99.生き返って女子トーク
その時、藍とメリルが転送ゲートから駆けてくるのが見えた。
「のぞみさん!」
「可児ちゃんにメリルさん」
「大丈夫ですか?」
二人が来てくれたことにのぞみはホッとして、苦笑いを滲ませた。
「はい……。傷よりも体力的に辛いですが」
「無事なら良いヨン。あの状況で生き残るなんて、ノゾミちゃんは凄いヨン!」
「飛ぶのが一秒遅かったら、今頃どうなってたかわかりません……」
藍は先刻、のぞみがコミルと話しているところを見ていた。
「さっき話していたのはモクトツさんですよね?何かお話ししてたんですか?」
メリルが転送ゲートを振り返ると、ちょうど転送陣の光が消えたところだった。まだ実感がないのぞみは、ぼんやりとしたまま答える。
「えっと……手を組まないかと、言われました」
それだけ聞くと藍は、急に恋バナを始める女子のように目を輝かせた。
「え~っ?!なんでなんで!!まさか、ホミを結ぶ話ですか?」
ホミと勘違いされ、のぞみは焦ったように早口になった。
「違う違う。ミッション依頼を受けるための、サポーターのお誘いです!」
メリルも、「へ~!」と興味ありげだ。
「いつも血の匂いのついたコミルさんが自ら誰かを誘うなんて、珍しいことだヨン」
「そうなんですか?」
藍もメリルの意見に賛同するように頷いた。
「クラス評価だけを見て上や下と言い難い方かもしれませんね。皆はライさんや鄧さんと同じように頭脳派という評価をしていますが、実のところ、モクトツさんの実力ってよくわかりません。纏っている気も妙ですし、近付くと薄ら寒いような感じがして、謎の多い方です」
色眼鏡をかけずに人と付き合うのぞみは、相手の持つ空気感も素直に受け取る。自分の頬を触りながら、のぞみは先刻のことを思い出すと、無邪気に笑った。
「たしかに、モクトツさんはクールな人ですね」
「あまり人と深く付き合わない彼のことだヨン、ノゾミちゃんのこと、気に入ってるんだヨン!」
藍とメリルは盛りあがっていたが、自分の未熟さを心苦しく感じていたのぞみは、罰ゲームの方が気になっていた。
「それより、私はチャレンジに失敗しました。どんな罰ゲームになるんでしょうか?」
「豊臣先生は何を考えてるかよくわかりません。前学期でも同じ罰ゲームが二度、出てきたことはなかったですから。覚悟を決めて、受けるしかありません」
のぞみはヌティオスの言っていたことを思い出し、眉を下げる。
「スペシャル青汁くらいで済めば良いんですが……」
「それは一番ヤバいヨン!一杯飲んだだけで魂が抜かれるかと思うほどマズかったヨーン!!」
「そんなに酷いんですか?でも私は、恥ずかしい系の方が嫌です……」
「下ネタ系なら、しばらく感情を無にすればすぐに終わります。私も失敗したので、一緒に付いててあげますよ」
藍は罰ゲームの常連のように、達観した表情になった。その顔に、のぞみは藍の経験値を思った。
「でも、トヨトヨ猿のやることだから、ただの罰ゲームじゃないはずだヨン。きっと特別な意味があるはずだから、罰ゲームというよりは補習みたいなものだヨン」
「そうなんですか……」
「さ、戻ろう。二回目のチャレンジをする人たちが始めてますよ」
「えっ?二回目のチャレンジをする人もいるんですか!?」
一回でもうお腹いっぱいののぞみには、ほとんど体力が残っていない。二回目をやりたい人がいるということに、驚きを隠せなかった。