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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 中
132/345

131.もう一つのチーム

 その頃、のぞみたちと同じ第二班で出発したあるチームも、別ルートの第三ステージを攻略しているところだった。


 そこは300メートル以上あろうかという高い天井の地下水路だった。巨大な洞窟の中には、山にすら見えるほど大きな鍾乳石や、太い天然石柱が林立している。

 200メートルほどの高さの場所には水道橋や、牢獄の看守たちが寝泊まりする要塞のような施設も見えている。それらの人造物はどれも廃墟のように打ち捨てられていた。岩壁に生えた苔がネオン灯のように、青や緑に光っている。

 幻想的な雰囲気を醸すその空間には、浩大な水の流れる音が聞こえていた。


 音のする方へと近付いていくと、20メートル幅の豊かな水流が現れた。流れの速いその川のあちこちに踏み石が見えており、それらの間に噴水トラップが仕掛けられている。

 トラップの仕掛けられた踏み石に10秒以上立ち止まっていると、そこから飛びだした瞬間、噴水に撃ち落とされる。また、川の中からは時折、アクスヘッドという魚の魔獣が飛びだしてくる。油断して魚に衝突すると、そのまま水流に乗ってステージのふりだしに戻されてしまう。


 三つの人影が、思い思いのルートで踏み石を進んでいく。

 先頭を走る少女の、カラメル色をした短いポニーテールが揺れている。少女は両手に持った円盤状の武器・チャクナムを投げだして、目前に飛びだしてきたアクスヘッドを撃ち落とす。


 先頭のクリアから5メートルほどの距離を、金茶のマッシュヘアの少年が進んでいる。少年はここまでのステージで大暴れしたらしく、上半身は裸だった。痩せマッチョな肉体をしているが、頭には狸の耳を、尻からは細長い尾を生やしている。


 その後ろから、二人のペースに追いつこうと必死になっている少女がいた。ロングの茶髪をハーフツインテールにしているその少女は、慌てたように前の二人に大声で呼びかける。


「ここは一体どこですか?」


「まだサードステージにいるみたいだポン。地下水路ステージの先に磯場があって、そこにゲートがあるはずだポン」


 不安とストレスに晒され、その少女・初音はさっきからずっと心配げに疑問を連発している。


「この道で間違ってないでしょうか?」


「間違ってないはずだポン。マイヅルたん、もう限界だポン?」


 子どものように舌っ足らずな少年は、デニール=ポンコト=エリモンス。

 初音は彼の質問にか細い声で応じる。


「ちょっと、無理かも……」


 先頭を行くクリアが、初音の弱気な発言を聞き、後ろを睨んだ。


「この程度のダンジョンで降参なんて、あんたそれでも闘士(ウォーリア)?」


「だって……この道が正しいっていう保証もないし。……それに、ミンスコーナさんと(トウ)さんがどこへ行ったかもわからないし……」


 クリアはぴたりと動きを止めた。そして、初音の方を振り向くと、流れる水の音にも負けない大声で叫んだ。


「さっきからブツブツブツブツ文句ばっかり!あんたうるさいのよ!何もしないくせに不安ばっかり吐き散らして。辞めたいならさっさとギブアップしなさいよ、このポンコツ!」


 初音の目尻に涙が溜まる。


「ごめんなさい……」


 湿っぽいすすり泣きが洞窟に響いた。


「ヒタンシリカたん、やめたげて、かわいそうだポン」


 クリアは不服げに少年を睨む。


「デニール、あんたもっと派手に援護できないのかしら?」


「援護?わかったポン」


 泣きだした初音のことは放っておいて、クリアは進み始める。今度は2枚のチャクナムを投げ出した。アクスヘッドが撃ち落とされると、さらに大きなチャクナムを噴水トラップめがけて投げる。

 高速で自転するチャクナムが噴水を抑えた。クリアはチャクナムを踏み場にして中心点を軽く蹴ると、トラップを飛び越えた。


「なるほど、わかったポン!」


 クリアのやり方を見て、デニールも大きく跳びあがった。両手は自由なフォームで挙げ、尻尾を硬直させる。クリアの速度を考慮し、彼女のさらに先を見つめると、右手に集めた60センチの光弾を投げ出した。


「これで一丁あがりだポン!どうだ!」


 光弾は水面に衝突し、怒号とともに水爆を起こす。飛沫(しぶき)があがり、数尾のアクスヘッドが巻きこまれ、びちびちと地上で跳ねている。


 力業で爆破されたダンジョンの光景に、初音は涙を忘れるほど目を丸くした。


「エリモンスさん……。これは、ちょっと……」


「あんた!私を殺すつもり!?」


 もしクリアが機転を利かせられなければ、水爆に巻きこまれ、波に流されていただろう。緊急回避したクリアはいつもの高飛車な表情も吹き飛んだのか、怒りのあまり顔を歪めていた。


 デニールは悪びれず、頭の後ろで手を組んで飄々としている。


「ヒタンシリカたん、派手に援護してくれって言ったポン?」


「あんた、その頭は飾りなのかしら?援護どころかこっちが死ぬところじゃない!」


「それは指示出しが適当すぎたからだポン?もっと詳しく言わないとわからないポン」


 笑顔を崩さないデニールに、クリアは呆れて脱力した。


「と、とにかく、二度とあんたの技に巻きこまないでちょうだい」


 そう言うとクリアはまた進み始めたが、内心ではチームメイトに対して毒づいていた。


(くそ。こんなチームに振り分けられて、本当に最悪……。しかもよりにもよってあの女にリード権まで取られて……)


 クリアが先へ進み始めたのをみると、デニールは初音の方を見た。かわいそうな女の子の代わりに悪役令嬢を懲らしめたデニールは、親指を立ててにやにや笑った。


だが、クリアの機嫌はさらに悪くなったので、初音は胃がむかむかするほどの不安を覚えていた。


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