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ウイルター 英雄列伝 戦場のガーベラと呼ばれた巫女  作者: 響太C.L.
日常鍛錬に隠す殺意篇 中
124/345

123.付け込む所

 後ろから帯を掴むと、のぞみのシャンプーの匂いが立つほどの距離だった。のぞみが念を入れると、金色の盾は急上昇を始める。


 それに合わせてクラークは、凄まじい源気を右の拳に集めていた。もう5秒もすると天井にぶつかるというタイミングで、まずは光弾を撃ち出す。それが天井に衝突すると、クラークは跳びあがり、パンチを繰り出した。

 彼らの上空にある《罠の間》では、床が急に膨れあがり、裂け目が現れた。光と爆発の炎が沸きあがり、砕けた床は岩のようになってあちこちに吹き飛んでいく。


「凄い!本当に脱出しましたね!」


「っしゃ!このまま皆を追いかけるか!」


「任せてください」


 のぞみとクラークが乗ったまま、金色の盾は勢いよく飛んでいく。

 盾は彼らを乗せたまま、石タイルの床から15センチの距離を保ち、見えるトラップを避けつつも低空飛行を続けた。


 のぞみは遠くを見ながらエアサーフィンのような動きでスピードを上げていく。

 艶々の髪は強くはためき、クラークは振り落とされないよう、しっかりとのぞみの帯を掴んでいた。盾が激しく跳ねるたび、クラークは興奮した。


「カワバンガ!!」


「それは何ですか?」


「サイコーってことだぜ!」


 のぞみは「カワバンガ」という言葉を、躍動感のある旋律だと思った。それを聞くだけで、なぜかやる気が湧き出てくるような気がする。


「なるほど、カワバンガ~!」とのぞみは明るく叫んだ。


 一方、ジェニファー、(ラン)、ヌティオスの三名は、すでに戦略で決めた3分間以上、のぞみたちを待っていた。ジェニファーは指輪に投影したタイマーを眺め、決心したように声をあげた。


「時間だ。次のステージに進む」


 ジェニファーはセンサー装置に(グラム)を注入する。人像が彫られた扉が作動し、観音開きに開いた。迷いなく次のステージの進もうとするジェニファーに、藍は声をかける。


「ツィキーさん、もう少し待ちませんか?」


「最初に言ったはずだ。3分間待って来ない者は棄権とみなすと。ファーストステージの攻略に5分以上はかけられない」


「でも!ヌティオスさんの伝言では、必ず追いつくと!」


「Ms.ラン。君はMs.カンザキと親交が深いようだね?それは結構なことだが、現状は目標達成が最優先だ。残っているメンバーが、他の者たちの思いも背負っていかなければ、全員失格になってしまう」


 理屈としては理解できるが、藍はジェニファーの威圧的な言葉を恐れず、思い切って言葉を紡いだ。


「わかってます!掟も、わかってます!……でも、のぞみさんはそう簡単に諦める方ではありません!」


「彼女にそれだけの根性があるなら、たとえ私たちが先に進んでも、追ってくるだろう?それもまた、友を信じるということじゃないか?」


 ジェニファーは早く次のステージに進みたかった。そのために、藍の感情を落ち着かせるよう、便利な言葉を使ったのだ。藍はそのことにも気付いていた。


「ツィキーさん!事前に決めた方針でいくと、次のステージはおそらくこの三人で無事にクリアできます。でも、第3ステージの闇の迷路には、のぞみさんの力が必要ではないでしょうか?」


「便利な道具がなくても、我々の察知能力で道を見つけられるだろう」


 ジェニファーの言い方は、のぞみがいなくても困らないと言っているようだった。藍はそれが悲しく、ジェニファーに対する不満も溢れてくる。それでも涙だけは流すまいと、我慢した。


