114.実戦演習授業の始まり ①
間もなく、戦術実行論の実戦演習授業が始まった。
A組とE組の共同で行われるため、各クラスの心苗たちは、ハイニオスの東の山にあるダンジョン―ヘルマティヴにやってきていた。
雪解け水が滴り、古い石板の床と壁には青苔が生えている。ダンジョン内の光源は壁に設置された青い水晶石だけで、気温は外よりも高かった。
武操服に着替えたのぞみが、ダンジョンのあちこちの様子を見ている。まだ授業の始まらないうちから、藍は楽しげに、気合いの入った声でのぞみに話しかけた。
「このダンジョン、遺跡みたいに古いですね!」
のぞみは頷き、教養科目で学んだ知識を思い出す。
「たしか、まだ帝国が建国される前の時代から建設されはじめて、完成まで103年余りかかったということでしたね。一番深いところでは、地下1890ヘルト(1ヘルトは約1.2メートル)あります。こんな場所で行う戦術実行論の演習って、一体どんなことをするんでしょうね?」
ここは、近代の技術を導入した地下牢であり、実戦訓練施設として使われている。コントロール核の設定によって、ダンジョン内に通路や密室を作ったり、トラップの設置、細かな地形の変更など、自由に創造することができる。プログラムの設定次第では、ダミー魔獣の配置も可能だ。
修二は、どこかの情報屋から聞いた話を思い出し、目をピカピカに輝かせている。
「そんなことより、このダンジョンには昔の帝国の秘宝が隠されてるらしいぜ!課題のついでに宝も掘り出しちまおうぜ」
宝物を奪おうとする修二の話は聞き捨てならず、のぞみは振り向く。
「不破さん、それはルール違反ではないですか?そんな危険なことをしたら、場合によっては命を失いますよ?」
綾は呆れたように溜め息をついて腕組みし、のぞみとは違う角度から修二を責める。
「アホらしい。このダンジョンは学園創立以後、ずっと使われてるんや。たとえホンマに宝があったとしても、ずっと前の先輩らが先に見つけてるんやない?見つかったとしても中身は空っぽやろ。骨折り損になるだけやで」
「アハハ、二人とも生真面目だなぁ」
A組とE組の共同授業とは聞いていたが、私服の心苗や、三年生の武操服を着た人も続々とやってくる。
「私たちだけでなくて、先輩もいるんですね?」
藍の疑問を初音が受けた。
「実戦演習の授業では、人材探しのために上級生やどこかの団体に所属の人が見に来ることは、よくありますよね」
実際、そういう人々が実技演習の授業を見に来ることはよくあった。だが、いつも同じ顔ぶれだっただけに、真人も違和感を覚える。
「……本当に、それだけかな」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
これからダンジョンの突破にはトラブルが発生します。
これからは、本編前半の終わる前にクライマックスが言えるでしょう。
次回もよろしくお願いします。
ありがとうございした。