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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 中
135/345

134.ラベルノースの角笛

「気を抜くのが早すぎます……」


 あれだけの攻撃を受けても魔竜ベルティアートの気配は消えない。そのことに(ラン)は身震いした。


 怒号のような叫びは、地鳴りを伴っている。魔竜が吠えているのだ。煙がまだ散る前から黒い影が見え、巨大な扇子を振るうような翅の音が何度も聞こえる。


 煙はエネルギーブレスの光波によって吹き払われる。その光は、煙を破り、のぞみたちの元へと飛んでくる。


「おい!嘘だろ!?」


 ヌティオスが大きな目を白黒させた。


「こんなの聞いてません!!」


「半壊の建物じゃ耐えられない!」


「でも、この技を受け止められるスキルなんてねぇよ!」


 思いがけない反撃技に、のぞみたちは混乱した。誰一人、そのエネルギーブレスに対応できるようなスキルはなかった。


「た、退避っ!早くっ!」


 回避したところで、もはや彼らに待っているのは壊滅的なダメージを受けることだけだった。光が近付き、4人の顔は真っ白に照らされる。それでも4人は諦めず、屋根と柱の下に隠れ、防御の体勢を取った。


 しかし、エネルギーブレスが彼らに当たることはなかった。

 光が直撃する寸前、彼らの前に、一つの影が立ったのだ。美しいくびれ、短く鋭い耳、背の高いその女性は片手を上げ、20センチほどの光の玉だけで、魔竜の光波を受け止めた。


「ルビス先生!?」


「こんな膨大なエネルギーを片手で受け止めるなんて……凄い……!」


 光波はしばらく消えなかった。ルビスは光の玉にエネルギーを集め、盾のように少しずつ大きくしていく。


 発光するように白い金髪と、首飾りの水晶玉が強く揺れている。そのまま20秒ほどが経ち、エネルギーブレスは徐々に弱りはじめた。その頃にはもう、ルビスの右手に集まった光の玉は1メートルを超える強靱な盾になっていた。


「ダイヤミラーリバースクラッシュ」


 次の瞬間、ルビスが右手を振りかざした。光の玉はエネルギーブレスを撃破し、そのまま敵へと撃ち返される。魔竜ベルティアートはエネルギーブレスを出すために口を開けたまま、その口の中に反撃の光弾を受けた。

 苦しげな呻きだけで地響きがしそうだ。

 甚大なダメージを負ったベルティアートはそのまま下へと落ちる。そして、石山にぶちこまれると、崩れた大量の石に生き埋めとなった。


 伝説の魔獣を相手取っても、ルビスは息一つ乱さない。教諭陣が心苗(コディセミット)たちの前で本気の戦いを見せることなど、滅多にないことだ。その凜とした佇まいに、クラークたちの目はぴかぴかと輝いた。


「ルビス先生、カッケェ!」


「さすが、玉号『ラベルノースの角笛(ホーン)』を賜ったルビス先生です。ベルティアートとの戦闘で息も戦意も乱れないなんて、凄いです!」


 ラベルノースは、アトランス界に実在する、神格化された聖獣だ。全身に天然ダイヤを生やし、陸生の竜王とも言われている。光束や熱線、電磁砲などの全てのエネルギー体による攻撃に耐えうるのみならず、それらを集め、倍にして反射する力を持つ。この聖獣は、古くはタヌーモンス人の考える18方角を守護する聖霊の一柱と言われ、現在でも占いや風水、文学、建設、軍事と、広範に影響を及ぼしている。ちなみにラベルノースは18方角の、第3柱に当たる。


 ルビスはこの聖獣・ラベルノースを冠した玉号と技を、英雄より継承されている。しかし、藍からの称賛の言葉など聞こえなかったかのように、ルビスは気を張ったままで教え子たちに向き合った。


「危ないところだったな。君たち、大丈夫か?」


「はい」


 のぞみがはっきりと返事をしたとおり、4人全員、大した傷ではなかった。


「せ、先生、やったのか?」


 切羽詰まったようなヌティオスの言葉を聞くと、崩れた石山を見てルビスは首を振った。


「いや。源気(グラムグラカ)の反応はまだある。失神しているだけで、また目覚めるだろう」


「あの、私たちまだダンジョンの課題を達成できていないのですが、どうして先生がいらっしゃったんでしょう?」


 のぞみが困惑顔で聞いたとき、ジェニファーが彼らの元へ跳んできた。そして、ルビスがいることに気づき、言葉を失った。


 コツコツと靴音が聞こえ、半壊した建物の反対側から、アランがやってくる。魔竜ベルティアートが倒れていることを確認してきたようだ。


「残念だが君たちのチームはここまでだ。ベルティアートの始末は私がやる。Mr.ハンゲイトについて、次元トンネルでダンジョンの入り口まで戻っていなさい」


 急展開に付いていけず、藍は目を丸くしている。のぞみは首を傾げ、ルビスに訊ねた。


「先生、何が起こったんですか?」


「システムエラーだ。君たちのルート上、第四ステージで、予定外のボスが現れた。この先、何が起こるかわからない以上、続けさせることはできない」


 ここまでの努力が水泡に帰するのではと、藍は肩を落とした。


「先生……では私たちのチームは、チャレンジに失敗したのでしょうか……」


 ルビスは困ったように眉を下げた。


「ここまで攻略できたなら、課題はほとんどクリアしたも同然だ。今回は特別にクリアを認めよう」


 ルビスの提案に、ジェニファーはカッと顔を赤くした。


「先生、お気持ちはありがたいですが、温情の実績など私は欲しくありません」


「君の気高い志は褒めよう。だが、君たちはあの魔竜を倒せるかい?」


「できます!私が倒してみせます!」


 熱意の伝わるジェニファーの様子に、ルビスは頷く。そして、のぞみたちに声をかけた。


「リーダーはこのように言っているが、この課題はチーム戦だ。全員の意志を聞かせてくれ」


 ヌティオスは自分の意見を発するのが苦手だ。チームメイトたちの顔を順番に見ながら、目を泳がせている。


「オッ、オレはみんなの意見に従うぞっ!」


のぞみと藍はお互いを見て、力強く頷いた。


「先生、システムエラーであっても、最後まで挑戦させてください」


「私ものぞみさんと同じ意見です。ここまで5人で攻略してきて、あと少しなのに、ここで諦めるのは悔しいです」


 全てのチームを監視していたルビスは、ファーストステージで棄権を申し出ようとしていた男にも目を合わせる。


「君は?」


 クラークはのぞみを見た。このダンジョン攻略のなかで、クラークなりに得たものがある。


「ま、リーダーが決めたことだからな。俺もチームの後方応援要塞として、とことんまで付き合ってやるぜ!」


 クラークは、実技授業の時にはいつも教諭の指導に楯突く問題児だった。ルビスは微笑した。


「良いだろう。5人全員の意志を尊重する。だが、君たちが奴を倒せなかった場合、このボスは別ルートにいる同級生たちを襲う可能性がある。そのリスクを考慮しても、君たちは行くのか?」


 ルビスの言葉は激励の花火のように、5人の士気をさらに上げた。


「はい!任せてください!」


「よし!ではラストステージまで、君たちの底力を見せてもらおう!」


 アランが『章紋術(ルーンクレスタ)』を使い、次元トンネルが開かれる。二人が順番にその中へ入ると、時空の裂け目のようなその大きな穴は、するりと縮まり消えた。


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