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「…………はぁ」
ライナスはため息を吐き出しながら座る。
頬杖を着いてカーマインを見ながらベルライナを顎で示した。
「今回の本題なんだけどよ」
「うん」
先程食べれなかったマフィンを再度ベルライナに渡し食べさせるカーマイン。
丁度空腹になっていたベルライナは口にチョコチップを付けながら食べている。
「口についてる」
「はっ!すみません」
「いいよ」
指で取るカーマインに頭を下げるベルライナ。
そんな2人にヒクヒクと口を引き攣らせながらライナスは話を続ける。
「あー……のよ、 今回の出場者が少ねーんだわ。お前んとこ出してくんねえか?」
「え?他のみんなは?」
「適齢期のヤツが多いだろ?妊娠してる奴多いんだわ。こいつもそうだし」
親指でローズを指さすライナスに、 カーマインは目を見開きベルライナは立ち上がった。
「ええ?妊娠してるの?……よく妊婦を立たせてたね。焼き菓子にも並ばせてたんでしょ?」
「別にいーだろ、 説教とか聞きたくねーよ」
「ローズさん、 こちらを」
2人がまた言い争いを始めそうな時、 ベルライナはローズに暖かなお茶を用意した。
「子を宿しているのに気付かずすみません。こちらをどうぞ」
「………………………」
「こちらは母体にはあまり良くない成分が入っていますので、 こちらを」
先程出したお茶を下げて新しいお茶を渡したベルライナは膝掛けを掛けてからクーフェンの隣に座る。
「……まぁ、 確かにこの状態では出場は無理だよね」
「だろ?ジーヴスが妊娠した場合は出場自体が禁止されてるからな。 だからよ、 頼むわ」
「……ベル」
「はいご主人様」
「……出場、 してくれるかい?」
「かしこまりました」
カーマインはいやいやながらにこれを受け入れベルライナの出場を決めた。
「いやぁ、 助かったわ」
「いいよ、 仕方ない事だし今まで任せっきりだったしね」
カーマインは焼き菓子を指先で摘んで口に入れた。
サクリと軽い口当たりに濃厚なバターの風味が口いっぱいに広がる。
カーマインの好みの味で、 摘んだ1枚はあっという間に無くなった。
「お前は?繁殖しねー?」
「するつもりはないかな」
「ふぅーん、 金くんのに」
ジーヴスが女性の場合、 約1年はあまり動けない。
その期間は助成金が払われるのだ。
そのお金で代わりのジーヴスを呼んでもいいし、 妊婦のジーヴスをそのまま使うリアルドもいる。
「番を見つけたのかい?」
「いんや、 めんどいだろ。店に連れてった」
「………そうなんだ」
はぁ…と息を吐くカーマインにライナスが眉をあげる。
「いいだろ?そっちの方が楽だし。ジーヴスに時間かけたくねーよ」
「君が決めたならいいんじゃないかい」
そんな2人のやり取りを ベルライナは静かに聞きローズは俯く。
出されたお茶をじっと睨みつけていた、 一口も飲むことなく。
「じゃ、 頼むわ。また日にちを改めて話し合いしよーぜ」
「わかったよ」
あれから一時間ほど雑談をしたライナスは手を振りカーマインの家を後にした。
ローズはチラリとベルライナを一瞥してからライナスの後を追う。
怒鳴られ震えている様子が伺え、 ベルライナはやるせない気持ちになった。
他のサクリファイスの事は、 たとえリアルドのカーマインでさえ咎めることは出来ない。
それが個人で行うジーヴスの教育に触れてしまうからだ。
「ベル、 中に入ろう」
「……はい」
ゆっくりと扉を閉めたベルライナ。
そんなベルライナをローズはもう一度振り返り目を細めて見つめたあと、 足早にライナスの後を追った。