137.加勢にきたのぞみ
「神崎さん、どうしてここに!?」
ゴブロスたちに押されていた初音は気弱な様子で、のぞみの登場に戸惑っている。
「私たちのチームがちょうど上空に架かっている橋を通るところでしたので。舞鶴さんの姿が見えて、飛んできました」
初音の質問に答えながら、のぞみは魔獣の群れの動きに気を配っている。ざっと数えただけで、20体はいるようだ。
初音はのぞみの話を聞いて上空を見上げた。藍たちが魔竜ベルティアートに襲撃されているのが見え、初音は慌てた。
「神崎さん、勝手にチームから離脱して、後で叱られますよ?!」
「大丈夫です、皆の許可を取ってから来ました。私たちの方はツィキーさんに任せています。彼女ならあのボスを倒せます」
「……でも、別のチームなのに、どうして……?」
「えっ?だって舞鶴さんが困ってるから……。別のチームになっても、同じクラスの仲間には変わりないじゃないですか?」
ゴブロスが攻めてきたので、のぞみは刀を構える。金と銀、二本の刀で同時に斬り払った。右手の刀はゴブロスの斬撃を弾き、銀の刀は魔獣の足を斬る。一瞬で体に纏った源を衝撃波のように放つと、一本足になったゴブロスが吹き飛んだ。
同時に斧を振るってきた右側のゴブロスを、源気の空圧で食いとめる。金の刀で防御し、銀の刀で刺撃する。
ゴブロスの丸々と太ったお腹を貫くと、のぞみはさらに蹴りを入れて魔獣を吹き飛ばした。動きも速く、次々に仲間を倒していくのぞみの気迫に、魔獣たちの群れ全体に怯えが広がる。
対人戦では萎縮してばかりののぞみが目の前で勇姿を見せ、初音は胸がどきどきして堪らなかった。
「舞鶴さん、まだ戦えますか?」
のぞみの声を聞くと、胸が熱くなって痛いほどだった。戦意が湧き出し、まだ戦えそうだと思った初音は気を整え、地面の刀を拾いあげ鞘に戻す。そして、体勢を整えた。
「うん……」
のぞみはゲートと次のステージに繋がる壁に大きな割れ目があるのを見て、状況を考察している。
「ここがステージの終わりですね。今いるボスを倒しても、子分のゴブロスが進化して次のボスになってしまうので終わりがありません。とにかくここにいる魔獣はすべて倒しましょう!」
「でも……私たち二人でこの数の魔獣を倒せるでしょうか?」
群れが戦意を低迷させているうちに、のぞみは金銀の両刀を源気の状態に戻した。そして、金毬を10個創ると、初音を守るように飛ばす。
「ゴブロスの群れを混乱させるために、私はしばらく離れます。そして、魔獣のボスを討ち取ってから戻ってきます。その間にゴブロスたちが攻めてくると思いますが、この金毬に接触すると爆発が起こる仕掛けです。それで少し動きを封じられるので、その間に対応してください」
のぞみの戦術は具体的でわかりやすかった。ここまで自分のことを大切に思い、応援してくれるなんて……と、初音はのぞみに対する安心感を覚える。そして、信じる心の芽も、芽吹こうとしていた。
「……わかりました。その時は私が何とか仕留めます」
息を整え、しっかりと構える初音を見ると、のぞみは微笑んだ。
「剣術の実技授業での試し斬りも、太刀筋が見事でしたよ。舞鶴さんなら、落ち着いてやればきっとできます。一緒にこの状況を打破しましょう」
鼓舞され、初音は左手で強く鞘を握り、右手で柄を取った。先ほどまでの泣きそうな表情は一変して、闘志を高めた。
「……はい、行ってください」
初音の返答に頷き、のぞみはボス魔獣に目をやる。本陣を示す木製の標を持った2体のゴブロスに挟まれ、ボス魔獣はこちらを見ていた。
のぞみは6羽の八咫烏を創り、もう一度、2本の刀を翳す。
意識を集中させると、6羽の八咫烏はのぞみの意に従って飛びだした。
八咫烏たちは、進路上のゴブロスに突撃していく。強行突破で道が開かれると、のぞみが飛びだした。
ボス魔獣を相手取りつつ、なるべく初音の負担を減らすため、のぞみは『鋩たち』という技を使って進路のゴブロスたちを斬り捨てながら進んでいく。
飛びあがり、2体の首を斬り落とした。
先を行く八咫烏の攻撃で体勢を崩したゴブロスを踏み台にして飛びあがると、ゴブロスたちの頭を踏み石のように跳んで、一直線に本陣へと飛びこんだ。
ゴブロスのボスは、大きな蛮刀を翳し、のぞみに向けて振った。だが、その動きを予測していたのぞみは左足の踏み場を源で創り、アクションスキルを使って空中で進行方向を微調整する。魔獣の蛮刀は、左手の銀の刀でしっかりと受け止めた。
『日刺』
カキン、と刀と刀がかち合い、鍔迫り合いが続く。月暈のように冷たい刃が火花を散らしている。
のぞみはそのままゴブロスの懐中に飛びこむと、右手の金の刀を強く刺した。
のぞみの突撃で大きなダメージを受け、ボス魔獣は蛮刀を落とした。
着地したのぞみはさらに踏みこみ、爪先で地を蹴る。ゴブロスの体を貫いたままの金の刀と銀の刀を持ったままで時計回りに一回転し、金の刀を引き抜いた。二回転、三回転と6連斬りまで続けると、ゴブロスのボスを確実に倒した。
『日月回天』
のぞみの後ろでは初音が居合いの構えを取り、落ち着いた様子でゴブロスたちの動きを見据えていた。のぞみの創った10個の金毬による防御陣のおかげで、太刀技に最適な間合いを取ることができている。
一体のゴブロスが攻めてくると、金毬に接触した。爆雷のような爆発が起こり、動きが抑えられる。のぞみの言っていたとおりだ。
その瞬間を逃さず、初音がスラリと抜刀する。
音もなく、ゴブロスの手が切り落とされ、武器を持ったまま地面に落ちる。初音は両手で柄を握り、逆袈裟の追撃で魔獣を切り倒した。
どさり、と重い音とともに倒れたゴブロスは、その後、光になって辺りに散った。
(……浄音夢想流、『立音』そして、『石裂』……。源を刃先に集中させたら、思い切って、斬る……)
初音は刀を鞘に収め、次の魔獣が動くまで気を引き締めている。
背後から爆発音が響いたのを合図に、初音は振り向きながら抜刀する。大きく一歩踏みこむと、一閃、光が刻まれた。
防御陣の中へ立ち入ったゴブロスは、金毬の爆発を受けてひるんでいたところを、横払いで両断された。
『廻心』
のぞみの援助があるせいか、初音の戦闘は補正され、いつもよりも腕がよく、目付きも鋭くなっていた。