「でも……」


 藍がさらに言葉を絞りだそうとしたとき、ヌティオスが場の空気を読むこともなく、突然、発言した。


「オ、オレにはよくわからねぇが、ツィキーは焦ってるだけじゃないか?」


「!?」


 ヌティオスの突飛な発言に、ジェニファーは目を丸くし、一瞬黙ったが、すぐに余裕のある笑みを浮かべた。


「はっ、私は別に焦ってなどいない」


 そう言いながらもジェニファーはヌティオスを睨んだ。ジェニファーの苛立った源気のプレッシャーに、ヌティオスは冷や汗を流し、声も小さくなった。


「で、でもよう、タイムアタックの課題じゃねぇのに、なんか、ハイペースすぎねぇか?」


「Mr.ヌティオス!ならばいつまでここにいる気だ?我々の次発である第三班のチームに追い抜かされたいのか?」


 ジェニファーは、風紀隊所属にもかかわらず、後発のチームに追い抜かされるなどということはあってはならない恥辱と思っていた。


「ツィキーさんは全員が生存したうえでのクリアを望むと言いましたが、あれは本気ではないですよね?」


 ヌティオスの次は藍だ。ジェニファーは次第に苛立ちを高めていった。


「はっ……。任務においてベストな目標を立てるのは当然。だが、予期せぬことが起きた場合には結果を下方修正することもあるだろう。これが正式なミッション依頼だったなら、君たちのような情に偏りすぎる考えや、不安要素ばかり掻きたてる思考では、失敗を招くことになるだろう」


「それでも、そう簡単に仲間を捨てていくのは嫌です!私はここで待ちます!」


 藍は動かない。


 ジェニファーにとっては、人間関係の苦手なヌティオスが、のぞみと良い関係を築くことができたのも予想外だった。もしここで無理やり先へ進んだとすれば、藍とヌティオスからの信用を失い、権威もなくなる。チームのリーダーでありたいジェニファーは、身動きが取れなくなっていた。


「おい、この源気(グラムグラカ)は!」


 ヌティオスに言われて、ジェニファーと藍も気付いた。

 藍が振り向くと、よく知った源気が、高速で接近してくるのがわかる。藍は微笑んだ。


「この気配。間違いなくのぞみさんです」


 ゲートがすでに開いているのが見えると、のぞみは大声で呼びかけた。


「皆さん~!」


 手を上げて、藍が応じる。


「のぞみさん!」


 のぞみとクラークは、金の盾に乗っていた。高速で飛んできたにもかかわらず、反動もなく三人の一歩手前で停止する。


 クラークが先に盾から飛び降り、のぞみも続く。金の盾は源として回収され、その場から消えた。のぞみと藍は両手を繋ぐ。目の前で、藍は目尻に涙を溜めていた。


「無事で良かった……。トラップに引っかかったのかなって、心配でした」


「あはは……落とし穴に落ちちゃいました。でも、ティソンさんと力を合わせて、何とか脱出できて……。心配させてごめんね、可児ちゃん」


 再会に心を震わせている二人の様子を見ながら、なかなか先へ進めない苛立ちから、ジェニファーが怒鳴り声をあげた。


「Ms.カンザキ!いつまで待たせるつもりだ!」


「遅くなってしまい申し訳ありません。ティソンさんも無事でした」


 親友の無事がわかり、藍は安堵した。


「二人とも、無事で何よりです。ツィキーさん、次のステージへ進みましょうか?」


 ようやくメンバーが揃い、続きが攻略できると思っていたが、ジェニファーはまだ動かない。そして、睨みつけるような表情でクラークを見た。


「待ちなさい。Mr.ティソン。もう一度聞くが、貴様は自分の役割をわかっているのか?」


 ダンジョンに入ってからずっと拗ねていたクラークだったが、今は得意げな表情でジェニファーをまっすぐに見つめている。


「ああ、当たり前だろ?俺は俺のやり方でお前らを応援するぜ。お前のクソつまんねぇ戦術にもとことん付き合ってやるよ。だが、何かあったときはきっちり責任取ってもらうぜ、俺らの特攻隊長さんよ!」


 ジェニファーは、クラークのあまりの変わりようにびっくりした。こんなことをする奴は一人しかいない、とのぞみに視線を移す。のぞみは真面目そうな眼差しと、柔らかい微笑みを返した。


「もちろんだ!君たち、しっかり私についてきなさい!」


 下克上の兆しすら感じさせるクラークの態度に、ジェニファーも気持ちを直角に持ちあげる。踵を反らせると、力強くセカンドステージへと踏み進んでいった。


(この女、思っていたより厄介かもな)


 ほんの短時間の間に、あのクラスの問題児をここまで改心させてしまうとは、一体どんな魔法をかけたというのか、ジェニファーは恐ろしいような気持ちになった。

 気弱そうに見えるのぞみだが、実技の成績評価には反映されない力を持っている。ジェニファーには、自分がチームリーダーになったことも、チームが一つにまとまったことも、のぞみの采配だとわかっていた。この「武器」が、彼女をいつかとんでもない化け物にするだろうと、ジェニファーは心の中だけで思った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

次のステージでは、のぞみたちが何やらでっかい物に追われるとか追われないとか……。

面白かったかも!という方はぜひぜひ、ブクマ・ご評価をお願いします!

ポチってくださることが何よりの励みになります!

引き続き連載しますので、よろしくお願いいたします。

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