光に照らされ、無防備なゴブロスたちは一時的に失神し、戦闘能力を失った。
「舞鶴さん、今です!」