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「………サテラ……どこぉ……」
涙に濡れるクーフェンは続々と帰ってくるジーヴスを見つめる。
ただでさえ小さなクーフェンは、人波におされてしまう。
サテライトが見つけられない。
泣きながらサテライトの名前を呼び続けるクーフェンにカーマインが気付いた。
ベルライナの手を引きクーフェンの元に行く。
そんなベルライナの表情は暗かった。
「クーフェン、 サテライトはいたかい?」
「カーマイン……いないんだ……ベルちゃん!!」
俯くベルライナを見たクーフェンは走りよりベルライナの両腕を掴み揺すった。
「ベルちゃん!サテライトは!?サテライトは見なかった!?」
「………クーフェン様」
「なんだい!?」
「………サテライトは見ていないのです」
静かに零れたベルライナの声に、 クーフェンは崩れ落ちた。
ベルライナは慌ててクーフェンを支えるが、 既に焦点が合っていないクーフェンの涙から涙がとめどなく流れている。
「クーフェン様………」
「…………サテラ………どこ?」
「………………ベルが致命傷を受けて意識が無くなった時まで一緒にいたのですが、 それ以降サテライトには会えないでいました」
「……………………っどうしてさ!!サテラと一緒にいてって言ったじゃないか!!サテラと……」
「クーフェン……落ち着いてよ…」
「どうやって落ち着けって!?サテラが居ないんだよ!ベルちゃんは帰ってきているのにどうしてサテラが居ないのさ!!」
「………………すみませ………」
「ベルが悪いんじゃないよ」
ベルライナが謝ろうとした時、 カーマインが止める。
これは戦いだった。
ベルライナが帰ってこなかった可能性だってある。
誰も、 悪くないのだ。
しかし、 今のクーフェンには誰かのせいにしないと心が折れてしまう。
酷いことを言ってるのもわかっていたし、 ベルライナが泣いているのもわかってる。
それでも、 この激情をどうすることもできなかった。
「………………………」
「ベル、 仕方なかったんだよ。」
「………はい」
2人は手を繋ぎ小高い丘にある家へと目指す。
2人の大切な家へと。
クーフェンは泣き腫らした目をしたまま気力を全て無くしてフラフラと自宅に帰って行ったクーフェンの後ろ姿が2人の脳裏に過ぎる。
結局あれから何も話さないクーフェンは泣き疲れ、 帰ると一言言ったあとフラフラと歩いていった。
「……………大丈夫だよ、 落ち着いた頃にクーフェンの所に行ってみるからね。俺も気になるし。だからベル、 割り切れないかもしれないけどクーフェンを怒らないでやって。…………ベルが帰ってこなかったら俺もああなってた」
「………はい、 わかっております」
クーフェンの落胆ぶりは凄まじかった。
もしベルライナが同じ立場だったら、 カーマインが帰ってこなかったらきっと同じ。
しかも、 帰らないサテライトに心を痛めているクーフェンの前で帰還を喜ぶ人達が沢山いるのだ。
その心が荒れるのは想像しやすいだろう。
「…………それでも俺は、 ベルが帰ってきてくれて嬉しいんだ」
「ベルも……ベルも帰りたくて帰りたくて………」
カーマインの手に力が籠る。
もう家も目の前だ。
カーマインはベルライナの手を引きながら走り出し帰宅した。
玄関を乱暴に開けてベルライナを無理やり家に入れたカーマインは扉を閉める事すら忘れベルライナを抱きしめた。
力を込め、 これ以上ないくらいに。
「……も………限界………ベル…ベルライナ……大好き」
「カーマイン……様……」
「ベルが行ってしまってから怖くてたまらなかった。ベルは帰ってくるって言い続けないと不安で押しつぶされそうで……」
「…………ベルも、 戦いながら思うことはカーマイン様の元へ帰る事だけでした。……ベルはカーマイン様が大好きです、 愛しくおもうのです。ベルは短い命を、 人生を………カーマイン様の隣で過ごしたいのです」
「っ…………ベル、 大好き……愛してる」
「どうしましょう…………ベルは……嬉しすぎてどうすればいいですか……」
まさか、 カーマイン様がベルを……
そう思っていたら、 カーマインの額がベルライナの額に触れる。
間近で見つめ合う2人の瞳には涙が浮かんでいて、 それでいて嬉しそうに微笑んだ。
「……なにも……ベルは俺の隣で笑ってなよ……ずっと……命の火が消えるその日まで」
「は………い……」
とうとう涙を零したベルライナの涙を舐め取り、 頬に優しく口付けた。




